第1話 契約は、突然に
異世界に召喚されたのは、ごく普通の女子大生。
でも、ただの「聖女」じゃない。
契約した相手は、冷血無表情の王太子。
――しかも、彼と魂を繋がないと、この世界が滅びる?!
恋も知らない“私”が、契約から始まる“運命”の中で出会う感情とは。
じれじれ×身分差×無自覚両片想い(!?)な異世界恋愛、開幕です!
エルネスト・ライネルト王太子──私の“契約上の夫”となるはずの男は、見た目だけなら完全に私のタイプだった。
銀髪に、灰色の瞳。すっと通った鼻筋に、整いすぎててちょっと腹立つほどの顔面。まるで少女漫画から出てきたようなビジュアル。
なのに、言うことがいちいち刺さる。
「契約は、明日行う。婚姻の形式は王家の儀礼に則るが、情は必要ない。君は王太子妃として表向きにふるまえばいい」
──ほんとにもう、情はないって何回言うつもりなんだこの人。
「……ちょっとは、フォローとか、ないんですか?」
私がぼそっとそう呟くと、彼はうっすらと眉をひそめた。
「フォロー?」
「そう。“急に異世界連れてこられて、いきなり契約結婚することになった女子大生”に対する、優しさとか、気遣いとか、そういう……」
私が言いかけたとき、彼はわずかに目を細めた。
「……君は強い心を持っていると思ったが、案外脆いのだな」
……なんか今、ディスられた気がする。
「いえ、脆くはないですよ! ただ、ちょっと人間らしい反応してるだけで!」
するとエルネストは無言でこちらを見つめた。真っ直ぐに、じっと。
その瞳の奥には、まるで深い湖の底を覗き込むような静けさがある。冷たいというより、静かすぎて怖い。
──この人、ほんとに何を考えてるのか分からない。
「……心配しなくていい。契約が終われば、君は王都で安全に暮らせる。君に戦わせたりはしない」
「え、でも聖女って……戦う役目じゃないんですか?」
「確かに、聖女は魔力を持ち、災厄を祓う存在だ。だが、君がそれに向いているとは限らない。むしろ、力はあっても……扱いを誤れば、国を滅ぼす危険すらある」
──国を、滅ぼす?
私が絶句していると、エルネストは静かに続けた。
「……それほどの力を、君は内に秘めている。だからこそ、王家との契約が必要だった」
「私が……そんなすごい存在なんですか?」
「分からない。だが、召喚の儀で“選ばれた”のは事実だ」
ああ、なんかこの感じ、デジャヴあるなと思った。
そうだ──乙女ゲームでよくある、「ヒロインは選ばれし存在」的なアレだ。
でも私、地味な文系女子で、恋愛経験ゼロ。バイトは本屋、趣味は読書とカフェ巡り。
そんな私が、いきなり“王家の契約花嫁”って──
いやいや、人生展開が早すぎるでしょ。
「……あの、明日の契約って、具体的に何をするんですか?」
するとエルネストは、ふっと息をついた。
「まずは形式上の婚礼だ。その後、“契印”と呼ばれる魔法によって、互いの魂を繋ぐ」
「魂、繋ぐって……?」
「簡単に言えば、俺が死ねば君も死ぬし、君が死ねば俺も死ぬ」
「えっ、重っっ!!」
無理無理無理無理! 初対面の相手とそんな“運命共同体”みたいな関係になるの、ちょっとどころじゃなく怖すぎる!
「……拒否権とか、ないんですか?」
「残念ながら」
即答だった。
その瞬間、私は思った。
──これは、想像以上にやばい契約だ。
でも、不思議なことに、逃げたいとは思わなかった。
むしろこの氷のような男の心に、少しだけ踏み込みたいと思っている自分がいた。
それが、“聖女”としての力なのか。
それとも──ただの、恋の始まりなのか。
まだ、私にはわからない。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
書いていて、主人公のちひろちゃんと冷血王太子・エルネストの噛み合わなさが個人的に楽しかったです(笑)
真面目すぎる彼と、普通の感覚を持つちひろちゃんがどう距離を詰めていくのか……作者としても見守る気持ちで書いています。
今後は、契約儀式や王宮の陰謀、聖女としての力の発現、そしてもちろん恋の進展も……?
じれじれながらも、少しずつ変化していく二人の関係を、ぜひ最後までお付き合いください!
次回、第2話もよろしくお願いします!