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はい、それだけです

「……はぁ」


これで何度目のため息だろう。


そもそも何で私はこんなにため息なんかついているの?


そんなの言うまでもない。荻野裕樹、その人のせいだ。


でも、どうしてこんなに気になるのだろう?


そこが自分でも良くわからない。


「考えるだけ無駄ですかね」


紫苑さんに借りた本でも読んでいよう。


机の上に置いてあったはずだ。


……そういえば、あのとき裕樹さんは何故この本を渡してすぐに帰ってしまったのだろう?


自分が変だったとか言ってたけど、絶対私の所為だよね。


「……はぁ」


また、考えてしまった。


ふるふると頭を振って思念を追い出す。


そして手に取った本を開いてみた。



『異性との相性が分かる占い』



「…………」


ブックカバーを取り払ってみた。表紙から察するに占いの本らしい。


私、あまり占いなんて信じない派なのに。


紫苑さんってば何考えてるんだろう。


でも、さっきの項目、ちょっと気になる……。


目次からもう一度さっきのサブタイトルを探してみる。


……見つけた。早速読んでみる。



『其の一、あなたの使っている歯磨き粉と同じのを使っているならば、その人との相性はバッチリです!』



何故に歯磨き粉?


ロマン性の欠片も無いその占いに不信感を覚えた。


まあ、一応聞くだけ聞いてみようかな。


私の使っているのは『PCクリニカン』だったよね。











───翌日、教室にて。


「裕樹さん」


「うん?」


「つかぬことを聞きますが、歯磨き粉って何を使ってますか?」


……歯磨き粉?何故そんなこと聞くんだろう?


不可解な質問に首を傾げながら、自分の歯磨き粉が何だったかを思い出す。


「えっと、確か『PCクリニカン』だったかな」


「……そうですか」


「それがどうかしたのか?」


「いえ別に。それでは」


「え?それだけ?」


「はい、それだけです」


そう言って里佳さんはどこかに行ってしまった。


……何だったんだ?











「……偶然ですよね、きっと」


うん。そうに決まってる。


そもそも何故に歯磨き粉で相性を占うんだろう?


その時点でちょっと、いや、かなり怪しい感じがする。


もっと他のが無いのか見てみよう。



『其の二、一番最初に博士からもらったのは何タイプ?それが同じなら相性バッチリです!』



今度はゲームネタ?


またも意味不明な方法に不信感が募っていく。


まあ、一応聞くだけ聞いてみるか。


そういえば私はいつも草タイプだったなぁ。


状態異常のワザが使えるから好きなんだよね。


特に初代は最初の2つのジム戦が楽になるしね。









───さらに翌日、再び教室にて。


「裕樹さん」


「うん?」


「裕樹さんは最初、博士から何タイプのモンスター貰ってましたか?」


……は?何タイプのモンスター?


ああ、もしかしてあのゲームの話だろうか。


「最初はいつも草タイプだったな。ほら、相手を毒とか麻痺にできて便利じゃないか」


「ですよねっ!その気持ち分かります!」


「それにホラ、初代はブキミダネをもらうと最初の2つジム戦が余裕で勝てるだろ」


「そうなんですよ!……あ、いえ、ありがとうございました」


「今回もそれだけ?」


「はい、それだけです」


そう言って里佳さんはどこかに行ってしまった。


かなり謎過ぎる。


昨日の歯磨き粉もそうだが、質問の意図がさっぱり分からない。


まあ、特に意味のないことを人に尋ねることは俺だってあるもんな。


それにしても、里佳さんもあのゲームやってるのにちょっと驚いた。


何か微妙にテンション上がってたし、結構好きなんだろうか。


今度、通信交換でもしようかな。


さっさとゴウリキー進化させたいし。











「う〜ん。答えのみならず理由も同じとは……偶然、でしょうか?」


まあ、使っているものが同じということは感性が似ていると捉えることもできる。


そういう意味で相性が良いと言っているのかもしれない。


まあ、結局のところ占いだ。


当たるも八卦、当たらぬも八卦だろう。


そうは思っているがパラパラと本をめくってみる。


「後半はおまじないの章だったんですね」


まあ、占いとおまじないは似たようなものだからなぁ。


……どれどれ。



『異性との距離を縮めるおまじない』



如何にもそれっぽいサブタイトルだった。


さて、どんなことすればいいのだろう。


いつの間にか自分でも気付かぬうちに興味を抱いていた。


やり方の説明文に目を通す。



『シャーペンの芯を相手の人にあげればOK!』



シャーペンの芯をあげる?


相手が既に持ってたらどうすればいいんだろう?



『既に持ってても強引に渡しましょー!』



あ、そうですか。


相変わらずよく分からない方法を授けてくる本である。


これで効果無かったらもう紫苑さんに返そう。


……。


……。


効果があったらもうちょっと借りておこうかな。











───さらにその翌日、またまた教室にて。


「裕樹さん」


「うん?」


「その、シャーペンの芯って足りていますか?」


「シャーペンの芯?」


どうやら不可解な質問シリーズはまだ続いているらしい。


意味不明さに磨きがかかってきたなと思いつつ、シャーペンを手にとって軽く振ってみる。


中からシャカシャカと芯の音が聞こえてきた。


「うん。充分足りてるな」


「…………」


「どうかした?」


「この芯、私からのプレゼントです」


そう言って彼女は一本の芯を強引に渡そうとする。


「……は?いや、だから……」


「受け取ってくれないと紫苑さんに泣きつきます」


「喜んで受け取ります」


先日誤って調理室に足を運んだときの恐怖を思い出した。


あのときの紫苑さんの顔は怖かった。


何かに例えるなら般若だろう。


それはそうと、何でシャーペンの芯くれたんだろう?


これって自ら進んで人にあげるものじゃないよな?


「まあ……ありがとう」


「どういたしまして」


「……もしかして、それだけ?」


「はい、それだけです」


そう言って里佳さんはどこかに行ってしまった。


いまいち行動の目的が良く分からない。


近頃の彼女は一体何をやっているのだろう。


まあ、あんまり深く気にしないでおこう。


というか、気にするだけ無駄なように思える。


あ、そうだ。授業の準備をしないとな。


次は確か英語だっけ。


机の中を漁ってみる。だが、英語の教科書が見当たらない。


カバンの中も漁ってみたが、結局見当たらない。


完全に家に忘れてしまったな、これは。



………


……




「というわけで教科書見せてほしいんだけど」


「分かりました」


俺の机と里佳さんの机をくっつける。


彼女の教科書を真ん中に置き、寄り添ってみる形になった。


なんというか、距離が近いな。


「……まさか、距離が縮まるってこれのこと?」


「うん?何か言った?」


「いえ、なんでもありません」


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