57.『鉄壁令嬢』は、諦めの悪い者達の心を折ることにする ②
『鉄壁令嬢』は微笑む。
彼女は動きやすいワンピース姿で、塀の上へと立つ。
楽し気な笑みを浮かべつつ、見つめる先は――大きな二階建ての建物。
それはとある商会の本拠地である。国内外に店舗を持つ大きな商会らしい。この商会の主が、『鉄壁令嬢』と敵対する道を選び続けている。
それは調べにより分かっている。とはいえ、明確な証拠があるわけじゃない。
この国は絶対王政なので、少しぐらい強行して処罰しても問題ないと言えばない。反感はあるだろうが、権力者の意図しない行動を起こせばそうなることもおかしくない話である。
ドゥニーは、『鉄壁』の加護を持つ者としてそれなりに狙われたり、危険な目には遭っている。だからこそ自身を守る力を持つことは重要であるとは思っている。力があればそれだけ、何かに抗うことが出来るのだから。
『鉄壁令嬢』は力任せに全てを蹂躙することもよくある。とはいえ、基本的には平和主義者なので今回もひっそりと忍び込む。必要最低限、犯罪行為はするつもりはないものの――ドゥニーは必要であればこういった行動する。
今回、門番に挨拶もせずに中へと入ったのは――この建物の主が王様の言うことも聞かないような”悪い子”だからである。
基本的にドゥニーは聞き訳が良い方だ。きちんと話を聞けば、納得して引き下がるだけの話の通じやすさはある。
しかし世の中には、わざわざ最高権力者である王に逆らおうとする者も、圧倒的な力を持つ存在に敵対しようとする者も存在するのである。
ドゥニーはひっそりと侵入を果たし、慎重に動いている。
彼女は目立ったことばかりをいつも行っている。というより、いつもそれだけ派手に動いてばかりなのだ。
ただだからといって彼女が隠密活動が出来ないか否かと言えばそうではない。ドゥニーはただ硬いだけではなく、誰にも悟られないように動くことも可能であった。
(こんな風に忍び込むことはなかなかしないから、少し楽しいかもしれない。何かあった時のためにこうして気配を消す術を学んできていて本当に良かったわ)
ドゥニーはそんなことを考えながらご機嫌である。
こうして敵対する者達の拠点へと侵入しているのだから、見つかれば最悪の場合死が待っているだろう。だけれども、そんな見つかった時のことなどはドゥニーは考えていない。
そもそも見つかったとしても彼女はどうにでもすることが出来るのだ。
ただ相手を黙らせればいい。だって、何人も彼女のことをどうにかすることなど出来ないのだから……。
(それにしても中々厳重な警備だわ。それだけ敵が多いってことかしら。それとも余程暴かれたくないものが眠っているのか。大体、王様に注意をされたとしてもこんな風に命令を聞かないあたり何かしらの理由があるはず。自棄になっているのか、それとも王族を敵に回したとしてもどうにか出来ると自負しているのか。どちらにしても、変よねぇ)
この屋敷の主も、流石に誰よりもおかしい『鉄壁令嬢』に変などとは言ってほしくはないだろう。
(正面からの人ばかり警戒していたら、私みたいに魔法で身体能力を上げられる存在の前では無意味ね。もう少し魔力を無効化するとか、そういうのがないと。でもまぁ、この規模の商会ならそういう対策が出来ないのも当たり前と言えばそう? それにしてもそれならそれで、王族の意思に立ち向かう理由ってなんなの? もしかしたら誰も把握していないだけで私のような加護もちが味方に居るとか?)
自分自身が加護持ちと呼ばれる特別な存在だからこそ、ドゥニーは余計に加護持ちに対する理解は高い。
加護持ちという存在が居るだけで戦争などにおいても、幾らでも戦況は変わっていくもの。
「あ、きゃ――」
ドゥニーは廊下を歩いていると、侍女に遭遇する。叫ばれる前にすぐさま気絶させた。手際が良い。
こうして殺さないように気をつけながら、誰かの意識を奪うこともお手のものである。そもそも『鉄壁』の加護を持つ彼女は、気を付けていなければ簡単に人の命を奪ってしまう。
『鉄壁』の加護だけではなく、魔法といった力まで彼女は持ち合わせている。だからこそ、殺さないためにも注意を払っているのだ。
(さて、これでいいかしら。目的の場所までどのくらい人が居るかな。なるべく遭遇せずに向かいたいけれど……)
流石にそれは難しいだろうなと、ドゥニーも理解はしていた。
ドゥニーが向かっているのは、屋敷の一番奥。特に警備が厚いところである。そこにいるこの屋敷の主が、ドゥニーが守っている商人夫婦へ刺客を送っている存在だ。
その後、ドゥニーは遭遇した者を全て気絶させつつ、奥へと進んだ。
そして目的地へとたどり着く。
「こんにちは」
椅子に座っている屋敷の主の肩をちょんちょんとする。そして振り向かせると同時に声をかける。
ドゥニーの姿を確認して叫ぼうとしたその男の口をすぐさま右手で防ぐドゥニー。
「良い子だから、声は出さないでね?」
そういってにっこりと笑う闖入者を前に、男は顔を青ざめさせた。




