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#02 無人の戦場

 戦場には、兵士たちの声があった。

怒号、銃声、そして悲鳴。

焦げた金属の匂いが風に混じり、焼けた大地が熱を放つ。

国のためか、生きるためか——戦場に駆り出された彼らは、同じ種に生まれながら互いを憎み、殺し合った。

地獄だ。

だが、その地獄にしか、居場所を見出せない者もいた。

 かつて戦場では、人間が人型兵器《Combat Flame Series〈C-フレーム〉》に搭乗し、生体共鳴制御システムを介して、自らと機体を一体化させていた。

平均全高はおよそ五.五メートル。

その外装は滑らかとは程遠く、溶接の跡や焼け焦げた装甲がむき出しのまま残っている。

関節部は油と熱で黒ずみ、戦場の灰をまとって鈍く光っていた。

装甲の隙間から覗く駆動フレームが唸りを上げ、動くたびに油圧シリンダーと金属線維が生物のように収縮する。

それは美しさとは無縁だが、確かに“生きているように”見えた。

パイロットは専用の共鳴スーツを着用する。

全身を包み込むそのスーツは、筋肉や神経から発せられる微弱な電気信号を読み取り、C-フレーム内部の共鳴コアへと伝える。同時に、機体側のセンサーからのフィードバックがスーツを通じて人体に還流する。

圧力、振動、衝撃── それらはパイロットの全身を走り、装甲の軋みも、外殻を貫く弾丸の感触すらも、生々しく伝わった。

 パイロットとC-フレームがリンクした瞬間、

それは単なる鉄塊ではなく、“人そのもの”となる。高密度合金で組まれた駆動骨格が“骨”となり、

人工筋束ケーブルと油圧シリンダーが“筋肉”となり

生体共鳴スーツを通じて伝わる信号が、“神経”になる。パイロットの心拍が機体を震わせ、呼吸が動力へと変わる。五感までもが機体と共有される。

砂嵐で塞がれる視界、爆風の衝撃、銃弾がかすめる音、焦げた金属の匂い──

それらすべてを、C-フレームの中で「自分の感覚」として感じ取る。

指を動かすより早く、意志が生まれるより先に、機体が動き、撃ち、跳ぶ。

それはもはや操縦ではなく、生理的反射の延長だった。

C-フレームは、“人間が自らの限界を外骨格で拡張した存在”。

人と機械が完全に一体となったその兵器は、‘’人が戦っていた時代‘’の象徴だった。

兵士たちは命を懸け、汗と恐怖と誇りを混ぜながら戦い、国家の意思を遂行した。

だが、それも過去の話だ。


 鉄と血が響き合っていた大地には、もう決して血が流れることは無い。

今はもう、戦場に“心拍”は存在しないのだから。


 ──六年前。

国際協定により、人間の戦争への投入は禁止された。

“もう二度と、人が人を殺すために立つことのないように”

それは、誰もが待ち望んだはずの「平和への一歩」だった。

だが現実は、戦う“手”が人間から機械へと置き換わっただけだ。


 今の戦場には、人の姿はない。

そこにあるのは、かつて人間が操っていた人型兵器、C-フレーム、かつて“人が入っていた”その座席には、今、人工知能が座っている。

C-フレームは完全AI制御の兵器になった。

命令を受ければ即座に行動し、一瞬のためらいもなく敵を排除する。

爆炎が咲き、弾丸が風を裂く。

だが怒る者も、助けを求める者もいない。

音はあるのに、そこには“生”の気配がなかった。


 日本はその変化の先頭を走っていた。

まだ、人が最前線に立っていた頃、日本は世界最先端のC-フレーム《神機〈シンキ〉》を開発した。

その機体性能と操縦技術で他国を圧倒した。

《神機〈シンキ〉》は量産機ではなく、すべての個体がパイロット専用に設計された“唯一無二の兵器”だった。

骨格構造から神経伝達システム、駆動反応まですべてが搭乗者の生体データに最適化され、

言わば「人間の魂を金属で包んだ」存在だった。

 その姿は、かつてのC-フレームに似て非なるものだった。

全身は光を吸い込むようなマットブラックの装甲で覆われ、その表面には細い光学線が血管のように走っていた。

それらの線は戦闘時に淡く光を帯び、迷彩・通信・エネルギー循環を兼ねる。

戦闘時にはその装甲が光学迷彩として透過し、輪郭を溶かすように闇へと消える。

装甲の構造は古い日本の甲冑の意匠を思わせるが、それは飾りではなく、機能的な分割装甲。

起動時、装甲の線が脈打ち、まるで“神を呼び覚ます”かのように周囲の空気を震わせた。


敵の拠点を素早く制圧し、民間への被害を極力抑える戦術は、世界に衝撃を与えた。

それゆえに、日本は技術力で世界の一歩先を行く国家と認識され、国際政治においても影響力を強めていた。



 だが六年前、戦場から人間は姿を消し、〈神機〉の名も歴史の中へと埋もれた。

各国はこぞって人の代わりとなるAI兵器の開発に踏み出したが、完成度で日本に追いつくことは容易ではなかった。


 日本が新たに開発した《ZEROLIA〈ゼロリア〉》──

その外見は、かつてのC-フレームとほとんど変わらない。

鋼鉄の外殻、駆動フレーム、重油の匂い──どれも同じだ。

だが、内部に宿るものだけが決定的に違っていた。

ゼロリアは日本が独自に開発した高次演算AIを搭載しており、他国の兵器とは比較にならない精度と柔軟性を持っていた。

敵の行動を予測し、わずかな揺らぎから最適解を導き出すその戦闘は、まるで人間が操縦しているかのように“生々しかった”。

だが、それは錯覚にすぎない。

どれほど人間に近い動きを見せようと、機体が返事をすることはない。

命令を忠実に実行するのみの兵器であり、迷いも、倫理も、恐怖も持たない。

その性能は他国を引き続き圧倒し、日本は「技術で戦う国」として圧倒的な地位を確立した。


そうして、世界は“血を流さない戦争”を手に入れた。

だがその静寂の奥で、何かが確かに失われていた。

人の手で守り、人の手で奪ってきた“意味”のようなものが。

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