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僕と僕の神様  作者: たきわ優
第一章
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第四話

 ふふふと、笑いながら春子ちゃんは言う。


「田舎なんて来たくなかったのよ。私の町はこんな田舎とは違うわ」


 これは春子ちゃんだろうか?化かされているのかもしれないと現実から僕の考えは逃げようとする。


「元気になったけど、こんな田舎じゃなくても私は元気になっていたわ」


 春子ちゃんの顔から一気に笑みが消える。


「あんたさえいなきゃもっと早く元気になってたわ。雑草を枕元に置いたり、田舎臭い果物を置いたりさ」


 雑草?原っぱで積んだ花のことか。あけびやいちじくは田舎臭いの?


「こっちは体調悪いのに毎日つまらない話に付き合わされて気分が悪かった。だから元気になるまでこんなにかかったのよ」


 一人で寂しいだろうと毎日話しをしに通ったけど、そう思われていたのか。


「元気になって着せられたのは田舎臭い着物ばかり。しかも田舎者のお古なんて着せられて恥ずかしいったらないわ。帯も全然かわいくなかったし」


 村のみんなが善意で貸してくれた着物だ。


「正月の椿のお菓子。ああいうのを毎日出しなさいよ。都のお菓子はやっぱ違うわね。こんな田舎じゃ団子くらいしかないわよね。ああ、本当に田舎臭い」


 言葉のひとつひとつが僕を突き刺すようだ。


「やっと解放されるわ。これ以上いたら、私まであんたみたいな田舎者と一緒にされそうでいやなのよ。言っとくけどね、あんたみたいな田舎者は本来なら洗練された私と話すこともできないのよ。この二年、よくも私を毎日嫌な気分にさせてくれたわね。責任を取って死ねばいいのよ、あんたなんか。ほんと、死んじゃえばいいのに」


 そして、青い顔をし、血の気を失ったであろう僕を一睨みして、けらけらと笑い出した春子ちゃんは、僕を置いて帰っていった。


 立ち尽くす僕に、僕の神様が近づいて


『若よ。可哀想に。お前の優しさは皆が知っておる。大丈夫。お前は何も悪いことはしとらん』


「‥‥‥うん」


 死を願われるほど、僕は春子ちゃんを苦しめていたようだ。

 神様は、そのまま何も言わずずっと隣にいてくれた。

 しばらく時間が経ち、上の弟が「春子ちゃんの見送りだよ」と、僕を迎えに来た。ふらふらと、弟の手を握り、家に帰る。玄関には、迎えに来た両親に嬉しそうに抱きつく春子ちゃんがいた。


「‥‥‥」


 周りには、父や母、弟達。手伝いの朝子さんやお医者様に、尾関先生や村の人達が大勢。


 あの人は、春子ちゃんに着物を貸してくれた人。

 あの人は、春子ちゃんに団子を作って持ってきてくれた人。

 あの人は、春子ちゃんのお見舞いによく来てくれていた人。

 あの人は‥‥‥。


 今まで出なかった涙が急に溢れ出す。母が「また会えるわよ。寂しくなるわねぇ」と、背中を擦ってくれるが、これはそういう涙じゃないんだ‥‥。

 歯を食いしばり、声を出さないように耐える。

 何故か泣く僕につられて、わんわんと弟達が隣で泣いていた。


 春子ちゃんには目を向けれなかったので、彼女が泣いている僕を、僕たちをどう思ったかはわからない。


 どうしようもなく悲しかった。


 田舎者だと罵られたのが悲しかったわけじゃない。

 村の人達の優しさを無下にされたのが悲しかったわけじゃない。

 死ねと言われたのが悲しかったわけじゃない。


 この二年、出会ってから別れの今の今まで、朝子ちゃんが不幸だったことがどうしようもなく悲しかった。


 夜、布団に入って天井を眺める僕に神様が聞いた。


『後悔はしていないのか?』


 目の前にふよふよと浮く僕の神様。いつもより光り方が刺々しい気がする。


『せっかく命を繋いでやったのに、とは思わんのか?』

「そんなふうには思いたくないなぁ‥‥」

『払った病を返すこともできるぞ』

「返したら悲しむ人がいるからそれもやだなぁ‥‥」

『理不尽だと思わぬのか?』

「‥‥思うよ」

『そうか』


 毎晩、布団に入れば春子ちゃんに言われたことを思い出してしまう。

 嫌われている僕がどうこうできるものでもなく、春子ちゃんももう僕と関わるのは嫌だろうと思う。

 それに、もうこの村には春子ちゃんが来ることはないだろう。


 うっすら目を細めてみれば、暗い部屋に、ぼわーっと淡く光って漂う僕の神様。

 きっと、僕が寝たふりをしているのを知っている。でも何も言わない。

 どんな時も側にいてくれる神様に、心のなかで「ありがとうございます」と言った。

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