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何でそこまで言うんですか……

ようやくこの辺から前作と話が変わってくる、と。

ジリリリリリリリリリリリリリッ!!



いつもの様に目覚まし時計は朝から気合が入っている。


まだ強烈に眠いけど、今日は学校だから起きないとな。


もぞもぞと時計に手を伸ばそうとした刹那、二の腕あたりに違和感を感じた。


「マジか。まだ筋肉痛治ってないのかよ……」


ボウリングに行ったのは土曜日。


そして今日の日付は月曜日。


1日おいても尚、筋肉痛は健在だった。


「風呂に入る前に腕立て伏せでもして鍛えようかね」


そんな考えが浮かんだが、すぐに却下した。


以前にも、やろうと決意して腹筋を始めたものの続いたのは2日だけ。


三日坊主すら達成できなかった俺は持続力が無いのだろう。


我ながらなんとも情けない体である。










今日も今日とて学校までの道のりを歩く。


体調が回復している今、心なしか身体が軽く感じる。


幸いにして筋肉痛は腕だけなので歩くのに支障はない。


すぐさま学校に着いてしまった。


靴を脱ぎ、まだ新しくて馴染まない上履きに履き替える。


「裕樹君おはよー」


「いきなり後ろから声を掛けないでくれよ。心臓が飛び出そうだったぞ」


「いきなりじゃない声の掛け方ってあるの?」


そう尋ねられて何の反論も思い浮かばなかった。


「……そんなことより何か用なのか?」


「あ、誤魔化した」


「はあ……。一也の苦労が解かる気がする」


「どうしてここでカズっちの名前が出てくるのか、非常に気になるわね」


「さあ?なんでだろうな?」


「またそうやって誤魔化す……。里佳の苦労が解かる気がするわ」


「何でそこで里佳さんの名前が出てくるんだろうな?」


「さあ?なんででしょうね?」











今日の授業に数学は無い。そう考えただけで嫌な気分は吹き飛ぶ。


だが、一つ気がかりなことがある。


ちらりと里佳さんの席を見る。HR開始1分前だというのに、そこにいるはずの人がいない。


妙だな。いつもならとっくに来ている時間なのに……。


そしてとうとう里佳さんが来ないまま葛城先生が来てしまった。


風邪でも引いたのかと紫苑さんに聞いてみたが、どうやら彼女も知らないらしい。


一体どうしたんだろうか?


「さあて、出席を確認するか。……ん?荻野の横に空席があるな」


先生は面倒だからか、いつも点呼は取っていない。


だが皆が出席しているかどうかきちんと見ているらしい。


「千堂が休みか……。おい、荻野。何か知らないか?」


「いえ、わかりません」


その時、誰かのケータイの着信が教室に鳴り響いた。


音源は………左のほうだ。


顔を左に向けると紫苑さんがなにやらもぞもぞしている。


すると紫苑さんは全く罪悪感を感じてなさそうに堂々とケータイを開き、画面を見ていた。


「一之瀬のケータイか。今はHRなんだからケータイは………」


「あ、里佳……じゃなくて、千堂さんからです。今日は風邪で休むそうです」


「千堂から?なるほど風邪か……。わかった。皆も季節の変わり目だから風邪をひかないようにな」


ありきたりな言葉で生徒に注意を促して、名簿にカリカリと書き込む先生。


やっぱり風邪だったか。


「よしこれでHRは終わりだ。っていうか一之瀬!返信しているのか知らないがHRの後でしなさい」


「あ、ごめんなさい」


紫苑さんはケータイを閉じて謝罪の返事をする。


まあ、どうせ形だけのものなんだろうが。


「まあ、とにかく終わるか。大原」


「起立。礼」


それから里佳さんのいない授業を受けた。


なんだかいつもより味気ない気がしたのは思い過ごしなのだろうか。











───昼休み


紫苑さんと一也と一緒に学食に来ていた。


「でさー、里佳のことなんだけど。裕樹君、お見舞いに行ってあげてくれない?」


「ああ、もちろんいいぞ………って1人でか!?」


「俺たちもホンマは行きたいんやけどな。今日は部活の大事なミーティングがあるねん」


「……は?部活?お前ら部活やってるのか?」


そんなの初耳なんだが。


てっきり俺と同じく帰宅部だとばかり思っていたのに。


まさに青天の霹靂(へきれき)だった。


「あれー?言ってなかった?あたしと一也は料理部なんだけどねー。今度、大会があるからミーティングがあるの」


「ちなみに里佳さんも何か部活を?」


「あいつはお前と同じ帰宅部や。ちゅうかね、なんで紫苑が料理へたやのに料理部に入ったんか………あだぁ!?」


すかさず紫苑さんは一也の頭をひっぱたく。


上下関係がはっきりしているなぁ。


「料理が上手くなるために入ったに決まってるでしょ。で、話を戻すけどね?」


「ああ」


「あたし達は行けないから、悪いんだけど1人で行ってくれないかな?」


「そんなこと言われても場所が分からないんだが」


「そのことなんだけど……あたしが裕樹君のマンションからの地図を描くね」


「地図を描く?そんなことできるのか?」


確か紫苑さんの家の方角は全く違う。


だと言うのに、俺のマンション周辺の地図を描けるのだろうか?


「ふっふーん。あたしを甘く見ないでほしいわね」


ポケットから紙とシャーペンを取り出して描き始めた。


何でそんなもん常備しているのか非常に気になったが、みるみるうちに地図が完成していった。


「すげえな。人間か?」


「失礼ねー。ちゃんと海馬に記憶してるのよ」


「料理の腕前は上がらんけどな………いぎっ!?」


一也は再び奇声を上げて悶えていた。


なんというか、随分とバイオレンスな関係なんだな。


頑張れよ、一也。


「はい。じゃあ頼んだよー」


「ああ」


「あ!忘れるところだった!」


何かを思い出したらしく、彼女は制服の懐を探っていた。


そして懐から出てきたのは一冊の本だった。


「この本なんだけど里佳に貸すつもりだったんだよね」


「占いの本か。女子が好きそうな代物だな」


「裕樹君だって、目ぇ覚ませテレビの今日の占いカウントダウン何とかってやつ見るでしょ?」


「確かに見てるけど、あれ俺の星座ってよく11位になるんだよな……」


「あー、最下位は救済措置があるけど11位には無いもんね」


「そうだろ!いっそ最下位になったほうが良いんじゃないかと思うんだ」


って、いつの間にか話がものすごく脱線してるし。


恐るべし、目ぇ覚ませテレビ。


「まあ、このトークはまた今度。とりあえず渡しとけばいいんだな?」


「うん。じゃあ、よろしくね」










というワケで、紫苑さんの地図を頼りに無事に里佳さんの家にたどり着いた。


表札にはちゃんと『千堂』と書かれている。


わりと珍しい名前だから間違いないだろう。


ここで伊藤とか加藤とかなら不安になるかもしれないが。


ただ、問題はインターホンを押そうとすると指が震えることなんだよな。


手をかざすだけでプルプルと震えて押せない。


せっかくここまで来たんだ。頑張れ、俺。


「ワンワンワンワンワンッ!」


「っっ!!!」


俺は勢いよく振り向いた。


散歩をしていた犬が俺に向かって吠えていた。


だが、すぐに飼い主にリードを引っ張られて去って行った。


ったく驚かしやがって……。心臓に過度の負担をかけて殺す気か!


まあ、なにはともあれ元凶は去って行ったから安心だ。


そっと肩の力を抜く。



ピーンポーン♪



……………は?


突然、そんな音が鳴った。


自分の指を凝視すると、千堂家のインターホンを押してしまっていた。


冷や汗が背中を流れる。


あの犬め!次に会ったらその両足を掴んでジャイアントスイングしてやる。



『はい……。どなたでしょうか?』


「あ、えっと。荻野裕樹と申しますが」


『……………』


スピーカーから何の返事もない。嫌な汗が流れる。


「あの、聞こえてますか?荻野裕樹と申しますが……」


『………ゆ、裕樹さんですかっ!?』


応答したのは里佳さん本人だった。


どうやらインターホンの向こうではかなり動揺しているようだ。


まあ、無理もないか。


『今、行きますから……待っててください』


「ああ」


その言葉を最後に、インターホンがプツンと切れた。


30秒ぐらいたってから玄関のドアがゆっくり開く。


中から出てきた里佳さんはパジャマ姿だった。


「こんにちは。具合は大丈夫か?」


「はい……。でも、裕樹さん、どうして私の家が?」


「紫苑さんに地図を描いてもらった」


「そうでしたか。えと、じゃあ、とりあえず入ってください」


「うん。お邪魔します」


里佳さんの家、名付けて『里佳ちゃんハウス』に入る。


壁際に飾ってある花から甘い香りがした。


流石は『里佳ちゃんハウス』だ。ささやかな心遣いも忘れない。



そんなことを考えながら、彼女に渡されたスリッパに履き替える。


スリッパには可愛いクマさんの絵がプリントしてあったが、気にしないでおく。


「こっちです」


……。


……。


……。


『里佳ちゃんハウス』の一室でもある彼女の部屋。


なんとも女の子らしい部屋だった。


ファンシーな小物とかが置いてあったり、ぬいぐるみがあったり。


よく見ると俺がプレゼントしたクマのぬいぐるみだった。


その隣にはちょっと古いが、同じくクマのぬいぐるみがある。


前にお父さんにプレゼントされたって言ってたな。


「ここに座っててください。お茶を入れますから」


「病人が無茶すんな。途中で店に寄って買ったミカンがあるから食ってなさい」


大サービスにミカンの皮を剥いてやる。


「はい。どうぞ」


「なんだかお父さんみたいですね」


などと言いながら里佳さんはモグモグと食べていた。


その仕草は小動物、例えばハムスターなんかを思い出させるというか。


見た感じどうやら大した風邪ではないようで何より。


「そういえば紫苑さんと一也さんは?」


「部活だって。なんでも大事なミーティングがあって来られないとか」


「料理部でしたね。いいですよねぇ料理部って」


「里佳さんは入らないのか?」


「私は家の手伝いがありますので……こほんっ」


里佳さんは急に咳をした。


まだ完全に治りきってないようだ。


「寝てた方がいいんじゃないか?」


「せっかく来ていただいたのに、そんなことできません」


「俺のことは気にしなくていい。体を休めろ」


「何でそこまで言うんですか……」


「俺は里佳さんのことを心配して言ってるんだ!」


「……ふふふっ」


何故かいきなり笑い出す里佳さん。


俺、何か変なこと言った?


「裕樹さん、あなたが倒れて保健室に運ばれたこと覚えていますか?」


「……ああ」


「そのとき、あなたはこう言ったんです。『余計なお世話だよ』って。私が心配してたのに」


「…………」


「でも、あなたは今、私の心配をしてくれました」


何も言い返せなかった。


なぜなら、彼女の言うとおりだったから。


「私、とても嬉しかったです」




そのとき彼女が浮かべた笑顔に、不覚にも胸が高鳴ってしまった。




俺はカバンから例のものを取り出す。


「これ、紫苑さんから里佳さんに渡すようにって預かってたんだ」


半ば強引に里佳さんの手に突き出した。


「あ、ありがとうございます」


そう言って里佳さんは少し戸惑いながらも受け取った。


「じゃあ、俺は帰るから」


「え?」


呆気にとられている里佳さんを残して、俺は彼女の部屋から、そして彼女の家から立ち去った。











その帰り道、俺はひたすら走っていた。


里佳さんの笑顔で高鳴ってしまった胸。楓さんのときと全く同じだ。


俺は……俺は里佳さんに恋してしるのか?


そんなことを思った瞬間、居ても立っても居られなくなり、彼女の家を立ち去った。


だから俺は走っている。


走ることで心拍数が否応無しに上がる。


そうすることで、胸に響く甘い鼓動を無理やり誤魔化そうとしていた。


この気持ちを闇へ葬るために。


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