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9.『鉄壁令嬢』、遭遇する。




「全然王様も来ないわねぇ」

「そうですね。本当に放置されてます」

「一応、ガナンドさんには自由に歩き回ってもいいって言われてるし散歩に行きましょう!」


 王様に挨拶も出来ていないので、他の妃には挨拶は出来ていない。

 ドゥニーは一応後宮入りしたわけだが、完全に放っておかれていた。


 ドゥニーは散歩は許可されているので、部屋の外をぶらぶらすることにする。

 許可されているからとダニエスだけ連れてふらふら歩いていたりドゥニーはよくしているのだ。


 基本的に自由をこよなく愛するドゥニーは、そもそも一か所に留まることが出来ない渡り鳥か何かのようである。




「風が気持ち良いわ」


 さて、ダニエスを連れて外に出たドゥニーはそれはもう楽しそうに笑っている。



 本当に放置されていることを全く気にしていない様子だ。

 今の時間は、夕刻。他の妃たちに遭遇しないように一応配慮した結果である。

 


 ドゥニーの住まう部屋の周りは、正直言って人気はほとんどない。

 そういう部屋をドゥニーは案内されたというだけでも、ドゥニーが如何に王からどうでもいいと思われているのかが伺えるだろう。




「こういう砂漠に囲まれた国だからこそ、植物は少ないわよね」

「そうですね。砂漠に咲く花などは植えられているようですが……ピレオラ王国の庭園のようなものは見れないですね。少しそれが寂しいです」

「私はこういう見たことのない植物を見るととっても楽しいわ」

「……お嬢様はどんな場でどんなものを見ても楽しいでしょう?」

「そうね! 多分どこでも私は楽しいわ!」

「少しぐらい寂しがらないと当主様たちがへこみますよ?」

「そうかしら? 手紙は書いたわよ?」

「でも放置されているお嬢様の手紙をきちんと届けてくださるのでしょうか」

「まぁ、届いていなかったらそれはそれよ」

「そうですか」

「ええ」



 楽しそうにドゥニーは笑いながら、外を歩いている。

 軽い足取りで、周りを見ながら楽しそうにしているドゥニーは本当にマイペースである。


 家族へあてた手紙。

 それを預けてはいるものの、きちんと届くかどうかは分からない。


 この国で完全に放っておかれ、望まぬ妃といった役割のようなドゥニーの手紙を届けなくても問題がないと判断するような愚か者がこの国に居ないとは限らないのだ。

 それでもそれが届かなくてもドゥニーはどちらでもよかった。


 家族に届くのならば手紙が届いた方がいいとは思うが、届かなかったら届かなかったでその結果どうなるのだろうか? などとそんなことばかり考えているのである。




「あまりにも音沙汰がないと、当主様たちは乗り込んできそうですが」

「ふふ、そうねぇ、それも面白いわ」



 ドゥニーは楽しそうに微笑みながら、すたすたと歩いている。ダニエスにあわせてゆっくり歩いているが、一人だったのならばドゥニーはもっと素早く動き回っただろう。






「ダニエス。見て。これとげとげだわ」

「幾ら傷がつかないからって触らないでください。お嬢様でなければ大けがです」

「そうよねぇ。でもこれって良い武器になりそうだわ。とげとげでばーんって殴るの」

「殴ることを想定しないでください……」



 ドゥニーは自分の身長よりも高いサボテンを見つけて、つんつんと触る。棘があるにも関わらず、『鉄壁』の加護のおかげで傷一つつかない。


 普通の人間は棘が刺されば怪我をするものだが、『鉄壁令嬢』にはそういう心配がなかった。





「これって、食べたらおいしいのかしら?」

「一応食べれるみたいですけど、今の所食事では出されてないですね」

「このままがぶっていきたい気分だわ!」

「生でいきなりかぶりつくのはやめましょう。お嬢様にとっては問題がないでしょうけど、そんなお嬢様を誰かが目撃すれば卒倒します」



 ダニエスは淡々とそう告げる。



 目の前にあるのは、巨大なサボテン。触れるものを阻む、棘が満載のそれ。

 下ごしらえをして食べる分にはこの砂漠の国でも行われている。しかし……棘があるままの生で食べようとするなんて正気の沙汰ではない。



 普通の人は棘があるので食べられない。食べたら死も免れないかもしれない。しかしドゥニーの『鉄壁』の加護は、口にするものにも及ぶ。




「んー。人も少ないし行けるんじゃない?」

「いえ、やめましょう! ここはお嬢様のことをよく知る者ばかりのピレオラ王国ではないのですよ? 他国の後宮でいきなりそういう真似をするのはまずいです。せめて少しずつこの国の方々にはお嬢様に慣れてもらう必要があります。それでお嬢様ならああいうことをしてもおかしくないとそんな風に周りが認識するようになってからにしましょう」


 ダニエスは、いずれこの国の人たちもドゥニーの突拍子もない行動に慣れていくのだろうななどと確信している。


 目の前のドゥニーがいつまでも大人しくしているはずはないのである。





「よしっ、ちょっと食べよう」

「お嬢様……」

「大丈夫よ。こんなに大きいのだもの。一部をちょっと食べてもばれはしないわ!」


 悪戯を思いついた子供のように笑ったドゥニーは、魔力を纏ってそのサボテンの一部を切り取ろうとする。


 止めても無駄だなぁとダニエスが遠い目になっている中、「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた。




「あら? どなたかいらっしゃるの?」


 ドゥニーはそう言いながら魔力を引っ込めて、そちらを見る。

 その視線の先にいるのは、愛らしい見た目の灰色の髪の少女である。その後ろに何人かの侍女たちが控えているが、全員が青ざめていた。




 そうしてドゥニーは初めて、この後宮の他の妃と遭遇した。





 




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