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EP27 勘違い

『う、うなぎですか?・・・・』




リカさんが鰻屋さんの前で立ち止まる。羨ましそうにディスプレイを眺めている。


『美味しそう。』


そう呟き、うなぎ丼の上にするか、並にするかとつぶやいている。




僕は悩んだ。真剣に悩んだ。これはリカさん流のギャグなのか、冗談なのか、それとも真剣なのか?




我々ふたりは今夜、初めての夜を迎える。ふたりで話し合って、前もって準備してきた。アレもさっき購入したばかりだ。そんな我々二人が夕飯にうなぎを食べるなんて漫画みたいだ。もしかして肝吸いや、すっぽんの生き血も飲めとか言われるのだろうか?精が付く食べ物を食べさせられるなんて考えもしなかった。大人の世界では決戦の前に栄養のつくものを食べるのは当たり前の事なのだろうか?ドキドキしてきた。


『がんばります。』


僕は頷きながらそう伝えた。


『なにを?』


リカさんはきょとんとして、不思議そうに僕の方を見た。


『なんでもないです。旨そうですね、赤出汁の味噌汁は普段は飲めないので、楽しみです。』


僕は動揺を悟られまいと、少し饒舌になる。


『肝吸いにしよう。体に良さそう。』


や、やばい!本気のヤツか?自分でも顔が赤くなるのが分かる。大人の女性は覚悟が決まると大胆なんだなと思った。


『うなぎ嫌いなの?なんか変ね、違うのにする?』


仕方がないな、残念。リカさんは方向転換しようとした。


『絶対にうなぎがいいです。』


僕はそう言ってリカさんの手を取り、店内に入っていった。




『すっぽんもあるのね、ご無沙汰してるわ。最近は全然食べてないなぁ。』


店の奥の座敷に通された僕たちはテーブルを挟んで向かい合っている。リカさんはメニューを真剣に見ている。まさかのすっぽんが本当にあるなんて思いもしなかった。


『生き血なんてないですよね?』


手のひらに汗をかいてきた。握りしめたら手が熱かった。


『あるんじゃない?さっき水槽に泳いでいたから。』


さっきまで赤かった僕の顔が急に青ざめる。忙しい。


『そ、それも頂こうかな?』


本当は飲みたくないが、致し方ない。今日は男になる日だ。男を上げる日なのだ。


『まさか、予算オーバーよ。無理しなくてもいいのよ。』


リカさんはメニューを見ながら考えている。こちらを見ていない。試されているのだろうか?


『いえ、頂きます。男になります。僕が支払います。』


いつの間にか正座になっていた僕はリカさんに頭を下げる形になっていた。


『やっぱり変ね?どうしたの、畏まっちゃって。』


リカさんがクスッと笑っておかしいと言った。もしかしたら僕の考えすぎか?


『残暑が厳しいですね、体に良いものがいいですよね。』


やっぱり生き血なんて飲みたくない、どうしよう?


『ケンヂが海外で食べれないものをチョイスしていこうと思ってね。』


これでもあなたのことを考えているのよと、リカさんがニコッと笑う。


『うなぎ、ないんですかね?』


『あっても冷凍でしょうね。』


リカさんは店員さんを呼び、うなぎ丼の並を二つと肝吸い、すっぽん料理を数点頼んだ。もちろん生き血も頼んだ。


『うなぎ楽しみですね。』


『すっぽんもね。』


ウキウキしてきました、彼女の手を取り見つめ合う。


『やっぱり、なんか変よ?』


『なんでもないですよ。』




なんども同じやりとりが退店まで続いた。やっぱり僕の思い違いだろうか?




帰り道、リカさんのマンションが近づいている。


『ごめんね、今からお金が必要なのに、高い食事代になっちゃったね。』


リカさんがどうしても食べたかったのと言った。両腕を僕の右腕に回し、ぶら下がるように顔を近づけて言った。


『いや、必要投資っス。たぶんプラスに転じます。』


『????』


リカさんは不可解だ、今日は変だと繰り返し言う。やはり天然なだけなのかもしれない。




後ろを振り返り、誰もいないことを確認した。彼女がぶら下がっている右手を彼女の腰に回し、抱き抱え、顔を近づけ唇を奪う。


『ごめんね、我慢できない。』


トロンとした目でこっちを見ている。首を左右にふり、小さくいいのよと言う。


『うなぎのせいだ。』


『・・・・・・・・・・・・』


『すっぽんの生き血のせいかもしれない。』


『・・・・・・・・・・・・』


やっと理解できたのか、リカさんは顔を真っ赤にして否定してきた。


『ち、違うからね!そんな意味じゃないからね!』


左右のフックを僕の体に打ち込みながら必死に説明する。僕は笑いが止まらなかった。


『本当に、純粋に食べたかったの!!!』


彼女の両拳を取りあげて、パンチを回避する。ハグをするように抱き抱え、再び唇にキスをする。彼女がキスを返す。


再び腕を組み、手を繋いでくれたリカさんが僕の顔をじっと見ている。


『早く帰ろう。』


『すぐそこですよ。』


『ごめんね、我慢できない。』


僕のセリフを真似して言ったリカさんの顔は嬉しそうだった。





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