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6.『鉄壁令嬢』、商人を助ける。




「こうやって色んな景色を見るのは楽しいわねぇ」

「……お嬢様、大量の魔物の死体を見ながらのほほんとそんなことを言わないでください」

「あら、魔物の死体は色んなものに活用できるからよい手土産じゃない?」

「……それを一応嫁入り予定のお嬢様が持ち込むのはなかなかおかしいですからね」

「あら、だって実際に嫁入りは出来ないのだから、こういうお土産は大事でしょ。私は良い関係を築きたいもの」



 にこにこ微笑むドゥニーの前には、大量の魔物の死体がある。


 その魔物に関しては解体し、使えそうなものは砂漠の国へとお土産として持っていくことにしたらしい。

 ドゥニーも解体を手伝っているので、解体のスピードは中々速い。

 倒すだけ倒して、素材を回収しないのはもったいないのでドゥニーは解体を幼いうちから覚えていた。




「お土産が道中で手に入れた狩った魔物の素材って、砂漠の国は蛮族の国とか言われてますけどお嬢様もよっぽどですよね」

「あら、蛮族なんかじゃないわよ。ああ、でもそういう風に言われている国の人となら一緒に魔物をぶん殴りに行けたりもしそうよねぇ」

「素手で行くのはお嬢様だけです」

「どーんってぶん殴るの楽しいのよ?」

「にこにこしながら魔物を殴る笑顔のご令嬢なんて本当に引かれます。いっそのこと、令嬢に擬態した魔物とかと思われそうです」

「あらあら」

「そして本当に令嬢だと知り、もっと恐れることになるみたいなのが想像が出来ますね」


 というか、実際にダニエスの言う通り笑顔のまま魔物と戦い、危険な所にも興味本位で突っ込んでいくドゥニーは擬態した魔物だと思われたりすることも時々ある。

 


 そうやって魔物の死体を前にのんびりと会話を交わす二人。

 騎士たちはせっせと解体した魔物を馬車につんだり、要らないものを処理したりしている。



 そうしている中で、急に声が聞こえてくる。





「すみません、どなたかいませんか!! 助けてください!」



 それは誰かの、助けを呼ぶ声である。ドゥニーの目がきらりと輝いた。




「人助けしてくるわ!」

「ちょ、お嬢様!! 飛び出さないでくさい!」

「だって助けを求められてるのよ。騎士も心配ならついてきてー!」


 ダニエスの言葉も聞かずにドゥニーは一人で飛び出した。慌てて騎士たちもドゥニーについていく。







 さて、飛び出したドゥニーは声の主の元へとたどり着いた。




「ごきげんよう」



 ドゥニーが穏やかに笑みを浮かべてそんな挨拶をすればその声の主――商人だろう男性は驚いたように目を瞬かせる。


 助けは呼んだものの、明らかに貴族の令嬢といった見た目のドゥニーが一人でいることが理解が出来なかったのだろう。

 普通の貴族の令嬢は、騎士を置いて一人で飛び出したりしないのである。



「助けを求めておりますのね? どうしましたの?」

「え、えええっと」

「私でよければお助けしますわ」

「……ええええっと」

「そんなに困惑しなくて大丈夫ですわ」



 そうしてドゥニーが男性と会話をしているうちに、騎士たちが追い付いた。

 騎士がやってきたことに男性はほっとした様子で説明をし始めた。



 ――男性の話はこうだった。

 馬車が、落下してしまい、崖の下に同乗者である娘が落ちてしまったのだという。

 幸いにも崖の高さはそこまで高くなかったものの、怪我を負っている。会話は出来るが、助け出す手段がないとそんな風に語った。





「分かりましたわ。私が責任をもって救出しますわ!」

「お嬢様、ダニエスさんにも大人しくしてほしいと言われているでしょう? 俺たちが行くので大人しくしてください」

「それだと時間がかかるでしょう? 私が行った方が絶対早いわよ」

「それはそうですが……」

「私は怪我一つしないんだから、気にせずに送り出してくれればいいのよ。ダニエスには私からいっておくから。人命がかかってるんだし」

「……分かりました。しかしくれぐれも怖がらせないようにしてください」



 騎士たちもドゥニーがどういう令嬢か分かっているのだろう。ドゥニーの心配ではなく、その助けられる予定の少女の心配をしていた。

 ドゥニーは突拍子もないことをよく行うので、いつも人を驚かせてばかりである。



 ドゥニーと騎士たちの間で話はまとまったが、商人からしてみればよく意味が分からなかった。





「ご令嬢が、救出するとは……?」

「ふふっ。私は『鉄壁令嬢』ですもの! 救出ぐらいお手のものですわ! さ、案内してくださいませ!」



 ドゥニーの言葉に商人は、『鉄壁令嬢』の名を知っていたのか驚愕した後、納得したように頷いた。



 そしてその崖の傍へと案内される。

 崖の下には壊れた馬車と、うずくまる少女の姿が見える。どくどくと血が流れている。命に係わるものではないとのことだが、すぐに助けた方がいいだろう。

 ドゥニーは加護のおかげで怪我一つ負ったことがないので、大変そうとしか分からない。




「じゃあ行ってきます」


 ドゥニーは軽くそういうと、崖からいきなり飛び降りた。

 商人と、下にいる商人の娘の口から悲鳴が漏れる。





 そんな悲鳴を他所にドゥニーは華麗に着地する。



「よし、まずは血をとめないとね」


 ドゥニーはそう言いながら、持ってきた救命道具でせっせと止血する。

 ドゥニーは自分で怪我をすることはないが、手当の方法は学んでいるのであった。

 それが終わると身体に魔力を纏って、商人の娘を抱えると回り道して崖を登った。

 それも歩きにくい岩道などもすいすい登っていく。『鉄壁』の加護はドゥニーにしか作用しないので、商人の娘を落とさないようには気を付けている。



 ついでに落ちた馬車内の必要そうなものも回収しておき、崖の上へ帰還するのであった。




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