リクエスト:恋愛どろどろ系
私は彼のことが大好きだ
子気味良く鳴る靴音は必ず歩調を合わせてくれるし
大きな笑い声はいろんな悩みを吹き飛ばしてくれる
玄関のドアを開けてエスコートする姿にも
後ろ手に鍵をかける姿にもドキドキする
彼の香りと
いつも出してくれる紅茶のハーブの香りは
よく似ていて
体が一緒に覚えてしまった
あぁ、そうやって入れてたんだ。
いつもとは違う視点から覗いていると、
冷めた瞳とは裏腹に体が熱を持った
キスをする時に前髪からのぞく甘い目尻は
今は長い髪に隠れて見えない
帰ってきたままの服装でベッドを軋ませるのは
どうかと思うけど
今は床に滑り落ちたスマートフォンに
意識を集中させた
たまにしか返事をしてくれない画面には
隠されることのないハートマークが並んでいる
光が消えるのと同時に
私の脳内も黒く沈んでいく気がした
一体今は何人の女性と繋がりがあるのか
自分は彼の中で何番目なのか
硬い床でなく、
目の前で歪む柔らかなベッドとあの体温に、
また包まれる時がくるのか
視界の隅に転がる自分のヒールは
少し欠けてしまっていた
どれだけ経ったか
耳に残る彼の残像と痛む体に眉をひそめ
見慣れた鏡台の前に立つ
私も髪を伸ばしたら、何かが変わるのだろうか
自嘲する自分さえ恨めしくて、
目の前に並ぶヘアクリームの中から
一番高価なものを選び
肩までしかない髪を整えた
テーブルには置きっぱなしのティーカップが二つ
口紅のついていない方に残された紅茶を飲み干して
自分のスマートフォンを取り出す
歪みだす視界に並ぶハートマークから一つを選び
後ろ手に鍵をかけた