第六話:部活2
「えっと、改めまして! 魔法創作部は君たち二人を大歓迎します! じゃ、まずは自己紹介から。私は三年生のエレナ。この魔法創作部の部長をやっています。趣味は魔法創作と科学実験! 私は終わり! じゃあ、そっちの白髪の子からどうぞ!」
「僕はアルカナ。一年生です。趣味は読書で、ホラー以外ならジャンルは問いません。次は、どうぞ」
「俺はフルード。アルカナと同じ一年生です。趣味は……特にありません」
「アルカナ君とフルード君ね! ふたりは、このまま魔法創作部に入部してくれるのかな?」
「はい。そのつもりでここに来ました」
「僕も、ここでやりたいことがありますから」
二人で頷くと、エレナ先輩は満足そうに口元を緩めた。
「よし! じゃあ入部してくれたお礼に、いいものをあげちゃおう!」
そう言うと、先輩は部屋の隅にある棚をガサゴソとあさり始めた。取り出してきたのは、何やら複雑な紋様が書かれた二枚の紙だった。
「じゃじゃーん! これは『魔法カード』! この紙に書かれている紋様によって、色んな魔法が使えるアイテムだよ。使い方は簡単、紙に魔力を与えるだけ」
先輩の説明を聞き、アルカナは淡々と論理的な疑問を投げかける。
「……それって、意味があるんですか? 僕たちには自分の魔法回路があります。わざわざそんな紙を使わなくてもその魔法は使えますし、発動に魔力が必要なら、魔法を使えない人にも扱えないですよね」
(……容赦ないな。だが、アルカナの言う通りだ)
俺も心の中で納得しかけたが、エレナ先輩は気にした様子もなく言った。
「ふふん、確かにアルカナ君の言う通り! だけどね、これには凄い仕掛けがあるんだよ。この紙に刻まれた紋様……これはね、記憶されている魔法と『必要な魔法回路数』が書かれているの。回路数によって使える魔法の階級が決まるのは授業で習ったでしょ? ここまで言えば分かるかな?」
その言葉に、俺とアルカナの視線がわずかに鋭くなった。
「……使用者の魔法回路数に依存しない、ということですか」
「その通り! まあ……まだ研究途中で、中級魔法までしかできてないんだけどね」
(回路数に関係なく魔法を起動させる媒体……。もし実用化されれば、戦力差の前提が崩れるな)
「これ、先輩が?」
「そんなわけないでしょ! これは学校の創設者であり、軍の最高指揮官『バルキザス』様によって発明されたものだよ。この部活を立ち上げた時に譲り受けたんだ。一枚作るだけでも凄まじい魔力量と回路数、魔法への理解がいる。私がこれ一枚を再現するのに、丸一年かかったんだから」
「そんなものを、俺たちにくれるんですか」
「うん! だって君たちが来なかったら、この部活、来年には廃部になってたしね。いま部員、三年生の私一人しかいないからさ」
悪びれもなく言う先輩から、俺たちは紙を受け取った。
「じゃあ、ありがたくもらいます。早速使ってみてもいいですか?」
「いいけど、これ二人で一組の魔法だからね」
先輩はアルカナに同じものを渡し、俺から少し離れた場所に移動させた。
「じゃあ使ってみて。中級魔法だから、結構魔力を持っていかれると思うけど」
俺とアルカナは手にした紙に魔力を流し込んだ。
(……くっ、一気に持っていかれるな)
頭にわずかなふらつきを感じる。チラリとアルカナを見ると、彼は眉一つ動かさずに立っていた。
彼の固有魔法は『魔力圧縮』だ。元々の魔力保有量そのものが俺とは違うのだろう。
魔法を発動させたものの、体に変化はなく、紙から現象が引き起こされる様子もなかった。
「フルード君、ふらついてたけど大丈夫?」
「はい。思っていた以上に魔力消費が……」
俺が答えかけたその時、耳元ではなく、すぐ近くの空間からアルカナの声が響いた。
『アルカナ、お前も何か話してくれ』
(……なるほど、そういうことか)
音の出所を察した俺を見て、遠くにいるアルカナもすぐに察したように口を開く。
『わかった。あーーーー』
自分の声とアルカナの声が、双方の周囲から重なって聞こえていた。
「これは『遠隔通話』だよ。同じペア同士で遠隔で話すことができる魔法。紙の場合は一分程度で切れるから」
一分が経過すると音声は途切れ、手元にあった紙はサラサラと灰になって消え去った。
(一年かかった代物が、わずか一分で灰か……)
消え残った灰を見つめながら、俺は疑問を投げかけた。
「……どうしてこれ、灰になって消えるんですか? 繰り返し使えるように強度を上げる工夫はできないんでしょうか」
エレナ先輩は黒板に向かい、チョークで簡単な回路図を描きながら振り向いた。
「いい着眼点だね。結論から言うと、この紙に書かれた紋様は『使い捨ての人工予備回路』だからなんだよ」
先輩はチョークで回路図をなぞる。
「魔法を発動するには、一定の魔法回路数が絶対に必要だよね。でもこのカードは、使用者自身の回路を使わずに、紙に書き込んだ人工の回路を代わりに通過させることで魔法を起動させているの。いわば、一時的な外部バッテリーみたいなものだね。……ただし、人工で作った回路は脆い。魔力を流し続けて一分も経つと、負荷に耐え切れなくなって予備回路自体が崩壊するんだ」
「回路が崩壊すると……流し込んでいた魔力が逃げ場を失う、ということですか」
「その通り、フルード君。行き場を失った魔力がその場で暴走を起こして熱を発し、媒体である紙ごと焼き尽くして灰になる。これがカードが消える仕組みだよ」
理屈は通っていた。だが、隣で聞いていたアルカナが静かに問いを重ねる。
「……なら、崩壊しないように『本物の生きている魔法回路』を組み込めば永続化できるのでは? 覚醒者の身体構造を模倣した永続的な回路なら、過度な使い方をしない限り暴走も起きないはずです」
アルカナの鋭い指摘に、エレナ先輩の表情から軽さが消えた。
「それは、二つの理由から絶対にやっちゃダメな禁忌なんだよ」
先輩は指を一本立てた。
「一つ目は、『二重覚醒による暴走死』のリスク。授業でも習ったと思うけど、魔法の覚醒条件は『魔力を帯びていて、意思を持たない物』に触れることだ。もしカードに『生きている魔法回路』なんて高度なものを組み込んだら、それを使った瞬間、使用者の体内で『二人目の固有魔法の覚醒判定』が起きちゃうの。結果は言わなくても分かるよね? 許容量を超えて体が耐え切れず、即座に魔法が暴走して死ぬよ」
先輩は二本目の指を立て、さらに声を低くした。
「そして二つ目……そもそも『生きている魔法回路』をどうやって用意するかって話だよ。そんなものが欲しいなら、魔法を使える人間やアストロフの腕を切り落として加工するしかないでしょ? そんな猟奇的な手段、軍でも絶対に使わない」
「……なるほど。だから、あえて使い捨てになるリスクを負ってでも、安全に作れる『人工の予備回路』を使っているわけですね」
「正解。安全と倫理を守りながら、回路数の制限を疑似的に突破するための苦肉の策ってわけさ」
俺とアルカナは深く納得した。バルキザスという男がどれほど精密な計算のもとでこの「魔法カード」を設計したのかが、はっきりと理解できた。
「よし! 理解できたところで、さっきのお試しのお礼にもう一枚ずつあげちゃう! それと最後に部活の説明ね。この部活は基本毎日あります。参加は自由で、大したイベントもないから。やることは新しい魔法の創造と魔法カードの製作。今日は色々あって疲れただろうから、もう終わりにしよう。明日から頑張るように。というわけで部活終了、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました」」
俺たちは短く礼をし、部室をあとにした。




