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ここからが本領発揮ですよ

「う〜ん。どのボウルにしようかな。……よし、一番軽いのにしよっと」


「情けないで裕樹。男ならもっと重いやつで行こうや」


「いや、球技系は苦手なんでな。扱い安そうなこいつにする」


そう言って選んだのは番号の最も小さいボウルだった。


流石にキッズ用にするのは情けなさすぎるのでやめておいた。


だが、大人用では最も軽いこのボウルでも俺には十分重い。


「球技が苦手ってか……。ボウリングにそんなん関係ないんとちゃうか?」


「いや、お前は俺の球技の下手さを甘く見ている」


「そこまで言うんならやめとけば良かったやん」


「せっかく誘ってくれた紫苑さんに申し訳ないだろ?」


先にボウル選び終わった女性陣を横目で見た。


里佳さんと紫苑さんは見るからに楽しそうな顔をしている。


それだけでも、ここに来て良かったと思う。


「ま、それもそうやな。じゃあ、そろそろ行くとしましょか」


「ああ」


…………

………

……


「さて、それじゃあ行ってみようか。まずはカズッちね」


「ふっふっふ。俺の実力、見せたろやないか」


自信満々にそう言った一也。


ボールを持って構えるその姿はいつもと気迫が違っている。


一体あいつはどんな投球をするのか。


ゆっくりボウルを引きながら歩いてゆき………投げる。


ボウルは右側寄りを転がっていく。


このまま行けばピンは数本しか倒れないだろう。


しかし、まるで意志を持っているかのように、ボウルは真ん中に向かってカーブした。



ガコォーーン!!!



ピンがはじけ飛ぶ。


一也のボウルの威力はなかなかだった。


が、惜しくも1本だけが一也を嘲笑うかのようにそびえ立っていた。


「ぬぅ、1本残ってまったか……」


そんな呟きが聞こえてきた。


残念ながらストライクは取れず終い。


「まあ、あれならスペアだろうな」


「や、あそこまでは良いんだけどねー。問題はその後よ」


「ん?どういうことだ?」


「見ていれば分かりますよ」



──2投目


一也は左端に一本だけ残ったピンに向けて投げた。


が、今度はボウルが避けたかのようにピンの横を通過する。


「あああああ。なんでやねん!?」


関西人の『なんでやねん』を今、初めて聞いた。


やっぱり生は違うなぁと少し感心してしまう。


「よし、次はあたしだね」


ささっとボウルを準備して投げる態勢に入る。


華奢な外見とは裏腹に軽やかで、かつ鮮やかにボウルを投げていた。



ガコォーーン!!!



真ん中ちょい左をぶち抜いてピンは全て倒れた。


………全て倒れた?



『STRIKE!!!』



テレビの画面にはそう表示されている。


俺は口がポカンと開いて言葉が出なかった。


ストライクだって?


「やったぁ!初っ端からストライクって幸先いいねー」


「わー。流石ですね」


「ぬぬぬぬぬぬ」


もともと運動神経が良いのだろうか。


里佳さんも流石と言うぐらいだしな。


それにしても一也は、まるで犬が威嚇しているように唸っている。


「何を唸ってるんだ暑苦しい。紫苑さんって最初から運動神経いいんだろ?」


「ああ、そうや。スポーツで勝てるもんなんてあらへん。勉強でもあいつにはかなわへん。何でなんやろか?」


「へぇ。何でもできるんだな。どの学校でもいるもんだな、完璧な奴って」


「そんなことあらへんで。あれでもあいつは料理はへったくそでな……」


「あらカズッち。なぁにを話してるのかなー?」


「え、いや……せ、千堂!次はお前の番やで!はよう投げよか?」


「ふふっ。分かりました」


急に話を振られながらも冷静に対処する里佳さん。


その対応は大人だった。


「では、いきます」


投げたボウルはストレートに転がってピンに向かう。


それにしても、思うにボウルの転がり方って性格がはっきり表れるもんだな。


一也の軌道なんか途中で曲がっていくもんな。


その点、里佳さんのボウルは正直で真っすぐな軌道だった。



ガコォーーン!!!



倒れたピンの数は7本。


こう言ってはなんだが、なんとも里佳さんらしい本数だった。


「うーん。頑張ってスペアを狙います」


そう言って里佳さんは再度投げる。


ボウルは鮮やかなストレートで転がっていく。


倒し損じた3本のピンは見事に1ヶ所にかたまっている。


ボウルはその場所に吸い込まれていった。



ガコォーーン!!!



そう音をたてて全てのピンが倒れていた。


それはつまり……


「やりましたぁ。スペアです!」


「おおー。やったね里佳!」


「ぬぬぬぬぬぬ」


またもや一也は唸っていた。


そんなに男としてのプライドが彼を許さないのだろうか?


俺はというと球技における運動神経はとうの昔に諦めてしまっている。


よって悔しさは全くないのだ。


「おまたせしました。次は裕樹さんですよ」


「あ、ああ」


……いかん。なんだかとてつもなく緊張してきた。


なんだかんだで皆のスコアはかなり高い。


さて、どうしたものか。


取りあえず、緊張ほぐしも兼ねてボウルを雑巾で拭いてみる。


「あの……。まだ1投もしていないのに拭く意味があるんでしょうか?」


「あ、それもそうか……」


何とも間抜けなことをしてしまった。


仕方ないので拭くのを止めてボウルを持って前に立つ。


平常心だ……平常心……。


この状況を説明するなら背水の陣といったところか。


いや、四面楚歌のほうがいいかもしれない。


そうだよ。皆して初めからハイスコア出しやがって!


もうどうにでもなれ!



「いっけぇ!!」



ボウルを投げる。


しかし、むなしくも半分も行かないところで右側のガーターに落ちてしまった。


「……………」


「「「あーあ」」」


後ろからそんな声が聞こえてくる。


ふん、どうせこうなると少しは思っていたさ。


まあ、実は予想してたことではあるが実際やってみると結構恥ずかしい。


「大丈夫大丈夫。まだ始まったばかりだよ」


「次でストライク取れば問題ないで」


「ここからが本領発揮ですよ」


三者三様の慰め言が逆にグサッと胸に突き刺さる。


しかも里佳さん。その言葉は違うよ。


もうとっくに本領発揮してるさ。


なんていうか、今この状態がまさに俺の本領なんだよね……。


などと嘆いてはおれず、再度ボウルを投げようとする。


さっきは右側に落ちたんだ。


それなら今度はちょっと左の方に………いっけぇ!


しかし、その瞬間………



「ぐはっ!」



投げようとしたボウルが思いっきり右足に当たった。


かなり痛い。叫びそうになったが声を押し殺す。


それよりも俺のボウルは一体どこいったんだ?


「裕樹さん!右です!右!」


後ろからの声に俺は右を向いた。


すると俺のボウルは他人のレーンのガーターに転がり入っていった。


「な、なんだぁ!?」


「どうかしたのかー、相田ぁ?」


隣の人は相田という名前らしい。


ごめんよ、相田。


俺だってそんなことするつもりは無かったんだ、許してくれ。


一応頭だけは下げておいて皆のところに戻る。


全員が腹を抱えて笑っていた。



「クックック。あっははははははは!お、お前最高やわ裕樹。なぁははははは!」


「あ、あたしも笑いすぎて……。な、涙がでてきたよ、くくくっ……」


「ぷっ、クスクスクス……。す、すみませぇん。笑ってはダメなんですけど……クスクス」


ああ、わかっていたさ!こうなることぐらい。


そもそもお前らが悪いんだよ。


最初っからあんなハイスコア取りやがって。


そんな中で投げるプレッシャーって重たいんやぞ!


もはや責任転嫁というべき言い訳を心の中でしておく。


そうでもしないと俺の心は耐えられそうになかった。











かくして早くも1ゲームが終わっていった。


成績はこんな感じである。



1位 紫苑さん152点

2位 里佳さん135点

3位  一也  99点

ビリ  俺   52点



うん。なんていうかさ。


人生なんてボーリングが下手でも生きていけると思うんだよね。


うん。別に悔しくもなんともないですよ。


ええホントに。


「しかし2人のスコア足してもあたしに勝てないって情けないねぇー」


「「くっ……」」


「ま、まあまあ。あの、2人足して私のスコアには勝ったので……」 


いや里佳さん、全くフォローになってないよ。


それにしても女性陣は半端なく強かった。


100越えでも十分すごいと思うのに、何なんだよ152って?何なの135って?


俺も一応それなりに腕力とかはあると思うんだけどな……。


「じゃあ、負けた男性陣は飲み物買ってきてねー」


「「はあ?」」


「2人揃って『はあ?』じゃないの!今日はあたしのおかげで遊べてるんだよー?」


もはや小悪魔を通り越して悪魔だった。


とはいうものの反論できず、結局自販機に買いに行く。


「まったくあいつは情けのない奴や」


俺たちは情けない奴だけどな。


「まあ、仕方ないだろ。多分そうでなくても俺たちが買いにいく流れになるさ」


俺はアップル、里佳さんはオレンジ、紫苑さんはスポーツ飲料、一也はお茶だった。


それぞれ2つずつ手分けして持ち、女たちのところへ戻っていく。


と、男の2人組が何やら里佳さんたちと話している。


「ん?何だあれ?」


「はあ〜、またか。やっぱこうなるんやな」


「こうなるって?」


「ナンパやナンパ。あの2人ってなんやかんやで美人やろ?1人だけでもナンパされるらしいけど、セットでおる時やと街歩いてるだけで絶対に声かけられるんや。今まで俺が対処してきたんやけどな」


「お前も大変だったんだな」


「そやけど今回は俺だけやないで楽といや楽なんやろか。で、喧嘩は弱くはないんやったよな?」


「まあ、球技じゃなければ大丈夫だ」


「喧嘩にならんだらええんやけど、もしもの時は一緒に頼むで」


「りょーかい」


そう言って俺らは2人のところに駆けつける。


騒動にならないといいんだけどな。


仕方ないと割り切り、腹を括ってナンパ達の背後に立つ。



「「おい、お前ら」」


「ああん?なんだよ?」


「「俺らの女に何か用か?(-_-メ)」」


…………

………

……


「いやー、やっぱり男は頼りになるねー」


「そうですね。ありがとうございました。2人ともカッコよかったですよ」


「まあ、別にこれくらい……」


とはいうものの女からカッコイイと言われるのはやっぱり嬉しい。


思わず頬が緩んでしまう。


いつもより少しルンルン気分だった。


「そんな大したことしてへんで。しかしな、紫苑。さっきと言ってることが全然違うんやけどな」


「まあまあカズッち。感謝してるんだからさ」


「そうですよ。それよりも2ゲーム目始めませんか?」


「そうだな。もう2回残ってるしな」


「むぅ……。ええやろ。次こそは勝ったるでな」


かくして2ゲーム目が始まった。


当然、俺には悲愴なスコアが残されてしまったが。


まあ、ある意味エンターテイナーになれたから良しとするか。


うん。全然悔しくないですよ。


ええホントに。

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