47.『鉄壁令嬢』、悪人を尋問する
「ほら、話してみてー?」
ドゥニーは満面の笑顔である。愛らしい顔を、優しい笑みに変化させながらやっていることが尋問……。
逆に見ているものは恐怖をあおられることだろう。
街中で、人が沢山いる中でやろうとしたのは流石に止められ、商談先の一室を借りている。
ドゥニーは、容赦がない。思いっきり痛めつけながら、にこにこしている。
「だ、誰が言うか!」
「んーとじゃあ、折るね?」
軽い調子でそんなことを言われれば、尋問されている男は顔を青ざめさせている。
最初は本気だと思っていなかったのかもしれない。ただドゥニーの様子を見ていると、本気だと分かったらしい。
ぽきっと、音が鳴ろうとしている。
――それを耳にし、痛みを感じた男は悲鳴を上げる。
「す、すみません!! ちゃ、ちゃんと話します! だ、だからやめてください」
そう言って声をあげる男を前に、ドゥニーは笑った。
こういった尋問をする時でさえも彼女の表情は変わらないのだ。不快な顔や恐ろしい表情などは全然見せない。おそらく、男に対する感情は早く話してくれればいいなとそんなことしか考えていない。
そして情報を聞き出すドゥニー。
彼女は笑っている。微笑み、ただ問いかける。
――どうしてこんなことをしたのか。
――何があったのか。
そのあたりの情報を突き詰めていく。
尋問されている男は、青ざめ、震えている。
(なるほどね。……なんでこんなことをするのかしら? お金が欲しいなら稼げばいいだけなのに。わざわざ誰かを貶めてまでやることなの?)
ドゥニーは心の底から不思議に思う。もちろん、人の社会でずっと生きてきたからこそ様々な人々と遭遇をしている。だからこそ、そう言った考え方をしている人達のこともきちんと把握している。
ただ毎回、どうしてこんなことのために命を賭けようとするのか、疑問でいっぱいである。
このような蛮行を行えば、死が待っている可能性も十分にあるのだ。
――少なくともドゥニーは、自分にとって嫌なことを誰かにされてしまったら報復をする。とはいえ、彼女はとてつもない力を持ち合わせているからこそ殺すまではいかないが。
圧倒的に彼女が強いから。それでいて同じ人であるはずなのに、彼女はまるで別の生物かのようだから。
ただ相手の命を奪うほどの何かを起こそうとしているのならば、殺されたとしても仕方がない。
彼女の聞き出した情報によると、商人夫妻から利益を奪おうとしている者達がいるようだ。それこそ商人夫婦の命を奪ったとしても問題ないと……そんな風に認識しているらしかった。それもただお金のためである。自分にとって利益が得られればそれでいいと思っているのかもしれない。
ドゥニーにはそのことが全く持って理解は出来ない。
お金が欲しいならば誰かから奪うではなく、自分で稼げばいい。……そんな風にドゥニーは思うが、結局のところそう言う風に強奪こそが一番だという考えを持つ人はいるものだ。
「あなたのことは騎士に引き渡すから、罰もちゃんと受けてね?」
ドゥニーの尋問だけでは終わらず、きちんと罰も受けさせるつもりのようだ。ただドゥニーもこの状況に陥っているのならば、騎士達にまで敵対勢力の手が伸びている可能性もきちんと考えている。
「騎士達にもちゃーんと、公平な判断をするように伝えておくからね? 反省をするのならば問題ないけれど、次に悪いことをしているのを見かけたら問答無用で命を奪うわよ?」
まずは、その男が罰から逃れようとしないように脅しつけておく。散々尋問され、ドゥニーの恐ろしさを実感している男は、こくこくと頷く。
幾ら見た目が愛らしい少女とはいえ、本気でその言葉を告げていることが分かるのだ。それに目の前の少女ならばどれだけ距離が離れていたとしても何らかの方法で察知して本気で殺しにかかってくるかもしれない……。
「わ、分かりました」
「いい? もし騎士達があなたを釈放しようとしたりしてもよ? 少なくとも私は身近で誰かが狙われるのを見過ごす気はないから」
恐怖心というものが、人を動かす大きな理由になるというのをドゥニーは知っている。だからそう言って、何度も言い聞かせる。
そのままドゥニーは商人夫婦に言葉をかけると、男を引き連れて騎士団の詰所へと向かった。いきなり可愛らしい見た目の女の子が現れて、騎士達は浮き立っている。
一緒に連れられている男は、「頼むから変な手出しはしないでくれ……」と願ってならなかった。『鉄壁令嬢』は敵対するものには容赦がないというのを尋問を受けて理解している。
……これ以上恐ろしい目に遭いたくないとそんな風におもうのも当然である。
「私はドゥニー。『鉄壁』の加護を持つ者よ。責任者の方はいるかしら?」
穏やかな口調で、微笑みかけるドゥニー。
『鉄壁』の加護の意味を知る者は、すぐさまドゥニーを案内しようとする。しかし中には「『鉄壁』の加護? 何を言っているんだ?」とそれを信じない者もいる。