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50.『鉄壁令嬢』、代官の屋敷に突入する。




「こんにちは」

「こ、こんにちは?」



 ドゥニーはガロイクに報告を済ませた後、早速代官の屋敷へと向かった。

 代官の元に行くと宣言してから本当にすぐのことである。彼女は行動的だ。



 貴族の代官の住まう屋敷は二階建てである。赤いレンガの屋根の家。その屋敷を見たドゥニーの感想は、「落としやすそうだな」だった。何とも物騒である。

 そもそも『鉄壁』の加護を持つ彼女にとって、落とせない場所など早々ない。ドゥニーはこれまでいくつもの防衛拠点(魔物の住処など含む)を落としたことはある。やったことはないが、お城などを落とすことも彼女にとってはたやすいことだ。





「私は『鉄壁令嬢』、ドゥニー・ファイゼダン。代官にお話があるのだけど、通してくれる?」



 にっこりと微笑んで、彼女は告げた。

 まるで通してもらうことが当たり前だとでもいう風に。


 その言葉を聞いて、門番が息をのんだのが分かった。ドゥニーはこの国で好き勝手に生きているので、その噂は当然、様々な場所に広まっているのである。



 彼女はあくまでにこやかに微笑んでいる。その柔らかい笑みは、向けられたものを安心させるようなものである。しかしこうして、本来ならば微笑むことのない場所で笑みを浮かべられると人はそれはもう……逆に恐怖する。






「……な、何用ですか」

「私は王様の許可を得て、この国内をぶらついているの。砂漠で魔物を見かけたら倒したり、興味がある場所に冒険に出かけたり。貴族関係の厄介事があるから、先に話をしたいの。ただの門番にはこれ以上言えないわ。少なくとも私は理不尽な思いは嫌いよ。だから、此処にいるの」



 ドゥニーは笑っている。



 そこには恐れも、怯えも、何一つない。




(さっさと問題を解決しておきたいのだけどなぁ。だって長引けば長引くほど厄介なことになるだけだもの)



 ドゥニーはこれまでの経験からそのことを知っている。何かしらの事情があって先延ばしにしたことが後から厄介事となるのはたまにある話だ。


 そもそも婚約破棄をすることに至ったのも、王太子が自身を恐れていることを知りながら何だかんだ婚約を継続していたからともいえる。

 ドゥニーは自分以外の誰かから恐れられることはいつもの事だった。明確に、彼女とそれ以外では別の生き物であったから。



 彼女は人間であることを認識している。とはいえ、ドゥニーにとっては他の人族はあまりにも脆すぎる。



 彼女が少しでも力を振るえば、彼らは簡単に命を奪われてしまうのだ。




「し、しばらくお待ちください。確認してきます!!」



 彼女はそう言われて、力を振るわずに済んだのはよかったのでは? とそんなことを考えている。

 ドゥニーとしてみれば、相手をせん滅することは得意分野だ。力任せにどうにかすることだって簡単だ。


 それでもつい先ほど、騎士団の詰所で暴れたばかりなのだ。ここでも暴れる必要は今の所なかった。

 自由気ままに遊ぶことを楽しんではいる。ただし暴虐的な一面があるかといえば、別である。彼女は残虐であるわけではない。






「噂のドゥニー様がこのような場所にいらっしゃるとは思いませんでした」

「そう? 私は何処にでも行くわ」

「どこにでも……というと?」

「私は自分の好奇心の赴くままにやりたいことをやっているの。だから、皆が予想しない場所にも行くわ。炎の中とか、魔物溢れる場所とか、どこでもね」



 そう、ドゥニーは『鉄壁』の加護があるからこそ、そう言った場所でも生きて言うことが出来るのだ。

 そこについていける者は、誰一人いない。彼女だけがその場で生きられる。それこそこの世界に大災害でも起こって人族が亡びようとしたとしても……彼女だけはただ一人生きて行くのだ。それはドゥニーの寿命が尽きるまでは、続くこと。


 彼女はどこでも、そのまま生きて行くのだ。






「そ、そうですか。そんな場所に行くのは大変だったりしないですか? それに魔物も沢山いるのでは……?」

「そう言う場所だからこそ、誰も知ることのできない面白いものを見つけに行くことが出来るのよ」



 にこにこしながらドゥニーは世間話をするかのようにそう告げる。

 ただ彼女は面白いものが好きなのだ。自分の『鉄壁』の加護があるからこそ見れるもの、出来ること。それを探求するのは、加護持ちである自分がやることだとも思っている。






「……そうなんですね。加護持ちと聞くと、もっと大変な暮らしをしているように思っていましたが違うんですね」

「あなたは加護持ちについて知っているの?」

「加護持ちの方の記録を見たことはあったので……」

「まぁ、そうなのね」



 ドゥニーはそう言って、楽し気に微笑んだ。



 全く持って悲壮感はない。

 その門番の読んだ記録では、加護持ちは国に使い潰されて、家族や友人達とも離れ離れになったというものだった。嘆き苦しむその記録を見て、加護持ちも大変だと驚いたのだ。

 だけれども目の前のドゥニーはそうではないことに、門番は少しほっとした様子だった。



 そうしてしばらく話している間に、代官に確認に行ったものが戻ってきた。



 



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