40.『鉄壁令嬢』、持ってきた石の話を聞く。
「ドゥニー様、これをどちらで!?」
「崖の上の窪みにあったものだけど、ジャンノーはこれが何か知っているの?」
その石を見た途端、表情をがらりと変えたジャンノーへドゥニーはそう問いかける。
何か面白い話でも聞けるのではないかと、そういう気持ちでいっぱいのようだ。
「私も書物でしか見たことがありませんが……、これはおそらくブラッドストーンと呼ばれるものです」
「なにそれ?」
「膨大な魔力を含む、特別な石です。過去、この地で栄華を栄えた古の都市ドウフェンで使用されていたと聞いています。そしてこの石を巡って多くの血が流れたとも……。使い方はわかりませんが、まさか実物を見ることになるとは……」
ドゥニーの手に持つその石を見て、ジャンノーは体を震わせている。それだけ特別な石であるのだろう。その石を見ているだけで気が気でないのかもしれない。
「……ドゥニー様、この石に関しては一旦隠していただけますか? 幸いにも他の者たちはドゥニー様の持ち込んだ財宝のことで頭がいっぱいで、こちらにまで気が回っていません」
「公にしない方がいい?」
「はい。これは陛下にのみ報告をする方がいいかと思います。後々、大々的に発表する形にはなるかもしれませんが……」
「ジャンノーがそういうならそうするわ。一旦、魔物に隠し持たせとく」
ドゥニーにはこの石一つで大変になるというのがいまいち分からない。
しかし自分の思考が周りに理解されないことも多いので、大人しくジャンノーの言うとおりにすることにする。彼女はその石を持ち込んで、何かしら面倒なことになることを望んでいるわけではないのだから。
ジャンノーはドゥニーが大人しくそれを魔物に隠し持たせるといったことにほっとした様子を見せた。
「でもなんで隠した方がいいの?」
「特別なものだからです。これを巡って争いが起きる可能性があります。ただでさえドゥニー様がこれだけの財宝を持ち帰ったことで城内は湧き出っています。あのドゥニー様が持ち帰った財宝でさえも奪い合いになる可能性もあります」
「そうなの?」
「はい。ですから、これ以上見せるべきではありません。ドゥニー様は……、崖の上で沢山のものを見てきたでしょう。その見てきたものの一つ一つが重要な情報だったりすると思います」
「そんなに? なら、まずは王様にだけ言っておけばいい?」
「そうですね。それがいいかと」
ここで自分だけで情報を独占しようとしないあたり、ジャンノーは善良であると言えるだろう。
そういう思考をしているものはおそらくドゥニーのことを利用しようとするだろう。最も『鉄壁令嬢』と呼ばれる恐ろしい存在相手にそのような真似をするのはよっぽど豪胆な者か、頭の足りない者かのどちらかであろうが。
「そうするわ。ところであの石ってどういう使い方するかって残ってないってこと?」
「そうですね。現状では不明です。とてつもない力を持っていたというその一文はありましたが」
「確かに宝石みたいに輝いていて、珍しそうだけどそういう力があるようには見えなかったけど」
あくまでドゥニーは力を持ってそうだからではなく、ただ珍しそうだから持ち帰ろうと持ち帰っただけである。
ジャンノーから話を聞いてもその石にそんな特別な力があるようには思えなかった。
(特別な力か。それだけ凄いものなら私が殴っても壊れないかな? いや、でもそこで壊れてしまったら珍しいものならもったいないかな。割れても効果が発揮するかしないかにもよりそうだけど……)
好奇心の塊であるドゥニーは、それだけ力を持つ石だというのならば壊してしまっても問題ないのではないかなどと思考している。
じっと魔物の方を見る。先ほどふさふさの羽毛に隠させた石。今からでも取り出して壊してみようかなどとそういう気持ちが湧いている。
「ジャンノー。それだけ特別な力があるなら、私が殴っても壊れない?」
「やめましょう! それはやめてください。貴重なもので、力があると言われていても……ドゥニー様の力で殴ったら絶対に壊れます」
「そうかな」
「はい。そうだと思います。何個も数があるならともかく、一つしかない状況でそれはやめていただきたいです。どういう使い方があるか分かりませんが、壊してしまったら効果が発揮できないことになりかねませんから!」
ジャンノーがあまりにも必死なので、ドゥニーはそれを殴ることを断念することにした。
(一つだからダメなら、他にも見つけたら殴ってみるのはいいかもしれない。私が殴っても壊れないなら面白いもん)
自分が殴っても壊れないものというのを、ドゥニーは知らない。
生物も、物体も――ドゥニーが本気で殴れば全て壊れるものである。だからもしかしたらこの石は自分が殴っても壊れない面白いものかもしれないと期待しているようだ。
さて、一旦その石に関してはドウガにのみ報告することになったので、早速内密に話をすることになった。