43.『鉄壁令嬢』、鳥の魔物に乗って砂漠を見て回る。
「気持ち良い!! ね、ガロイクもそう思わない?」
「そ、そんな余裕ないです!! 姉御はよく、こんなところに居て笑顔になりますね……!!」
さて、ドゥニーとガロイクが現在いるのは彼女が従えた鳥の魔物の上である。
数々の財宝を崖の上から持ち帰ったドゥニーだが、彼女にとってはそれは冒険のついでに見つけたものでしかなく特別なことでは全くない。
それは国を揺るがすようなことを起こしているというのにドゥニーは何処までも自然体であり、全く変わらない。
人によっては凄まじい功績であろうとも、ドゥニーにとっては些細なことでしかないのがよく分かる。
「上空からの景色って、色んなものが見れて本当に楽しいわよね!! なんというか、地上を歩いている時では分からなかったことも、沢山分かるもの」
そう言いながらにこにこしているドゥニーとは対称的に、共に魔物の上に居るガロイクはそれはもう顔色が悪い。彼からしてみるとこんな本来ならば届くことのない高い位置に魔物に乗って移動するのは恐ろしくて仕方がないのだろう。
そもそも魔物がどれだけ人の言うことを聞くかというのも定かではないのだ。今すぐにでも、魔物が自分たちのことを振り落としたら――などと考えるだけでもガロイクはぞっとしてしまう。
ドゥニーは基本的にのほほんとしている性格であり、そもそもこんな上空から落とされたところで彼女の体に傷一つつくことはない。それが分かっているからこそこういう状況でも特に恐怖心などはない。ガロイクが落ちた場合は彼女が身体を張って盾になるだろう。少なくとも、ドゥニーが下敷きになれば命は失われることはないだろう。
「ねぇ、ガロイクにとっても目新しい地形とかある? 人があまり訪れないエリアとか、私行きたいなって思うのだけど!!」
「姉御!! 俺にはそんなものを見る余裕は全くないんです!!」
「んー? そうなの? そっかぁ。じゃあ見れる範囲でいいよ」
ドゥニーは目を輝かせて、地上を見下ろしている。
もちろん、その範囲にはドゥニーが移動したことがないような場所も多々ある。そういう場所を見ると、ドゥニーはワクワクした気持ちでいっぱいになる。
(あっちの方は行ったことないよね。逆にあそこはこの前行ったところ? こうやって上から見ると、地上を歩いている時と比べてなんか違う感じに見える。不思議だな。同じ場所なのに、こうやって見方が変わるなんて。それにしても空を飛べる生物たちっていいよね。こういう光景をずっと見ていられるのっていいなぁ)
ドゥニーはそんなことを思いながら、にこにこしている。嬉しくて仕方がないと言った様子で、楽し気な様子を見せている。
彼女は『鉄壁』の加護を持ち合わせているからこそ、普通の人間よりは様々なことが出来る。とはいえ、あくまでも彼女は人間だ。だから翼を持たないし、魔法は使えても自由自在に飛び回ることなどは出来ない。
そういう魔物の特性に触れれば触れるほど、彼女は興味深いなと思ってならない。
好奇心旺盛なドゥニーは、知りたいことが山ほどあるのだ。自分とは違うもの、自分が出来ないことが出来る生物。それでいてみたことのない特性。なんでもかんでも、彼女は知りたいと望んでいる。
だからこそこうやって上空から様々なものを見ることが楽しいと、そう思っている。
この砂漠の地は面白いものが沢山あるのだ。ドゥニーの祖国では見たことがないものが、沢山この地には存在する。
「ガロイク!! あそこ見て」
「姉御……だから、俺は下なんて見れないって言ってるでしょうが!!」
「ああ、ごめんごめん。ねぇ、降りてくれる?」
ドゥニーは自分たちをのせている魔物に向かって、そう告げる。
そうすれば魔物は急降下していく。それに対して、ガロイクはまた凄まじい叫び声をあげていく。
「うわああぁあああああああ」
一気に下降していく。
とはいえ、その際には落ちないようにしっかり対処はしているようだ。鳥の魔物がそれだけ気を利かせていることに気づく余裕は当然ガロイクにはない。彼は必死に魔物を掴み、落ちたくないとそればかりを考えている。
逆にドゥニーは「楽しい!! こうやって落ちるのもありね」などとぶっ飛んだことを相変わらず言っている。
そもそも生身で、急下降なども普通にやってしまう少女なので、この位で怯むことはまずない。
そしてそのまま下降し、地上へと近づいたタイミングでドゥニーは「私、降りるわ」と口にしてそのまま下へと飛び降りる。
「よいしょっと」
そう口にしたかと思えば物凄い勢いで、砂漠の上へと降り立つ。
その場に存在していた魔物たちは、突然のドゥニーの登場に目を張っている。
その魔物達が驚いている間に、ドゥニーは魔物へと襲い掛かった。
丁度、その場では人が魔物に襲われていた。襲われていた人間たちは少女が突然魔物を蹂躙する様子を青ざめた顔で見ていた。