第十九話 夏休み明け
嵐ヶ丘高校に、二学期がやってきた。
夏の灼熱を乗り越えた生徒たちは、それぞれの思いを胸に校舎へ戻る。
だが、嵐ヶ丘にとって夏休みは静かな休息ではなかった。
街でうごめく朱雀会の影が、じわじわと忍び寄っていたのだ。
蝉の声も落ち着きを見せ始めた九月。
嵐ヶ丘高校の校門前には、久しぶりに制服姿の生徒たちが集まり、友人との再会を喜び合っていた。
「ひっさしぶりー!」
「宿題やったか?」
「日焼けすげぇなお前!」
そんな喧騒の中に、いつものように双天鬼の二人が現れた。
鷹鬼は涼しげな表情で校門をくぐり、久里鬼は派手に伸びをしながら大声をあげる。
「よっしゃああ! 夏休み終わりィ! また暴れてやるぜ!」
「暴れるな。授業に集中しろ」
鷹鬼が冷たく突っ込み、周囲の生徒たちがクスクス笑う。
―
教室に入ると、松浦が元気そうに手を振った。
「先輩! おれ、夏の間ずっと鍛えてたっす! 腕立て千回チャレンジしたっすよ!」
「いや死ぬだろ、それ」久里鬼が爆笑しながらツッコむ。
一方、辻は机にノートを広げながら、ひそひそと話しかけてきた。
「聞いたか?夏休みの間に朱雀会が不穏な動きをしているって噂…」
「分かってる」鷹鬼は短く返した。
「……だが、今は無闇に動くな」
辻はごくりと唾を飲み込む。
鷹鬼の目に宿る静かな炎は、夏の間に研ぎ澄まされていた。
―
休み時間。
廊下では菅野の姿も見られた。
顔にはまだ絆創膏が残り、表情には影が差していたが、その目にはかつての覇気が戻りつつあった。
「菅野……」
久里鬼が声をかけると、菅野はちらりと視線を寄越しただけで言った。
「……朱雀会と揉めたらしいな。だが朱雀会のインテリ吉田。あいつは次元が違う。双天鬼、お前らでも簡単にはいかねぇぞ」
短く残して去る背中に、ただならぬ緊張が漂っていた。
―
放課後。
校庭で鷹鬼と久里鬼は並んで立っていた。
夕焼けに染まる空の下、二人の影は長く伸びる。
「学校は平和そうに見えるが……裏じゃ着実に、朱雀会が力を伸ばしてやがる」
鷹鬼の声は低く響いた。
「上等だ。俺たちがその分、強くなればいいだけだ」
久里鬼は拳を鳴らし、不敵に笑った。
二人の間には、夏休み前とは違う緊張感があった。
日常の笑いの裏に、嵐を告げる予感が漂っていた。
二学期を迎えた嵐ヶ丘。
表向きは笑いと喧騒に包まれた日常が戻った。
だが裏では、朱雀会が確実に侵攻の準備を進めている。
双天鬼と朱雀会――。
次に動くのはどちらか。嵐の火種はすでに校内に転がっていた。




