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∮-11、 即位式当日

時は流れ――

 つい先日、私がこの憎き敵国に嫁してきて、無事4年目を迎えた。その間、特にコレと言った変化や問題は、どうやら表向きはなかったことにされているらしい。


 相も変わらず陛下との間には大きくも分厚い、決して壊れない屈強な壁が建っていて、最近では両国の表面上の為に大切な歩み寄ろうという気概すら保てなくなってきている。それでも陛下は私以外を王妃に据える事を考えてはいないのか、度重なる家臣たちからの要望を棄却し続け、己らの娘達を正妃にと願う貴族達には耳も傾けようとしなかった。

 

 そんな中、とある零落貴族の娘だけが、陛下の頑なな心を解し、深く熱心な寵愛を受けていた。

 その娘こそが私の生涯の壁となり、私が処刑されることに繋がる娘・寵妃ルネーシア・ハドソン嬢だ。彼女が陛下の後宮に入ってきたのは昨年の春の事で、家族を養う為に自ら後宮へと上がり、【望まず、願わず、口出さず、媚び過ぎない】態度で、血と憎しみと憎悪に満ちたこの後宮で聖女の様に守られている。


 一方、属国扱いの国から嫁がされてきた私はと言えば、その娘とは正反対で、陛下と顔を合わせれば、嘗て異父兄を守る為、助ける為、調印せざるを得なく、失意のうちに手放してしまった領地の返還を願い、母国の立太子式典に参加したいのだと何度もしつこく願い続け、この度漸くシェルランドでの女性の成人の年を迎え、王妃の位に就く事で何とか領地の奪還は叶った。


 あの日から約四年

 その日から私の領地の民には過酷ともいえる税金や、苦労を掛けてしまっていた。戦を好まず、平和と平穏を愛し、家族と変わらない毎日を過ごせることを幸福としてきた人達にとって、望まぬ争いや、それに伴う徴兵や、凌辱はどんなに辛く悲しく厳しかったことだろうか。


 でも、それも今日で終わりを告げる。暫くは傷を癒やし、荒廃した土地を回復させる為、税を幾らか緩和するか免除をし、領内の整備や防御にも力を注がなければ。さもなくば、私が願い、民達が望む以前の暮らしは帰って来ないだろう。


「お妃さま、素敵ですわ。」


 ふっ、と、瞑想に老けていた私に掛けられた賞賛の声音に、意識を思考の縁から浮上させ、目の前の鏡を覗き込めば、そこには確かに自分でも美しいと思える女性がいた。けれどその女性にはあの陛下が寵愛する娘の様な柔らかで温かみのある、慈母の様で聖女のようでもある微笑みは似合わない。


 もし浮かべるとしたら、人を悪しざまに罵る悪女の様な真意を決して見せない、悟らせない、凍てついた笑みと残酷なモノだけだろう。


「お妃さま、お妃さまには私がおります。誰がお妃さまを悪しざまに罵ろうと、私だけは生涯お妃さまのお傍におります。」


「ありがとう、二ーナ。お前は物好きね?」


 クスクスと二ーナの物言いに幾分か気分が浮上し、微笑んでいると、そこにふわりと体重を感じさせずに、天井から一人の人影が降りて来た。

 その人影は片目こそはなかったが、それでもなお満面の笑みと窺えるモノをもう片方の瞳に宿していた。


 彼のいつもの唐突な出現は、今でこそは馴れたが、最初の頃は私はいつもドキドキしていてた。二ーナは二ーナで彼の存在を何故か彼女らしからぬ随分と邪険な態度で振る舞っていた。


 その理由は。


「また貴方ですの!?アーランド!!貴方、お妃さまの命を狙っておきながら、良くも飄々とお妃さまの御前に姿を現わせられるわね!?その図太い神経が羨ましくて仕様がありませんわ。」


「相変わらずキャンキャン良く吠える犬だな。ちったぁーお妃さまの爪でも煎じて飲んでみろよ。少しはその喧しい口答えも減るんじゃないか?ねぇ、我が主殿?」


 恭しく私の手の甲に口付け、艶めいた笑みを向けてくるのは、誰であろう、私を4年前のあの日に暗殺しにきた侵入者たる男だ。

 彼は何をトチ狂ったのか、暗殺対象である私に忠誠を誓い、その場で組織から抜けてきたのだと語った。そして私に惚れたのだとサラリと口にして、自分を私の側近にしてくれと頭を下げ、今日に至る。


 二ーナとしては自分こそが私の側近で、彼は彼で自分こそが私の側近に相応しいと言い張るので、いつもこの時だけは私の部屋は明るくて、楽しい雰囲気に包まれているような気がする。


 つまり、二人はある意味同族嫌悪者なのかもしれない。


「リーベル、忘れるな。二ーナが裏切っても俺だけはアンタを裏切らない。」


「・・・っく、」


 歯噛みし、今にもアーランドに食いつきそうな二ーナを片手で抑えつけながらも、4年前に私を殺そうとした男は、真剣そのもので、私はその想いを受け取った代わりに、彼にも笑みを返した。


「全く、貴方も二ーナも、本当に変わりモノね。後悔しても知らなくてよ?」


「御意。」


「お妃さま。」


 こうして私はこの日、王妃の地位に就く日に、生涯の友人ともいえる二人を手に入れたのだった。

 

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