第三十九話 双天鬼の誓い
孤独を抱えてきた鷹鬼と久里鬼。
裏切り、失望、孤独――それぞれが過去に深い傷を持っていた。
だが嵐が丘で出会い、共に拳を振るった今、彼らはついに「相棒」として互いを認め合う。
その誓いは、やがて街全体を震わせる力となるのだった。
夜の河川敷。
川面に街の灯りが揺らめき、涼しい風が吹き抜けていた。
双天鬼の二人――鷹鬼と久里鬼は並んで腰を下ろしていた。
朱雀会との死闘からしばらく経ち、街は一時の静けさを取り戻していた。
しかし彼らの心の奥には、それぞれの過去がまだ重くのしかかっていた。
「なぁ鷹鬼」
久里鬼が缶コーヒーを片手に、ぽつりと口を開いた。
「俺さ……みさに聞かれて、中学の頃のこと思い出したんだよ」
鷹鬼は視線を横に向ける。無言で続きを促すようだった。
「……俺は昔から体でけぇし、喧嘩も強ぇから、仲間をよく守ってたんだ。
だけどな、そいつらが裏じゃ俺のこと“木偶の坊”って笑っててさ。俺の名前使ってカツアゲまでしてた」
久里鬼の声は笑っているようで、どこか苦い響きがあった。
「それ以来、誰も信用できなくなった。……仲間なんて、どうせ裏切るって思っちまった」
川のせせらぎが静かに響く。
鷹鬼はしばらく黙っていたが、やがて低い声で呟いた。
「……俺も、似たようなもんだ」
久里鬼が驚いて振り向く。鷹鬼が過去を語ることなど滅多にない。
夜風に前髪が揺れる中、鷹鬼はゆっくりと言葉を続けた。
「中学の時、俺は“数”でのし上がってた。何百人って仲間を従えてな。
でもある日、全部裏切られた。……俺の女を拉致して、人質に取られて、仲間だと思ってた奴らに袋叩きにされた」
久里鬼は言葉を失った。
鷹鬼の声は淡々としていたが、その奥に滲む怒りと悔しさは痛いほど伝わってきた。
「それ以来、誰も信じなくなった。…」
短い言葉の中に、鷹鬼の孤独と傷の深さがにじみ出ていた。
―
しばらく沈黙が流れた。
二人は夜空を仰ぎ、遠くで電車が走り抜ける音を聞いていた。
やがて久里鬼が口を開いた。
「……なぁ鷹鬼。俺たち、似たようなもんだな」
「……あぁ」
「でもよ、俺はお前と出会ってから、初めて“信じてみてもいい”って思えたんだ。
お前は裏切らねぇ。そんな気がすんだ」
鷹鬼は久里鬼を見やった。
その顔は真剣で、拳を固く握りしめていた。
「……俺もだ」
鷹鬼は短く答えた。
「お前は裏切らねぇ。だから、背中を預けられる」
二人の視線が交わる。
互いの過去に触れ、互いの傷を知ったからこそ、もう迷いはなかった。
―
久里鬼が立ち上がり、夜空に向かって拳を突き上げた。
「俺は、これからもお前と並んで戦う! どんな敵が来ても、二人で潰す! それが双天鬼だ!」
鷹鬼も静かに立ち上がる。
そして久里鬼と同じように拳を突き出した。
「……俺たちは、絶対に裏切らねぇ」
二人の拳が夜空の下でぶつかり合い、鈍い音を響かせた。
それはまるで、新しい誓いを刻む鐘の音のようだった。
―
その誓いの瞬間を、松浦と辻は少し離れた場所で偶然見ていた。
「……先輩たち、なんかすげぇな」
「馬鹿。すげぇどころじゃねぇよ。あれが本物の絆ってやつだ」
二人は声を潜めながらも、目を離せなかった。
川風が吹き抜ける。
久里鬼は大声で笑った。
「ハハッ! なんかスッキリしたぜ! これからどんな奴が出てきても、俺らが一番だ!」
鷹鬼は無表情のまま、それでも小さく頷いた。
その胸の奥には、久里鬼と交わした誓いの熱が確かに灯っていた。
裏切りに沈んだ少年たち。
孤独と虚無を背負い、誰も信じられなくなっていた二人。
だが嵐が丘で出会い、拳を重ねた今、彼らは「双天鬼」として誓いを交わした。
その絆は、数や打算ではなく、本物の信頼で結ばれたもの。
夜空に響いた拳の音は、やがて街全体を揺るがす伝説の始まりだった。




