第六十一話 決戦の舞台
冬の夜。郊外の廃れた広場に二つの勢力が向かい合う。
冷たい風が砂を舞い上げ、街灯の下に並ぶ男たちの輪郭を鋭く浮かび上がらせる。
ここで始まるのは、逃げ場のない拳の勝負。
声を張る者も笑う者もいない。ただ張り詰めた空気が場を支配していた。
広場の地面はひび割れ、雑草が伸び放題だった。
折れかけたフェンスが夜風に揺れ、壊れたスピーカーの残骸が影を落としている。
かつて運動公園と呼ばれた場所も、今はただの廃墟にすぎなかった。
だがこの夜、この場に集う二つの勢力が、荒れ地を戦場に変えようとしていた。
先に陣取ったのは黒天会。
リックを中心に、ポッター、ショルダー、ドロップアウト、ベースボール。
数十人の取り巻きが後ろに控え、黒い壁のような圧力を漂わせている。
その存在感だけで、夜の冷気がさらに冷たく感じられるほどだった。
やがて、もう一方の入り口から足音が近づいてきた。
鷹鬼、久里鬼、菅野、松浦、辻。
嵐ヶ丘の代表が姿を現すと、応援に駆けつけた生徒たちがその背後に続いた。
互いの陣営が広場の中央を挟んで向かい合った瞬間、ざわつきは一気に止み、息を呑む静寂が訪れた。
―
リックが一歩前に進む。
巨体が街灯の光を遮り、長く伸びた影が地面に落ちる。
「五対五の代表戦だ。ルールをはっきりさせる」
低く響く声が、広場の隅々まで震わせる。
「一つ、武器は禁止。拳と脚、己の体だけで決めろ。
二つ、戦闘不能か“参った”で決着だ。
三つ、先に三勝した方の勝ち」
そこで一度区切り、リックはさらに声を低めた。
「そして四つ目――これが一番大事だ。
負けた方は勝った方に従う。頭を垂れ、勝者の名の下に沈むんだ」
その言葉に、応援に来ていた嵐ヶ丘の生徒たちがごくりと唾を飲んだ。
街全体の覇権が決まるわけではない。
だが両陣営のどちらが上かは、ここで否応なく突きつけられる。
―
その瞬間、嵐が丘の列で、鷹鬼が一瞬だけ足を取られた。
「おっと」
久里鬼が素早く腕を伸ばし、支える。
「なんだよ、柄にもなく緊張してんのか?」
冗談めかした声に、場の張り詰めた空気がほんの一瞬だけ和らぐ。
鷹鬼は鼻で笑い返し、すぐに平然と立ち直った。
「……気にするな」
その仕草を深読みする者はいない。ただ夜風が砂を転がすだけだった。
―
リックが再び片手を上げる。
「黒天会の先鋒は――ベースボールだ」
坊主頭の岩永が一歩踏み出す。
拳を鳴らす音が夜に響き渡った。
「最前線はいつだって俺が張る。黒天会の戦いの幕開けは、俺の拳で告げる」
その気迫に、嵐が丘側がざわついた。
すると、辻が静かに前に出る。
「……先鋒は俺だ」
かつて病院のベッドで仲間の戦いを見守るしかなかった悔しさ。
その思いを拳に込め、辻の声は震えずに夜を切り裂いた。
二人の影が広場の中央で向かい合う。
群衆は息を詰め、風すら止まったかのように静まり返る。
まさに決戦の幕が上がろうとしていた。
郊外の廃れた運動公園に集った嵐が丘と黒天会。
リックが告げたのは、武器なし、参ったか戦闘不能での決着、三勝先取、そして「負けた方は勝った方に従う」という最も重い掟だった。
互いの陣営が背負うものは大きく、誰一人引くことは許されない。
先鋒戦――ベースボールと辻の姿が中央に並んだとき、誰もが拳を握りしめた。
嵐は、もう止まらない。




