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∮-1、 ★王妃からの手紙

 ――親愛なるシェルランド国王陛下へ


 貴方様がこの手紙に目を通しているという事は、全てが恙無く終わったと言う事なのですね。

 ですが願わくば、侍女の二ーナだけは処刑される事無く、生き長らえる事が出来ますよう、宜しくお願い致します。


 私が今までしてきた事は、決して許されるモノではありません。それが例え腐敗している貴族を炙り出す手段だとしても、私は多くの国民の血税を娯楽や享楽の類につぎ込み、民や国土を疲弊させてしまいました。


 私とて解っていたのです。


 パンが買えなければ、その原料でもある麦やミルクも買えない事も。増してやパンより高いお菓子が買えない事も。


 ですが、私がそんな馬鹿な事を言わなければ、やらなければ、今以上にこの国は傾いた事でしょう。


 許して下さいとは言いません。いえ、言えません。

 私がやってきた事は、許されざる悪行の数々です。


 私の処刑が済んだ後は、ルネーシア様を即座に王妃様にお迎えし、私が傾けた国庫をいち早く回復される事を願います。



                         最初で最期の愛を込めて、マリア・ベルトレリア――



 遅かった。

 遅すぎたのだ。

 全てが遅過ぎたのだ。


 王妃が処刑される時刻とほぼ同時刻、王妃が幽閉されていた北の塔の最上階から身を投げた、最後まで王妃付きの侍女だった二ーナと言う女性。

 まるで己の主はこれから処刑される王妃しかいないと多くの国民に知らしめるかの様に一切の躊躇いもなく身を投げる姿は、確かに多くの民達の目には触れはしたが、民達はそんな侍女の必死の想いすら認めなかったばかりか、これであの女も終わりだと歓喜すらした。


 だが侍女は願い虚しくも命を取り留めてしまい、今も昏々と眠り続けていて、意識が戻る気配さえ見られない。


 正直、何故そこまであの王妃に忠誠を誓えるのだと、当の侍女を疑ってはいたが、この手紙の内容と、先程調べ上げたばかりの報告書が事実であるのならば、間違いなく俺達は大きな間違いを犯したことになる。


 事実、王妃が好んで身に着けていた宝飾品の数々は、報告書に目を通した直後、直に王命を出し、王立宝石鑑定所の第一級鑑定士に認定されている人物に鑑定させた所、ガラス玉であり、全くの偽物だった。


 そこに偶然居合わせた布地商の店主は、その偽物の宝石を見ただけで、持ち主を当てて見せ、彼女はどうしてるかと一介の騎士に変装している俺の側近に気安く尋ねてきたと言う。

 その側近曰く、布地商の主は快活な笑みを浮かべながらも、しきりに王妃の事を案じていたらしく。


『いやぁー、ご注文の手直しが遅くなり、大変申し訳ありませんでした。何せあのお客様が私どもに手直しを求められましたのは、私どもが滅多に触る事の出来ない一級品の絹地のドレスです。お陰様を持ちまして他国との商人とも契約が結べましたがな。それにしてもベル様はいつお食事をなさっておられるのでしょうかな。年々、お身体の線が細くなっているようにお見受け致しますが・・・。』


 真意の窺えようがない隙の無い笑みを浮かべ、側近の態度を事細かく注視していたとの暗部からの報告には、雷撃を受けた様な感覚さえした。


 序だから店に寄って、手直ししたそれを持って行ってくれ、と、頼まれた時には、店の主が身を案じていた彼女は既に幽閉されており、事実上の王妃はいつの間にやらルネーシアとなっていた。


 今更、真実に気がついたとしても、最早手遅れだ。

 偽りは真実となり、真実は偽りとなり、国の闇へと葬られる道しか残されていない。


「許してくれ、マリー。至らなかった俺を許してくれ。」


 王妃だった彼女が、恐らく幽閉された北の塔で書き綴った、最初で最後の手紙を両手で鷲掴んだ時、地響きのような民の歓喜する声がここまで轟いてきた。


 それの示す意味は、ただ一つ。


 あぁ、俺はもう彼女とは会えないのだ。

 あの寂しげな笑みを見る事も、耳に心地よい歌も聞く事もなければ、戯れにからかう事も、抱き寄せて眠ることも永遠に出来ないのだ。


 その事実を改めて理解した瞬間、俺は彼女が国民の前で公開処刑される広場へと、自然と駆け出していた。

 全ては王妃である彼女に赦して貰う為に。



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