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ワーホリが終わり、一年後

『早くしろ、ケンヂ!』




白衣を着た僕はキッチンの中を忙しく動き回っている。毎日のように朝から晩まで、先輩から罵声を浴びせられながら働いている。悔しいが、その先輩みたいに僕はなりたかった。




あの日、ワーホリの前にリカさんと訪れた食堂で僕は働いている。リカさんが大絶賛していた食堂だ。帰国して2日目に立ち寄ったら、たまたま募集をかけていたので応募してみたのだ。そしたら何故か採用されてしまったのだった。僕は3日だけ故郷に帰る時間を貰い、そして大阪にトンボ返りした。住むところはリカさんのマンションだった。


リカさんと同棲することになると両親に伝えると、頼むから直ぐに結婚してくれと土下座された。あんなにも美人な相手など今後一切現れることがない、ぜひ、あの娘との孫が見たい。そのためには強盗でもなんでもして支度金を整えるから、他の男に盗られる前に籍を入れてくれと母は僕の膝にしがみ付きながら懇願した。父はその間、悲壮な面持ちで立っており、全財産を売ってもいい、相手方に結納金を納める準備は出来ていると僕に言った。


僕は困惑しながら、大袈裟だよと両親の興奮が冷めるのを待ったが、結局、帰阪のぎりぎりまで僕は説得され続けた。あの娘じゃなきゃ嫌だと母が新幹線の駅のホームで泣きながら僕に言ったのが今でも脳裏に焼き付いている。


実はリカさんは僕が海外にいる間、僕の両親と頻繁に連絡を取り合っていた。リカさんは勇気を出して、自分の家族で起こった事件などを僕の両親に伝えていた。僕の両親は気にすることはないとリカさんに伝えた。母はリカさんにあなたがいい、あなたじゃなきゃ嫌だと、伝えていたみたいだ。僕にも同じように宣言したなと思った。リカさんは僕の実家を2度訪れていて、母から料理を教わっていた。僕の好きな料理、味付けを習うためだった。




『困惑しています。』


僕は照れながらリカさんを見る。リカさんはいつも以上に強くてまっすぐな目で僕を見返す。


『明日、市役所に行くぞ。』


『へ?』


『指輪くれただろ?』


『はい。』


『結婚だよな?』


『へ?』


『結婚だよな?』


『へ?はい?』


『結婚しろ。』


『はい。』




僕は日本に帰国してから2日で仕事を見つけ、1週間で結婚していた。



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