第十五話 鷹鬼の完全復活
卑怯な罠に沈められた鷹鬼。
しかし、その炎は消えていなかった。
悔しさ、怒り、そして仲間への想い――。
その全てを胸に刻み、速さの鬼は新たな力を求めて立ち上がる。
白い天井。
病院の天窓から差し込む光を、鷹鬼は無言で見上げていた。
背中にはまだ鈍い痛みが残り、頭にはあの日の衝撃がこびりついて離れない。
多勢に囲まれ、バットに叩かれ、膝をつかされた瞬間――。
「負けた」のではない、そう心の中で繰り返しながらも、悔しさが胸を締めつけていた。
扉が開き、久里鬼が入ってきた。
顔にはまだ生々しい傷跡、拳は腫れ上がっている。
だがその目は燃えていた。
「よう。生きてやがったか」
「……菅野はどうだった」
「あんなもん、一撃だよ」
鷹鬼は瞼を閉じ、深く息を吐いた。
「……そうか」
「だがな」久里鬼はベッドの脇に腰を下ろし、低い声で続ける。
「俺は分かってる。お前が本気を出せば、きっと俺より強ぇ」
その言葉に、鷹鬼の胸に突き刺さるような熱が走った。
負けた悔しさと、相棒からの絶対的な信頼。
その矛盾が、彼の心をさらに研ぎ澄ませた。
―
翌日から鷹鬼は一人で動き始めた。
放課後の体育館裏、夜の公園、静かな河川敷。
誰もいない場所で、鷹鬼は黙々と体を動かす。
傷ついた身体に鞭を打ち、汗を流し、蹴りを繰り返す。
「まだ……速さが足りねぇ」
足音が空気を裂き、蹴りが夜風を唸らせる。
痛みで膝をつき、血が滲んでも止めない。
「二度と……同じやられ方はしねぇ」
拳がひび割れ、足の甲は腫れ上がってもなお、鷹鬼は蹴り続けた。
―
数日後、屋上。
夕暮れの空に、鷹鬼のシルエットが立っていた。
シャドーを繰り返す度に風が鳴り、彼の蹴りは以前よりも鋭さを増していた。
「……戻ったな。いや、前よりも研ぎ澄まされた」
背後から声がした。
振り返ると、久里鬼が立っていた。
包帯を巻いた拳をぶら下げ、豪快な笑みを浮かべている。
「やっと帰ってきやがったか」
「待たせたな」
鷹鬼は拳を突き出す。
久里鬼が豪快に拳をぶつけ返す。
ガンッ!
夕焼けの空に、拳の音が鳴り響いた。
「これでまた《双天鬼》だ」
「嵐ヶ丘を震わせる、二人の鬼にな」
二人は笑い合い、その背中には再び不敵な覇気が宿っていた。
嵐ヶ丘を覆う次なる嵐――その中心には、再び揃った双天鬼がいた。
悔しさと怒りを胸に、鷹鬼は再び立ち上がった。
不意打ちに沈められた屈辱は、彼をより強く、鋭く変えた。
そして久里鬼と拳を合わせ、再び揃った双天鬼。
その存在は、嵐ヶ丘高校を超え、街全体を揺るがす嵐の核となっていく。
鬼は二つ。
孤独ではなく並び立つとき――真の伝説が始まるのだった。




