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44.『鉄壁令嬢』、砂漠で怖れられつつ感謝される。




「あ、ありがとうございます」

「あ、あなたは……?」


 魔物を蹂躙した後、ドゥニーは襲われていた人たちに近づいた。

 ――彼らは青ざめつつも、感謝の言葉を口にする。それだけでも彼らが出来た人であるとはいえよう。


 なぜなら、『鉄壁令嬢』の力を前に化け物を見るような目で見る者はそれはもう多い。そもそも彼女が婚約破棄されたのも怖がられたからというのが一番の理由である。




「私はドゥニー。王様のところでお世話になっているものですわ」


 にっこりと笑ってドゥニーがそう告げると、彼らは彼女が誰か思い至ったらしい。ドゥニーの噂はこの国でそれはもう急速に広まっている。それだけのことをドゥニーは様々なことをやらかしているのだ。

 薄緑色の髪と、赤い瞳の愛らしい少女。そんな愛らしい女の子が魔物を蹴散らしている様子は目を疑うものである。




「そ、そうですか。あなたが」

「ところでこんなところで何を? これからどこかに向かう予定でしたら私が護衛してもいいわよ」



 ドゥニーがそんなことを口にしたのは、彼らが何処に行くのだろうかという好奇心でいっぱいだからであろう。




 見るからに彼らは少人数で動いていた。この砂漠の地でそんなそんな人数で動くのはしない方がいいことである。なぜなら危険な魔物も沢山いるのだから。




「えっと……し、しかしですね。私達にはお礼として渡せるものがございません。私達が少ない護衛でこうしてここにきていたのは、金銭面での余裕がないからです」

「ドゥニー様と言えば……あの加護持ちの方ですよね? あなたのような方に払うお金は……」



 青ざめた様子の男女。

 その周りの護衛たちは、何か言いたげに彼らを見ている。というのもこれ以上の危険が起こる可能性があり、ドゥニーについてきて欲しいと思っているのだろう。


 そうして話している間にガロイクも鳥の魔物に連れられてその場にやってきた。




「あ、姉御」


 魔物から降りたガロイクはふらふらしていた。具合が悪いのか座り込んでいる。



「あら! ちょっとガロイクの様子を見てくるので待ってね」



 ドゥニーはそんなことを口にすると、ガロイクの方へと近づく。




「ガロイク、大丈夫?」

「ぜ、全然大丈夫じゃない……うええええ」

「あら」



 ガロイクは気持ち悪くなっていたのかその場で吐き戻した。

 鳥の魔物の動きに身体が耐えられなかったらしかった。





「お礼はガロイクを休ませることでどうかしら?」

「え」

 


 そしてガロイクの背をさすりながら、ドゥニーは払うお金がないと言い放つ男女に向かってそう言った。




「そ、それだけでいいのですか?」

「いや、流石にそれは……」

「ええっと、じゃあガロイクを休ませるのに加えて、途中で何かしら報酬もらう形にしたらいいでしょう? もちろん、そんな高価なものを望んでいるわけではないわ。私が気になるものを何かしらの形でもらうのを追加ってことで」



 



 まるで決定事項とでもいう風に、ドゥニーはそう言ってのける。

 彼女自身は面白いことが大好きな好奇心旺盛な少女なので、正直お金よりもそういう経験をさせてもらえればそれでよかった。そもそもお金はどうにでもなる。





「は、はい」

「で、ではよろしくお願いします」



 結局ドゥニーの勢いに押されてその男女は頷くのであった。それからガロイクを休ませるためにもしばらくその場にとどまることになった。寄ってきた魔物は全てドゥニーが意気揚々と対峙するので、彼らも安心しているようだ。あとは鳥の魔物もすぐ傍に居るので、知能のある魔物が寄ってこないから比較的安全というのもあるが。






「なるほどー。商会の方なのね」

「はい。ドゥニー様のおかげで商品が無事だったので、本当にありがたいです」

「私達の商会にとっても今回の取引はとても重要なものなのです。失敗したら雇っている者達に給与を払うことさえもままらならなかったので……」



 そう言いながらドゥニーの前で一瞬暗い顔をする商人夫婦。

 ドゥニーはあまり深く物事を考えない。直感的に動くことも多いが、そういう表情をしているのには理由はあるだろうとは思っている。




「しかし全て命あってのものでしょう? 私が通りかからなかったら死んでしまっていたかもしれないわ。節約するのは重要だけれども、命を粗末にしようとしたらいけないわ」


 ドゥニーは戦うことも好きで、よく魔物を殴り飛ばしたりしている。しかし彼女以外の人は、そんなことは出来ない。それでいて魔物に遭遇すれば簡単に命を落としてしまうことも把握している。

 ドゥニーの目から見て、目の前の商人とその護衛として雇われた数少ない者達もそこまで強くなさそうだった。目の前の商人夫婦など、事実としてドゥニーが殴れば命を落とすだろう。



 そのことはよく分かっている。





「それは……その通りです。しかし事情があるのです。実は……」



 そう言って、商人夫婦はその事情を誰かに余程話したかったのか、口を開いた。



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