37.『鉄壁令嬢』、砂漠の国の城へ財宝を持ち帰る。
「ドゥニー様、これをどこで!? それに魔物を従えるなんて本当に凄いですね!!」
ガロイクは研究者や戦士、文官を魔物と共に待っていたドゥニーの元へと連れてきた。
彼らは一同に驚愕の表情を見せていた。彼女が砂漠を探索していることは把握していたものの、こんなにすぐに結果を出すとは思わなかったのだろう。
研究者であるジャンノーは、ドゥニー自身にも魔物たちにも、その財宝にも興奮してならないらしい。
他の者たちがひきつった顔をしている状況で、ジャンノーは躊躇いもせずにドゥニーに近づき、キラキラした目を浮かべている。
「これは崖の上にあったのよ。この魔物たちが巣にため込んでいたの」
「なんということでしょう! では崖の上には都市の跡地なども?」
「え、ううん。都市は見渡らなかったわ。全部は見れてないけれど、そういう大きな建物は見当たらなかったわ」
「こういうものがあるなら、街か都市かが近くにあるかと思ったのですが……」
「でもなかったわ。それにあんな崖の上にそういう建物があるのはおかしなことだと思うけれど。それだとずっと崖の上で生活していることになるし……」
ジャンノーから言われた言葉に、確かにと思ったもののそれだとおかしな話になる。
あの崖の上は危険である。標高が高く、人は生活がし辛い。食べ物もあまりなく、危険な魔物も多くいる。そういう場所で人が生活していくというのは中々難しいものである。それにひとたびその崖から落ちてしまえば、普通の人ならば間違いなく死ぬ。
(あの崖の上で生活できるだけの人々が居たとすれば、そのまま生き延びているだろうし……。それだとあれだけ人の気配がないのはおかしいものね。でもそうなるとどこから魔物たちはああいう文明的な、人が使うようなものを持ってきたんだろう? 中々地上で見かけない魔物って話だったら崖の上で見つけてきただろうし。うん、全部知れたらきっと楽しいわ)
ドゥニーはそんな好奇心でいっぱいである。
「ドゥニー様は魔物たちの言葉は分からないですか?」
「流石に分からないわ。この魔物たちが私の言うことを聞くのは確かだけど、何を言っているかは分からないもの。そのあたりが分かったら、どうして巣にこういうものがあったのか分かりそうなものだけど」
「そうですよね。魔物たちがどこからこれらを集めたのか……本当に興味深いです。これらの財宝に関してはこちらで預かっても大丈夫ですか?」
「ええ。もちろんよ。ちゃんと調べて欲しいわ。私だといつのものかとかも全部分からないもの」
ドゥニーとジャンノーは楽しそうに会話をしている。
二人とも疑問の答えを知りたくて仕方がない様子だ。いつまでもその会話は続きそうだったが、文官に声をかけられて中断する。
「ドゥニー様、重くて人の手では運べないので魔物たちに運んでもらってもいいですか? 民には陛下から魔物が現れるが恐れなくていいとは通達してもらっていますので」
「分かったわ」
魔物が街に近づくというのは、民の混乱を招く行為である。
だからこそなるべく人の手でそれらを運び込めれば一番よかった。しかし彼女が崖の上から持ち帰ったものは、人の手では持ち運ぶのが難しい重さのものであった。
そういうわけで結局魔物たちの手により、それらは運び込まれることになる。
人に関しても歩くよりも乗せて移動した方が早いので、皆魔物に乗って移動することになった。
「これだけ重たいものを軽々と運ぶなんてこの魔物たちはどれだけ力が強いんでしょうか。ドゥニー様、生態を知りたいと言った場合は協力してくださいますか?」
「この子たちの? うん。私の言うことは聞くから協力は出来るわ。その代わり私の知らない情報沢山教えて欲しいの」
「もちろんです! 私もドゥニー様にお聞きしたいことは山ほどあるのです。崖の上でこの魔物たちを手なずけたことは分かりましたが、もっと他にも私の知らない情報をドゥニー様は持ち帰っているでしょう。それを教えて欲しいのです」
ジャンノーは中々肝が据わっているらしく、ドゥニーと一緒に魔物の上に乗って楽しそうにしていた。
他の者たちは幾ら彼女が手なずけたとはいえ、危険な魔物に乗って移動していることに青ざめた様子だった。
魔物たちはドゥニーからくれぐれも「落とさないように」と命じられているので、乗せている人や運んでいる物を落とすことはないのだが……そんなことを実際に運ばれている者たちが理解できるはずもない。
巨大な鳥の魔物が、上空を飛び、そして財宝を運びこむ……という光景がサデンの王都でその日見られた。
それが一人の少女によってもたらされたものだと知り、誰もが驚愕するのであった。
(この財宝を持ち帰ったことでどんなことが分かるんだろう? 凄い発見とかが見つかったりするのかな)
その光景を作り出した当の本人はそんな思考しかしていない。
ただただ自分が持ち帰ったもので何か面白いことが発覚すればいいと、ドゥニーは楽しそうに笑みを浮かべていた。