バック難波
「高柳さん。いつも言ってますよね。相談してって」
「はい、すみません」
これで何度目でしょうか。勝手な暴走で周囲の人から怒られたのは。
あぁ、自己紹介が遅れましたね。皆様初めまして。私の名前は高柳美和子と申します。
私は現在、梅田の中之島に構える小さな旅行代理店の事務所にて、企画部の社員として務めさせていただいております。
バリバリのキャリアウーマン……に憧れていたのですが、蓋を開けてみれば万年最下位のダメリーマン。未だに平社員で、今の私の教育係は一年後輩の松下さん。先ほど私を叱っていた方です。
「田丸さんが同じようなケースで同じようなことを行っていたので、これでいいのかと思いまして」
「状況によって行動は変わりますから。何年この仕事やっているんですか?」
少々言葉はきつい方ですが、仕事ができない私が悪いのでグッと堪えます。
幸い、今いる場所はオフィスの一角で、私と松下さんしかいません。松下さんの呆れたような表情が、申し訳なさを増長させます。
「すみません」
本日のやらかしは、別に隠蔽でも怒らせたわけでもありません。ただ、情報の共有をリアルタイムで行わなかったことが、現場の混乱を招く可能性があることを注意されました。
松下さんは「責任取るのは自分なんですから、気を付けてください」と言い残し、そのまま自分のオフィスに帰っていきました。
松下さんは私よりも年下なのに、どうしてあんなにもしっかりしていらっしゃるんでしょうか。思うに、脳回路の出来が違うとしか考えられません。
落ち込んでいると、正面から声を掛けられました。とても優しくて、心地よさそうな声です。
「お疲れ。また怒られてたね」
「お疲れ様です。八木主任」
私の同期でエリートの八木さん。同じ企画部に所属しているのに、一年足らずで昇格したバリバリのキャリアウーマンです。
「主任なんていらないよ、同じ期の仲間でしょ」
八木さんは軽快に笑います。だけど、この笑顔が三年間で身につけたビジネス笑顔だということを、私は知っています。
それでも、八木さんと仲悪くする気はないので、私も愛想笑いを振り絞りました。
「まぁ、こういうこともあるって。私だってよく失敗してるから」
そうして八木さんは自分語りを始めました。今の仕事の進捗の話。先日係長に詰めが甘いと怒られた話。自分の企画が僅差でコンペに負けた話。
……そのすべてが自慢話に聞こえるのは、私の性格が腐っているからでしょうか。
「あ、そうだ」
自慢話を終えた八木さんは、唐突に話を変えてきました。
「今度の日曜さ、難波で辞めた子たちと集まって同期会あるんだけど、美和子返事貰ってないよ」
……それは、嫌みかなにかなんでしょうか。
私の同期には営業やコールセンター室で働いている方もいます。全員バリバリで、結果も残されているみたいです。
「ごめん、その日は家族と外食するから」
私はとっさに嘘をつきました。社会人は嘘をつかずに誠実に生きることが求められていますが、ここでは方便になると思います。
それを聞くなり八木さんは、とても安心したような表情を浮かべていました。
「分かった、じゃあ美和子だけ欠席ね。残念だな、みんなで集まる予定だったのに」
八木さんは本当に社交辞令がうまくなりました。私は未だに気が抜けると、建前を忘れてしまいますから。
そして八木さんは、そのままオフィスに戻っていきました。




