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EP12 告白続き

『僕の夢か。』




僕は空を見上げた。僕は何がしたいのだろう。小さい頃からなりたいものが無かった。同級生は警察官やらスポーツ選手、漫画家などバラエティーに富んだ夢を持っていた。早熟な女の子は薬剤師になりたいと答えた。僕はびっくりして何も返せなかった。結局僕にはなりたいものは無かった。できなかった。僕は何をしたいのだろう。




『夢はなんだろう?僕自身がまだ夢が何なのかを理解できていません。』


時刻は8時を回っており、辺りはだいぶ暗くなっている。日中の暑さがまだ残っており、夏の到来を知らせる。隣にはリカさんがいる。缶コーヒーを両手に持ち、静かに、急かすことなく僕の言葉を待っている。


『とりあえず今はワーホリで海外に住んでみることですね。』


リカさんは僕の方に向かってニッコリと微笑んでくれた。


『それは目標よ。お金と時間があれば明日にも叶うわ。』


リカさんは優しくではあるが、でもハッキリと忠告してくれた。


『今のあなたの貯金額でも、明日からそれができるでしょう?それは夢じゃないわ。目標よ。』


僕は黙った。自分の考えを整理するためだ。リカさんの言う通り、海外に住むのは明日からでもできる。なので、それは夢じゃない。夢とはそんな簡単なものじゃない筈だ。僕の夢、僕の夢と反芻した。


『リカさんは子供の頃何になりたかったんですか?』


と僕は聞いてみた。リカさんの子供の頃はどんな感じだったのだろう?


『決まっているじゃない、お嫁さんよ。』


『お嫁さんですか?嘘でしょう?それは保育園の時でしょう、中学生くらいの時は?』


『お嫁さんよ。嘘じゃないわ。全女子の憧れの夢、それは揺るぎなきお嫁さんなの。ケーキ屋さんでもなく、花屋さんでもなく、女子はお嫁さんになりたいのよ。それは保育園でも高校生でも一緒よ。第一志望はお嫁さんなの。』


いつものように子供に諭すように語りはじめた。


『たしかに中学生や高校生にもなって、他人にお嫁さんになりたいなんて言ったら馬鹿にされるわ。この子イカれているんじゃないかって。そんなもん勝手になれと怒鳴られることもあるかもしれない。だからみんな夢をすり替えるのよ。』


『すり替えるんですか?(笑)』


『いい?今話しているのは夢、おねんねしているときに見る夢じゃなくて、目的と言い換えてもいいかもしれないわね。』


リカさんがコーヒーを一口飲み、続けた。


『目的は、最終的な到達地点や、最終的に達成したい状態を表すの。これは「なぜそのことをするのか」という大きなビジョンやミッションに相当するの。例えば全人類とコミュニケーションをとるね。その目的を達成するために目標がいるのよ。目標は、目的を達成するための具体的なステップや行動を指す。目標は具体的で、測定可能であり、通常は短期的または中期的なもの。目的を達成するために必要な道筋や手段と考えることができる。例えば、「お金を貯める」や「海外に一年住む」などは目標よ。』


リカさんは最後にニヤリとする。理解できた?と言わんばかりだ。


『なんとな〜く、理解できた気がする。いや、ごめんなさい。見栄を張りました。半分くらいしかわかっていません。目的と目標が違うなんて考えもしなかったです。』


僕は汗をかいた。こんなリカさんは初めてだ。頭が良いのは知っていたので、いつもは僕のためにレベルを下げてくれているんだと思うと、少し恥ずかしくなった。もっと本を読んで賢くなって、リカさんとたくさんお喋りしたい。


『それで、リカさんの夢、目的はお嫁さんになるなんですね、今もですか?』


自分の無学さを思い知らされた僕は少し意地悪く続けた。


『お嫁さんになるは目的じゃなく、目標に聞こえます。リカさんみたいに素敵な人はいつでもお嫁さんになれるでしょう?』


『その通りよ、私は美人でグラマラスなボデーを持ち合わせている、稀有な存在だからお嫁さんにはいつでもなれるわ。』


『ボデーって。』


僕は爆笑した。リカさんは本当に面白い。真面目な話にくだらないワードを巧みに入れてくる。


『いい、結婚は墓場って聞いたことない?結婚をしてしまった後は地獄なのよ。だからお嫁さんになったあとではなく、お嫁さんになりたいと思った瞬間から、お嫁さんになった瞬間までが最高潮に幸せな時なの。


目的は結婚生活で目標はお嫁さんなんて、破綻した考えなのよ。』


『それでお嫁さんが目的であり、夢なんですね。』


僕がゲラゲラ笑うとリカさんは喜んでくれた。




リカさんが僕の腕に手を回し、自身の頭を僕の肩の上に乗せようとする。身長差がありすぎるので、うまくいかない。彼女は仕方なくの肩の横にもたれかかる。僕は腰をずらし、下がって位置を調整する。彼女の頭が僕の肩にうまく乗るように。


『良きに計らえ。』


『御意に。』


2人で見つめ合い笑った。




こんなにも楽しい、美しい時間があるだろうか。僕は決心した。僕は僕の過去を彼女に語った。あの日、リカさんが勇気を出して僕に語った自身の過去のように。僕は僕の過去を語った。リカさんが過去に受けた苦しみに比べたら僕の過去なんて取るに足らないだろうが。リカさんは僕が話している間、何も言葉を挟まず、最後まで聞いてくれた。彼女の頭はずっと僕の肩の上に置かれていた。



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