なんだかいいですよね。そういうのって
四限目が終わって昼休みに突入。
というわけで学食に行きたい俺なのだが、はたして場所はどこなのか。
途方に暮れていた時、一也と里佳さんが俺に話しかけてきた。
「おーい裕樹、昼飯はどうすんのや?」
「良ければ一緒に学食に行きませんか?」
どうやら二人は委員長、副委員長として気遣ってくれているらしい。
「もしかして二人とも俺のために学食にしてくれたのか?」
そう思って口にした。
もしそうだとしたら、なんだか申し訳ない。
「私たちは最初から学食派なので心配は無用ですよ」
「そういうこっちゃ。お前は場所分からんやろなと思って誘ったんや。で、どうするん?」
「じゃあ、ありがたく案内されることにしようかな」
「ここが食堂です」
「なかなかええ所やろ?」
「ああ。確かに凄いな」
まず驚いたのはその広さだ。
もしかしたら生徒全員が座れるのではないだろうか。
加えてメニューの数もかなり多く、和洋中と一通りそろっている。
「どうやって買うんだ?確か生徒手帳を使うんだったよな?」
「トレイを持って列に並び、順番が回ってきたら注文します。そして料理を受け取り、手帳をICカードリーダーにかざすだけです」
「すごいな。この生徒手帳ICチップ積んであるのか」
何とか言われたとおりに注文して支払った。
俺は豚のしょうが焼き定食、里佳さんはスパゲティ、一也はお好み焼きを頼んだ。
「さて、空いている席はどこだ」
3人分座れる所はないかと見渡す。
すると隅のほうにちょうど3人座れるスペースがあった。
「あそこでいいんじゃないか?」
「あ、そうですね」
「そんなら取られんうちに行こか」
空いている席に着いたが、一応空席なのか聞いておこう。
「隣、空いているか?」
と、俺が聞いて飯を食べていた女が振り向く。
その見知った顔に俺は驚いた。
「紫苑さん!?」
「ん?お、偶然ね」
一也は紫苑さんにカズっちと呼ばれていた。
この二人は仲が良いのだろうか?
ていうかそもそも知り合いだったのか?
「裕樹さん」
「うん?」
「一也さんは紫苑さんの隣だそうですから、私たちは向かいの席に座りましょう」
「了解」
席につくと早速待ちに待った飯にありつく。
まずは一口。
パクッ!モグモグモグ。
「……美味い!」
「そやろ?ここの学食はこの学校の自慢なんや。学食目当てで入学する奴もいっぱいおるで」
そんなこと言ってる間にも、豚のしょうが焼きはどんどん減っていく。
「凄まじいまでの食欲だね」
「裕樹さん。もうちょっとゆっくりと食べたほうが……」
ガツガツガツガツ!!
横で何か言っているようだが、きれいさっぱり無視。
美味くて箸が止まらなかった。
その辺にあるレストランより美味いのではないだろうか。
「んぐぅっ!!!」
急に喉につっかえてしまった。
どこかに水は無いのか!
胸の上辺りをドンドンと叩きながら、必死の想いで水を探す。
「ぐぅ、んんん!」
「って、なにやってるんですか!水です!」
里佳さんから水をもらって無我夢中で水を飲む。
ゴクッゴクッゴクッ
「ぷはぁ〜。し、死ぬかと思った」
「人の忠告を無視するからそうなるんです。でも、まさか本当にやってくれるとは驚きでしたが」
「面目ない」
「いやー、流石は里佳だね。いい嫁になるわ」
「よかったなぁ、裕樹」
「何がよかったなぁだ、コラ!」
「いや、でも結構みんな噂してんで」
「は?噂って?」
「里佳ってモテるからね。君が現れて外野も騒がしくなってるのよ」
「私はそんなにモテませんよ。紫苑さんのほうが人気あるじゃないですか」
改めて二人をよく見てみる。
里佳さんと紫苑さん。
タイプは違うが、二人はれっきとした美少女である。
心なしか、今も少し視線を感じる気がする。
美少女二人が揃って食事をしているのだ。
きっと気のせいではないだろう。
もしかして俺はかなり際どい位置にいるのではないか?
「裕樹さん。聞いてますか?」
急に呼ばれてハッと我に返る。
気がつけば里佳さんの顔が目と鼻の先にあった。
「おわっ!」
「ひゃあ!な、なんですかいきなり」
「ご、ごめん。ちょっとびっくりして」
ふと一也のほうを見ると、声を殺して腹を抱えながら笑っていた。
あいつめ……。
「それでどうするんですか?」
「どうするって?」
「やっぱり聞いてなかったんですね。放課後、裕樹さんの歓迎会にカラオケにでも行かないかと紫苑さんが……」
「いいよね?」
笑顔満載で訊かれる。
ここで俺には断るという選択肢は無いのだろう。
まったくズルイ笑顔である。
「分かった」
「やったね!裕樹君の歌が楽しみー」
「おい。あんまり期待されると困るんだが」
「カラオケは普段行かないのですか?」
「行くには行くが、偏ったアーティストで90年代の曲がほとんどだ。ちなみに前回の最高は89点だったかな」
「お、なかなかやないか。じゃあ俺と勝負や。負けたほうがカラオケ代を奢る、でどうや?」
「何で俺の歓迎会で俺が奢らなくちゃならんのだ!」
「なんや?負けるんが怖いんか?」
その言葉にカチンときた。
はっきり言って俺は負けず嫌いだ。
ここで身を引くことは俺のプライドが許さない。
「いいだろう。挑んだことを後悔させてやる」
「望むとこや。絶対に負けへん!」
というわけで今俺たちはカラオケにいる。
「まずは主役の裕樹君からよね」
そう言って紫苑さんはナビを渡してきた。
さて、何を歌おうかな……。
迷った挙句、俺は『Field ●f view』の曲を歌うことにした。
そのなかでも『ドラゴンボ●ルGT』で使われたあの曲をセレクト。
「これまた懐メロだねぇ」
「そういえばこの曲はヒットしましたね」
「なかなかのチョイスやないか。お手前見せてもらおか」
それぞれ何か言っているが、俺はそれどころではない。
かなり緊張してきた。
マイクを持つ手が軽くプルプルと震えている。
果たして上手く歌えるだろうか。
最初は確か……。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
………
……
…
曲の1番が終わる。
久しぶりだったが、なんとか歌えた気がする。
「なかなか上手いやないか!俺、燃えてきたで」
「やるね、裕樹君」
「結構すごかったです」
「そりゃどうも」
ここまで言われると照れるな。
だが、褒められると結構嬉しいものだ。
思わず頬をポリポリと掻いてしまう。
……っといかんいかん。
もうすぐ2番が始まってしまう。
すかさずマイクを構えてまた歌い始める。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
…………
……
…
『今回のあなたの点は……』
皆が息を呑んで俺の点数を待ち構える。
何点取れたのだろうか。
『90点だぁー!スゴいぞー!』
「よっしゃあ!」
「むむむ……」
「ほー」
「やりますね」
俺の自己新記録が更新された。今日は調子が良いようだ。
ふっとテレビの画面が変わる。
「次は私ですね」
里佳さんの曲が流れ始めた。
どうやら季節モノのバラードのようだ。
彼女はマイクを持って歌い始めた。
「〜〜〜〜〜♪」
これは上手い……。
里佳さんの優しい声が曲調とマッチしている。
流れるような声が心地よく耳に響く。
「里佳もうまいねぇ」
「ああ。そうだな」
「ホンマやわ」
このバラードは結構レベルが高く難しい。
それをここまで歌えるのは彼女の腕が良いからなのだろう。
俺は彼女の歌に聞き惚れていた。
………
……
…
「ふう。裕樹さん、どうでしたか?」
「ああ。聞き惚れてたよ」
「そ、そうですか……」
俺が褒めると声を小さくして俯く里佳さん。
どうやら照れ隠しなのだろう。
『今回のあなたの得点は……』
俺の時と同じテロップが流れる。
聴いた感じからして高得点かもしれない。
『なんと95点だぁーー!見事な歌唱力だったぁーー!』
やっぱりな。
あっさりと抜かれてしまった。
しかし、このテロップ大げさすぎやしないか?
「流石里佳だね。あっさりと裕樹君を追い抜いちゃったよ」
「たまたまですよ」
「まあ、裕樹も遅れを取ってへんだけどな」
「そいつはありがとさん」
「それでは次いってみよー」
紫苑さんがピッとリモコンを押すと次の曲に切り替わった。
「よっしゃあ。次は俺がいくでー」
「あと1点……。あと1点で負けたっちゅうんか」
「これが現実だよ、一也」
今の俺はご満悦だ。
一也との歌唱力勝負は僅か1点の差で勝ちを収めた。
もちろん俺の分のカラオケ代は一也が出した。
一也は91点を出して俺は一時抜かれたが、最後の最後で92点を叩き出した。
そのときの一也の顔は思い出しただけで笑えてくる。
「まあまあ、カズっち。次リベンジしろー」
バッチーーーーーン!!
「痛!な、なにすんねん、紫苑!」
「いつまでもウジウジしてるからよ」
「やりすぎじゃ、どアホ!少しは手加減せんかい!」
「アホとはなんだアホとはー!」
「アホやない!どアホや!!」
一也と紫苑さんはギャーギャーと叫んでいる。
だが本格的なケンカではない。
ケンカするほど仲が良い、という言葉があの二人には似合いそうだ。
思わず暖か〜い視線を送ってしまう。
「あの二人、いつもああなんですよ」
いつのまにか里佳さんは俺の隣にいた。
「よくケンカしてるんですけど、次の日には仲直りしてて……」
「あの二人って付き合ってるのか?」
「いえ。まだ付き合ってませんが、そのうちたぶん」
「かもな」
「でも、なんだかいいですよね。そういうのって」
「……そうでもないさ」
「え?何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
まただ……。またあのことを思い出してしまった。
何故だろうか?
最近よく脳裏をかすめるのだ。俺の初恋の人の、あの顔が。




