表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双天鬼  作者: 四郎
17/200

第十七話 期末テスト

嵐ヶ丘高校に夏休み前の静かな空気が流れていた。

だが、不良と呼ばれる連中にも避けられない試練がある。

――期末テスト。

拳で名を馳せる双天鬼にも、学園生活の一幕は訪れる。

期末テスト一週間前。

久里鬼は授業中、机に突っ伏して盛大にイビキをかいていた。

先生のチョークが黒板を叩き、クラス全員が笑う。


「おい久里鬼! 寝るな! このままじゃ赤点だぞ!」


「うっせぇ……数字とか記号とか、全部ゴチャゴチャしてわかんねぇんだよ……」

久里鬼は頭を掻きむしりながら机に突っ伏した。


そんな様子を横目で見ていた鷹鬼は、放課後に声をかける。

「おい久里鬼。明日から補習免れたいなら、少しは勉強しろ」

「いや俺、無理だって! 文字見るだけで頭痛ぇんだ!」


だが鷹鬼はため息をつき、ノートを取り出す。

「仕方ねぇな。俺が教えてやる」



二人は放課後の教室に残り、机を並べた。

窓の外は茜色。

鷹鬼は淡々とノートに数式を書き込みながら、説明を始める。


「この問題は公式を覚えれば簡単だ。三角関数は図に置き換えれば見える」

「……は? おい、何語喋ってんだ?」

「いいからここを見ろ。角度はここで区切ればパズルだ」


鷹鬼の指がノートに走る。

久里鬼は最初こそ混乱していたが、徐々に理解が追いついていく。

「お、おお……なんか分かってきたぞ! 角度がパズル……! お前、分かりやすいな!」


「当たり前だ。勉強はコツさえ掴めば簡単だ」

その言葉は冷静だったが、久里鬼にはどこか誇り高い響きに聞こえた。



数時間後。

久里鬼は問題集を解きながら叫んだ。

「できたっ! できたぞ鷹鬼! 答え合ってるか!?」

「……あぁ、正解だ」

「うおおおっ! 俺が数字を倒したぁぁ!」


教室に久里鬼の雄叫びが響き、廊下の生徒たちが振り返る。

「アイツ……勉強で叫んでるぞ」

「双天鬼って……意外と普通だな」


鷹鬼は苦笑しながらも、どこか満足そうに頷いた。



その夜。

久里鬼がふと問いかける。

「なぁ、鷹鬼……お前、頭良すぎねぇか? なんで嵐ヶ丘なんかに来たんだよ」


鷹鬼は一瞬だけ黙り、窓の外に視線を向けた。

夜風に髪を揺らしながら、低く答える。

「……行こうと思えば、県内トップの進学校に行けた。だが……ここに来たのは理由がある」


「理由?」

「……お前にはいずれ話す」


久里鬼は訝しげに首を傾げたが、それ以上は追及しなかった。

「ふーん……ま、俺はどこにいようが構わねぇ。お前がいりゃ、それでいい」


鷹鬼は薄く笑みを浮かべた。

――その背中には、まだ語られていない過去の影が静かに潜んでいた。



数日後の期末テスト。

久里鬼は汗をかきながら問題に向かい、鷹鬼の教えを必死に思い出す。

「えっと……パズルだ、パズル……角度を区切れば……!」


時間ギリギリで書き込んだ答えに、ガッツポーズを決める。

試験後の教室で、鷹鬼が小さく頷いた。

「……ギリギリで赤点は免れたな」

「やったぁぁぁ! これで夏休みが来る!」


教室は笑いに包まれた。

双天鬼はただの不良ではない。

そこに確かに、普通の高校生としての一面があった。

夏休み前の期末テスト。

久里鬼の不器用さと、鷹鬼の意外な知性。

そして彼が嵐ヶ丘を選んだ理由には、まだ語られていない過去があった。


だがその素顔は、ただの不良では終わらない。

彼らの歩みは、抗争の炎と青春の影を同時に背負いながら進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ