56.『鉄壁令嬢』は、諦めの悪い者達の心を折ることにする ①
ドゥニーは加護持ちである。神様から加護をもらいし、特別な存在。
普通の令嬢では持たない力を、彼女は明確に持ち合わせている。そう言う人間なのだ。
それゆえに、ただ暮らしているだけでは遭遇しないようなことに度々ぶち当たる。それこそ命の危険があるようなことさえも……彼女にとっては日常であると言えるのかもしれない。
彼女の場合は、自分からそちらへと首を突っ込んでいくからともいえるけれども。
ドゥニー自身、理不尽が顕現したような存在だ。彼女を止めようとしても止めることが難しい。彼女のことを害そうとしても傷つけることさえも出来ない。
『鉄壁』の加護を持つ彼女の意思が、世界の意思だと言わんばかりに……彼女の望みが叶えられる。
ただただ、彼女自身がなるべく周りを傷つけることがないように配慮しつつ、加護持ちとしては比較的おとなしくしているから――彼女の恐ろしさを周りは正しく理解出来ないだけだ。
「国から言われても、大人しくしないかぁ。本当になんなんだろう?」
ドゥニーは何とも言えない表情で、気絶させた男たちの上に立っている。
そう、国に報告し、通告を受けたはずにも関わらず……まだ愚かにも襲撃者は存在していた。彼女はどうして上の言うことを聞かないのだろうかと不思議そうにしていた。
(身分でも力でも、抗うことが出来ないのならば受け入れてしまう方が平和的なのに。自分の命をなげうってでも反抗したいというならともかくそうじゃないと思うのだけれども。それに私を敵に回してもいいって心からは思っていないと思うのだけど)
ドゥニーは、そんなことを思考する。
ドゥニー自身は、自分のことを敵に回そうとする人の気持ちが分からない。彼女はこれまで対等にやりあえた人はいない。彼女を傷つけるだけの力を持った存在も知らない。何かしらの対策が出来なければ、結局のところはドゥニーと敵対することなど出来ないのだから。
それなのに、どうしてか人は理解することなくドゥニーという怪物と敵対しようとする。
――彼女はこの国で様々なことを成している。それでもまだまだ足りないのだ。この国中に、彼女の力を広めるには。
(うーん、私自身この国にどれだけ滞在するかってまだ分からないんだよね。一応、嫁ぐように言われてこちらに来たわけだけど、夫婦関係はないわけだし。何かしら面白そうなものがあったら他国に行くのもありだしなぁ。成り行きによって何処にいって、何をするか変わるわけだし)
ドゥニーが祖国に留まっていたのは、家族が居るから。あとはかろうじて結ばれた婚約もあったし、成り行きである。そしてこの国にやってきてからは、ドゥニーを縛るものは特にない。もう既に祖国を飛び出してしまったのだから、その後の彼女がどうするかはその意思次第である。
ずっと、この国に留まり続けるか。否か。
ドゥニーにはそれはまだ分からない。しかし考えてみると、ずっとこの国に留まるということを考えるとぴんと来てはいなかった。
この国で、一生を過ごすだけの理由が彼女には全く見つからない。
ドゥニーは、この国の人々が嫌いではない。だけれども特別に思う相手が居るかというと違う。そういうわけで、ドゥニーは将来的にはこの国には居ないのでは? なんて思っていたりする。
そんな彼女は、この国でどこまで何をするか少し悩んでいた。
ドゥニー自身は基本的に自由人である。自分がやりたいように行動し続ける。とはいえ、何も考えていないわけじゃない。
いずれドゥニーがこの国から去っていく可能性があることを考えれば、やり過ぎない方がいいとは思っている。……最もドゥニー自身にとっての考えなので、周りにとっては「やりすぎ」と言われる行動を彼女は度々行うわけだが。
(でもまぁ、王様は私の力を無理に使おうとかしないし、私が居るからって変な行動を起こしたりはしない。なら、王様の意思に従わない人に、そんなことをしたらいけないわと伝えに行くのは必要なことかも。どうせ誰かがやることだしね。このまますぐに行動を起こさなければ商人夫婦が死んだり、怪我したりするだけだし。なら、やってもいいわね)
ドゥニーは、思考する。
その間、襲撃者たちを縛り上げていた。手慣れているのは、こういうことを度々経験しているからだ。
愛らしい顔の少女が、躊躇せずに男たちを気絶させ、縛り上げる様子は目撃者が居れば目を見張ったことだろう。
(私に向かってくる気が無くなるぐらいに、反抗することを恐怖するように……それだけのことをやりきったらきっと向かってくることはなくなるはず。殺すのは……やめた方がいいかな? 生け捕りにしてから、そのまま突き出せばいいか。この国の文官とかがどういう風にする気か分からないけれど、そのまま放っておくようだったらその人にも「ちゃんとしないと人が死ぬわよ?」って言えばいいだろうし)
そんな結論に至ったドゥニーは襲撃者たちを騎士に差し出すと、早速動き出した。




