38.『鉄壁令嬢』、財宝を持ち帰ったことに驚愕される。
「ドゥニー様、崖の上で冒険をされたのですよね? お休みになられたらどうですか?」
「私は全く疲れていないので、問題ないわ」
ドゥニーは誰も行ったことのない崖の上に赴き、そして魔物と戦ってきたというのに全く疲労の様子を見せていない。
寧ろ、今すぐにでもその財宝の情報を聞きたいとばかりに目をキラキラさせている。
ちなみに魔物たちに関しては民がおびえるからという理由で、帰ってもらっている。
彼女の持ち帰った財宝は、砂漠の国の者たちを驚愕させるのには十分だった。
そもそもの話、ドゥニーが城を飛び出してまだ一日も経過していない。なのに短い時間でこれだけのことを成し遂げてくるなんて通常ならばありえないのだ。
それに彼女が登ったという崖は、難攻不落の場所とされていた。人の身では到達することの出来ない一種の神の領域のように言われていた場所だった。ただその断崖絶壁の崖を登るだけでもただの人の身では難しい。そして登っている最中には多くの魔物たちが襲ってくる。
その状況でその命を失うことなく、崖の頂にまで到着するなんてまともではない。
それでいてその崖の上で生活する魔物を従えて、多くの財宝を持ち帰ってくるなど……幾ら彼女に加護があることを事前に知っていたとしても成果を持ち帰ってくるなどと思わなかったのだろう。
「ドゥニー、本当にあの崖の上に登ったのか……」
「そうですよ。王様! 崖の上は面白いものが沢山でとっても面白かったです。あんなに面白い遊び場があるなんてやっぱりこのあたりの砂漠は面白いですわ」
ドウガの呆れたような、なんとも言えないような言葉にドゥニーは元気よく答える。
この国の王であるドウガからしてみれば、彼女が人類が未到達であったその崖の上に行ったことに関して少し複雑ではあった。
もちろん、これだけの歴史的な価値のあるものを持ち帰ってきたもらえたことに関しては感謝している。
しかし砂漠の王もまたその誰も登ることの出来ない崖の上への興味を持っていた。その場所をいつか自分の目で見たいと、その場所をこの砂漠の国の民たちで解明するのだとそう思っていた。
彼女は一応砂漠の王に嫁いできた身ではあるが、本当にそれは名だけである。
(――これだけの力を持つドゥニーが、永遠と我が国に居続けるとは正直想像が出来ない。彼女は決してこの国の一員になったわけではないのだ)
嫁いだ先で子を成して、その場所に定着するのならば国民になったと言えるだろう。
だけれどもドゥニーは、おそらく面白いものがあれば砂漠の国を飛び出して、何処にでも行くことだろう。面白そうだからと砂漠の国に向かうことを承諾しただけであって、彼女はどこまでも自由である。
(……彼女の祖国のピレオラ王国も、彼女を制御することなど出来ないことを知っているからこそ簡単に手放したのだろう。自分の言うことを聞く加護持ちならばそのまま国で大切に囲ったはずだ。ただの、普通の令嬢だったならば……、贅沢をさせて持ちあげれば国に定着するだろう。恋に溺れるタイプならば惚れさせればいい。ただ、ドゥニーはそういう女ではない。自分の意思を明確に持っているからやりたくないことはしないし、何より何処までも自由だからこそ、何か面白いものがあればすぐに飛び出していく)
――ドゥニーは周りからしてみれば大変扱いにくい少女ではある。善良ではある。話は通じる。しかしその意思は曲げない。誰かに制御されることなど望まず、何処までも楽し気に、ただただ毎日を謳歌している。
(おそらくこの砂漠にいる間、彼女は砂漠を自由気ままに歩き回り、これまで解明出来なかったことを沢山暴いていくだろう。……それは喜ばしいことだが、出来れば彼女の力を借りずにそれが出来ればよかったのだが)
ドウガがそんな風に考えているのは、ドゥニーという特別な力を持つ少女の力を借りないとそれが成し遂げられないことに複雑な気持ちを感じているからである。
「王様、こんな面白いものを沢山なのに詰まんないですか?」
「……いや、そういうわけではない。俺たちはお前の力を借りなければ崖の頂の状況を把握できないのだなと思っただけだ」
「結構危険ですからねー。落下と魔物の危険ありますから、加護とか魔法とか使えないと難しいんじゃないですかね!」
ドゥニーは王の複雑な気持ちなど全く理解していないので、無邪気に笑っていた。
「それよりこの持ち帰ったものって結構貴重ですか? 私では価値が全く分からないので壊さないように持ってきたのですけれど」
「おそらく貴重だ。研究者たちもあれだけ目を輝かせているからな。俺はそこまで詳しくは分からないが」
「へぇ、そうなんですね! なんか面白い発見とかあるのか考えただけでワクワクしますね」
「そうか…。それより何か望みはないのか? これだけのことを行ったのならば報酬は必要だが」
……正直に言うと短い時間で、これだけの歴史的な価値のあるものを大量に持ち帰ったものなど過去にはいないのでドウガは彼女にどれだけの報酬を与えたらいいか見当がつかなかった。
「私が知らない情報下さい!」
「分かった。……他の報酬についてはおって相談して渡す」
「了解です! 楽しみにしていますね」
無邪気にドゥニーは笑っている。
これだけの成果を出したのならば、もっと膨大な報酬を要求してもおかしくない。それこそ横暴だと言われるものでも通るだろう。
しかしドゥニーは特に、そういうものは望まずどこまでもいつも通りだった。