開幕
「俺をクビにしたこと、後悔させてやるからな。お前らよりも立派になって、見返してやるから覚悟しとけよ!」
そう啖呵を切った瞬間、身長170センチそこらの俺は、警備の巨漢に軽々と持ち上げられた。そのまま入口に放り出され、ブラックリスト入りのお達しと共に、錬金術師ギルドからの追放が確定する。
俺の錬金術は、派手な発光とミステリアスな煙を売りにした、実用性より見た目重視のエンタメ寄りコンテンツだ。作るアイテムがどんなに下位ランクでも、「もしかしたら大成功レベル以上のモノが出来るんじゃないか?」というドキドキとワクワクを提供し、それっぽい雰囲気の品をお届けするのが俺の流儀……だった。
……なのにだ。昨今のギルドは、ビシッとスーツを着込んで格式ばったり、やれ報告書の体裁だの、やれ敬語を使えだの。錬金術の原点って、見る者を感動させるコトだろ? そんなの、本当に必要なのか? 時代のせいなのか、それとも単に俺が老けただけなのか。
土手の斜面に腰を下ろし、あぐらを組む。手近な小石を一つ、川に向かって投げ入れた。
「……やってられるかよ、チクショウ。」
彼らは忘れている。いや、覚えようとしていない。錬金術は単なる生産技術じゃない。子供たちの瞳に星を灯し、手のひらで花を咲かせ、空に金の魚を泳がせることこそが、本来の術の在り方だ。そして、かつて子供だった大人たちに、あの頃みたいに無邪気に笑ってもらいたい。その上で、客が投げてくれた銅貨の一枚一枚が、俺にとっては何よりも価値ある“賢者の石”なんだ。
「あーあ……もう錬金術師なんて辞めた。これからどうしようかなぁ……」
背伸びをして、芝生の上に寝転がる。すると、土手の上から、ひそひそと楽しげな話し声が降ってきた。
「兄貴、兄貴! これ、結構金稼げやすぜ?」
「いきなりどうした。そのニヤケ面、気持ち悪いぞ。」
「へへっ、実は最近こんなもんを入手しやしてねぇ……」
「なっ、それは……! まさかシャリシャリゼリー!?」
「そうそう! 一個170円で買える、ちょいお高めの夏季限定レアリティ品でさぁ。口に入れた瞬間のシャキッとした冷たさと、あとから広がるスッキリ感がたまらねぇんですよ!」
――ほーん。シャリシャリゼリーねぇ。
寝転んだまま空を見上げる。季節は確かに変わりつつある。商売を始めるなら、今かもしれない。
……何より、あの堅苦しいギルドじゃ絶対に扱わないような、馬鹿馬鹿しくて楽しいアイテムってのが、妙に心に引っかかった。
俺は空を見上げたまま、口元だけで笑った。
「ギルドの連中は、俺の錬金術を『三文芝居』だと笑った。つまり、価値がねえって意味だ。」
ごろりと寝返りを打ち、土手の草をむしりながら呟く。
「でもな、三文芝居にだって、三文芝居の良さがあるんだよ。格式も堅苦しさもない。ただ、見た人が『あっ!』って驚いて、『ははっ!』って笑える。それだけで十分だ。」
俺は勢いよく跳ね起きた。
「よし、決めた。これからの俺の看板は『三文芝居の錬金術師』だ。あのクソ真面目なギルドが一番嫌がる名前を、堂々と掲げてやる。」
背丈の半分ほどの流木を探しだすと、手近な石で文字を刻み、それを適当な土にドスンと立てる。
『入場無料・あなたの笑いを頂戴します。本日は…幻の夏季限定品シャリシャリゼリー、錬金してみた』
「さあて、まずは一席。誰もいないけどな!」
そう言って俺は、空っぽの観客席に向かって、深々とお辞儀をした。




