∮-14、 ★心なき王妃
寵姫・ルネーシア視点
――精々、その貧相な身体で陛下をお慰めするのね・・・。
私の出自は零落したとはいえ、大陸一の権勢を誇るシェルランド国の古くから続く伯爵家です。その伯爵家の当主を務めているのが私のお父様なのですが、お父様は出世に意欲が無く、争い事を好まない事から、常に政治の表舞台から一歩引いています。
そんなお父様の背中を見て、尊敬して育ってきた私は、人を敬う事はしても、徒に人を傷付ける様な発言は控えて来ました。
だって考えてみても下さい。
人と争ったとて一体何を得られるというのでしょう。
罵り、誹り、妬むことでは、何も得られないではないですか。
だというのに、今、私の目の前に居らっしゃる、名実ともに全てが完璧なこの国の国王陛下のご正妃様でいらっしゃる王妃様は、王妃様の出自が王家であるというだけで、私の事を娼婦の様に誹ったのです。
なんと心なき王妃様なのでしょう。
なんてお可哀想な方なのでしょう。
きっとあの方は心の底から愛しく思える方とまだ巡り逢えていらっしゃらないのでしょう。だから、あんなにも冷たい瞳で、笑みを浮かべられるのです。
それはどんなにお寂しく、お可哀想な事でしょう。政略とはいえ、陛下に王妃様にと望まれた方です。きっとこれから愛をお知りになれば、王妃様はお変りになるはずです。
私は意識して顔を上げ、王妃様と真正面から向き合い、後宮に入ってから付けて貰った教師達から教わった略礼をしてから言葉を紡ぎました。
「お初目におかかり申し上げます。私は「あら、貴女は、一体何処の誰の許しを得て、私に直接言葉を掛けてるの?私は許可した憶えはなくてよ?」
ですが、それは敢え無く王妃様本人から遮られてしまいました。――なんて傲慢な方なのでしょうか。この国は確かに身分制ですが、そこまで厳しく制限されていない筈です。ですのに、今日ご即位成されたばかりの王妃様は。
「宜しくて?私はこの国の王妃であり、誇り高きべネディールの王女。ですが貴女は落ちぶれた、しがない貧乏な貴族の娘。後宮の主は貴女ではなく、この私よ。――二ーナ、アーランド、帰るわよ。ここは不愉快だわ。」
位高げに宣言し、序でにと謂わんばかりに使用人の名を呼び、片目を剣傷で失ったどこか見覚えのある青年に手をお預けになられると、陛下にすら頭を下げずに、正妃様のお言葉で異様な雰囲気に支配されてしまった王宮の大広間から出て行かれました。
暫くは誰も何も動けず、反応など出来えませんでした。
ですが、やがて。
「っくくく、面白い。やはり妃は妃だ。」
喉の奥底から漏れ出す様な、押し殺した、ある意味、愉悦に溢れた国王陛下の言葉で、固まっていた世界はまた動き始めました。
私は知りません、知らなかったのです。
ですからあんなにも無知でいられたのです。
ただただ、愛しい方の傍に居たかった故に、私はいつしか願ってしまったのです。
あの様な恐ろしい事を・・・。