∮-36、 王と王妃と寵妃
ルムランと言う毒花がある。
その花は単体では猛毒なのだが、双花月樹になる薄青い花と組み合わせる事により、眠り薬や神経痛に有効な薬にもなる事から、私はべネディールから輿入れの際、密かに持ち込み、北の塔に移り住んだ事を良い事に、内密に庭の片隅に植え、育てていた。
とは言え、北の塔へともに移り住んだ二ーナやアマンダ、そしてアーランドに二人の護衛騎士にだけにはその猛毒である花を庭で育てている事は事前に報告済みだった。
何故ならばそうでもなければうっかり花弁の美しさに惹かれ、その毒花を摘もうものなら、茎を手折る際に滲み出る花の汁だけで失明してしまう恐ろしさを持つからだ。それに花粉には呼吸困難を誘発する成分が僅かながらにあるので、新入りである子供達にも絶対近寄らない様に言い聞かせてもあった。
その毒花がまさかあらぬ疑いを呼び寄せるとは知らずに。
朝の祈りも終え、質素だが栄養のある朝食を済ませた頃、俄かに食堂の入り口付近が騒がしくなり、それを訝しく思ったアマンダが護衛の騎士を誰何しようかとした時だった。
破裂音にも似た激しい音を立て開かれた食堂の扉は、その衝撃から歪んでしまい、不格好になってしまっていた。これは後で修理しなければ使えない。全く、誰が修理すると思っているのだろうか、この国王は・・・。
私のあからさまな非難がましい溜息は、乱入者たる人物の神経を逆撫でしてしまったらしい。その証拠に幾分かいつもより口調が荒かった。
「良くもそんな涼しい顔色をしていられるものだな。」
淡々としている分だけ恐ろしさは感じはしたが、何かを期待する事を止めた私には、それ以外特に何も感じられずに、逆に煩わしさと失望感さえ感じられた。
この人は本当に私のことなど何も見ていない・・・。
口を開けば私を非難するか、苛立ちをぶつけるか。
そして、
「聞いてるのか?お前は本当に側妃の欠片も可愛げがないな。――あァ、喜べ、」
一旦そこで言葉を区切った王は、次の瞬間、目も止まらぬ速さで、私の首筋に帯剣していた剣を突き付け、獰猛な瞳に狂気の光を宿し、私に歪んだ笑みを向けた。
その狂気の笑みには、何か悲しみさえ感じられたが、次の瞬間、王から齎された言葉で、私は何も考えられなくなった。
「え・・・?」
「惚けるつもりか。側妃はお前が贈った薬を飲んだ直後、子を流したのだ!!」
「子を、流した?薬?」
急激に齎された情報は、私を混乱させ、言葉もしどろもどろにさせたが、王にはそれさえ私の企みだと感じたのだろう。
故に・・・。
――ザシュッッ・・・
パラパラと散る、ストロヴェリーブロンドの髪。
それが自分の髪だと理解するまで、酷く時間が掛った。
私は声の限り叫んだのかも知れない。
嘆いたのかもしれない。
けれど、確実に憶えているのは・・・。
「これでお前は当分は外には出られない。王族殺しの罪を購うが良い。側妃はお前さえ頭を下げれば赦すらしい。心優しい側妃に感謝するのだな」
私についていた護衛騎士に閉じ込めておけと厳命する声と、私の言葉も聞こうともしない、視野の狭い男の背中だけだった。




