45.『鉄壁令嬢』、商人夫婦の事情を聞く。
「私達は騙されてしまい、不利益を得てしまいました」
「本当に私の不徳の致すところなのですが……、その失敗により、我が商会は危機に陥っているのです」
そう言いながら悲し気に目線を下に向ける商人夫婦。
「不当に騙されたのならば、それを訴えたらどうにか出来るんじゃないの?」
「そう、出来ればよかったのですが……。その者は貴族とのつながりがあり、訴えることも叶わず……」
「そこで商会の財政を回復するためにも、大きな取引が必要でした」
ドゥニーは普段通りの様子で、ただどうにか出来ないのかと不思議そうである。
彼女は『鉄壁』の加護を持つ少女であるので、こんな風に理不尽な目に遭うことはあまりないのである。結局のところ、彼女は何かが起こったとしても自分の力でどうにでもすることが出来る。
『鉄壁』の加護を前に、人々は恐怖し、結局のところその望みを叶えてしまう。
そう、ドゥニーは大体の願望をかなえようと思えば叶えることが出来る存在なのだ。彼女は基本的には自分の手でどうにかしようとそうとするので、誰かに何かを頼むことはないが。ドゥニーが我儘で誰にでも何か理不尽な望みを言い続けるタイプだったら大変だったことだろう。
「ふぅん。本当に理不尽で不当なものだったら王様に訴える? 私から話しておくわよ?」
「え、へ、陛下にですか?」
「ええ。王様は私の話を聞いてはくれるから」
ドゥニーはそう言って、にっこりと微笑む。
王との間には、男女の関係はない。それでもドウガはドゥニーの話を聞くことだろう。『鉄壁』の加護を持つ彼女の意見を聞くべきと王は判断しているのだから。
「あ、ありがとうございます!!」
「ドゥニー様にそう言っていただけるのはとてもありがたいです!!」
ドゥニーの言葉を聞いた商人夫婦はそれはもう嬉しそうに目を輝かせた。これまでは貴族とつながりがある相手にどうしようもなかったのだろう。
(私は割と身分が上の相手でも話を聞いてもらえることが多いし、王様と伝手があるけれどそうじゃなければそうなのかぁ。もっと人の声が王様や上の人達に声が届くような仕組みになった方がいいよねぇ。そういうの出来ないのかな?)
ドゥニーは商人夫婦を見ながらそんなことを考えている。
(ああ、でも私が思いつくようなことぐらい王様達は実行しようとはしているのかな?)
そんなことを思いながら、ドゥニーは商人夫婦に改めて視線を向ける。
「王様に伝えることは出来るけれど、今回の目的地にはとりあえず行く?」
「はい! それは進めたいです。陛下にお伝えいただけたとしても問題解決までは時間がかかるかと思います。それに向こうがどういった行動をしてくるか分からないので備えが必要なのです」
そう言って男性は、真剣な表情をドゥニーへと向ける。
不利益を被り、大きな取引が必要というのはドゥニーにも分かる。そして貴族とのつながりがあるからこそ、怖れているのも分かる。
……しかしそれ以上に商人夫婦は何かを恐れているようにドゥニーには思えたのである。
「なにか、危険なことでもある? 王様に相談すれば、不当な取引ならどうにかは出来ると思うけれど、それが解決するまでになにかある?」
彼女はそう問いかけて不思議そうである。
「陛下に伝えようとするまでの間に、口封じをされてしまうかもしれません。その繋がりがあると言われている貴族は恐ろしい噂があるのです。私達のような平民が、気づけばその周りで消えていると」
「へぇー。物騒ね。故郷にも平民にどんな扱いをしてもいいって考えの人はいたけれど……」
ドゥニーはそう口にしながら、過去の出来事を思い出す。
(確か私の前で平民に恐喝をしていた貴族に関してはとっちめたことはあるのよね。私が『鉄壁令嬢』だと知ったらすぐに謝っていたけれど。自分より強い相手にはあんな風な態度なんだなって思ったもん。もう少し誰にでも平等な態度をしたらいいのにね)
貴族の中には、まともな存在も多い。決まりを守らない貴族はそれこそ罰を受けるが、ばれないように不正を行っているものは当然居るが。
ドゥニーはそういう存在に遭遇すると、見過ごすことなく声をかけ、止めているわけである。
「それはならず者でも雇われるとかそういう感じ?」
「……そういうこともあるかもしれません。陛下に訴えをしている最中に商会自体がなくなったり、私達が死んでしまう可能性もあります」
「私の名前を出してもらえば大人しくなるなら出してもいいですわ。ただそれだと死んでしまう可能性もあるか……となると、私が直接話をするのもありね」
ドゥニーはそう言って、商人夫婦を見つめる。
「じゃあ、問題が解決するまで私がどうにかするね? 王様にはちゃんと報告をすれば問題なさそうだから」
その言葉を聞いた商人夫婦は、「そ、それは有難いですが」と申し訳なさそうな表情だった。
ただ結局ドゥニーが押し切り、問題が解決するまでは商人夫婦の傍に居ることを決めるのであった。