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34.『鉄壁令嬢』、研究者から聞いた崖の上で鳥の魔物を屈服させる。

 向かってきたその魔物をドゥニーは躊躇いもせずに押さえつけた。殴り飛ばさなかったのは、それを察して仲間を呼ばれるよりも、一旦黙らせる方がましだと思ったからである。



 この鳥の魔物は、前回対峙した時も逃げることなく彼女に向かってきた。

 敵に対しての逃走本能がおそらく低く、何らかの条件を満たさないとその命が費えるまで敵に向かってくるタイプのようだ。



 だから一旦、その一匹の命を静かに狩る。



(この巣に生息している魔物全部ぶっ飛ばす? どうしようかなぁ)


 彼女は『鉄壁』の加護を行使して魔物をぶん殴ることは好きだが、全てを殲滅することを望んでいるわけではない。……まぁ、向かってきたらもれなくその命を狩るだろうが。

 そういうわけでこの鳥の魔物の巣には興味津々で、思い付きで忍び込んではいるがこの巣にいる魔物全員を殺しつくそうとは思っていなかった。




(探索出来ればそれでいいんだけどなぁ。私に恐れて向かってこなくなってくれたら楽なのだけど、大人しくなってくれないかなぁ。割と本能で怖がってくれるタイプの魔物だとすぐ私から離れていったりするんだけど)



 彼女はそんなことを考えながら収集物を観察すると、巣の中心部に向かって歩き始めた。

 ……すやすやと眠る魔物の姿が映る。無防備なのはここが自分の巣だからと安心しきっているからだろうか。

 もしかしたらこの鳥の魔物たちは、この崖の上に置いてもっとも力のある魔物なのかもしれない。

 だからこそ巣にいれば他の魔物が襲ってこない……という状況なのかもしれない。



 ……そんな凶暴で危険な魔物の巣に、単身で一人の少女が忍び込むなどとは彼らは全く考えてはいないのだろう。





 さて眠る魔物たちに悟られないように移動し、彼女は面白いものを見つけた。

 それは巨大な卵である。――真ん中に赤と緑の線がギザギザに刻まれている真っ白な卵。おそらくそれはここを巣としている鳥の魔物の卵であろう。

 その卵を温めることで、雛が孵るであろうことが伺えた。



 その巨大な卵が、十数個並んでいる。

 ここに住まう魔物がよっぽど繁殖力が強いのか、それともたまたま繁殖の時期なのか。

 そのあたりは彼女にはさっぱり分からない。




(この卵、食べたら美味しいかな?)



 彼女が思考していたのは、目の前の巨大な卵も食べたら美味しいのではないかなどというそういう食欲に満ちたことであった。



 さて、その卵を食べてみようか否か考えている彼女の背後に大きな影が映った。まるで巨大な岩か何かが、彼女の後ろに移動したようであった。

 振り向けば――、そこには怒り狂った鳥の魔物がいる。

 その大きさは、彼女がこれまで相手にしてきた同種の魔物とは異なる。その数倍ほどの大きさの個体だった。




 大切な卵を前に何かをしようとしている侵入者相手に、怒りを露わにするのは当然である。

 生物というのは基本的に我が子を大切にするものだ。その生態によっては子に対する情を持ち合わせていないものもいるかもしれないが、少なくとも彼女の前にいるこの魔物は子を大切にしているのであろう。



「わぁ」



 巨大な魔物を前に、彼女はその目を輝かせる。

 基本的に彼女は巨大なものが好きだ。それだけ見ていてワクワクするから。

 見たことのない、大きな魔物。――その魔物と戦えるというだけで、楽しくて楽しくて仕方がない。




 目を輝かせる彼女にその魔物はとびかかってくる。しかし少し遠慮しているように見えるのはその背後に卵があるからだろうか。



(この卵の近くだと本領を発揮してくれないのかな? 本気を見せてもらえた方が楽しいからちょっと離れようかしら)



 彼女からしてみれば、本気の魔物の相手をしたい。

 そういう理由で卵の傍から離れながら、魔物からの攻撃を華麗によけていく。




 素早いスピードで、爪を突き立て、嘴で攻撃してくるその魔物。

 巣から離れた場所に彼女が行きつけば、炎を吐き、その場一面を燃やす。一回り以上小さな同種の魔物が吐いた炎とはくらべものにならないほどの、熱量のものである。



 その場を燃やし尽くす……。

 ただそこを歩いていた魔物が燃えていく。


 ――だけど、その炎の中でも『鉄壁令嬢』ドゥニー・ファイゼダンは微笑んでいる。

 その身に火傷一つつかない。そもそも『鉄壁』の加護の前では、その熱さも無意味。



 笑みを浮かべたまま魔法を使って跳躍した彼女は、思いっきりその魔物を殴り、たたきつけていく。

 不思議と他の同種の小さな魔物たちは襲い掛かってこなかった。それは巨大な魔物ならば彼女をどうにか出来ると思っているのか、それとも手出しをしないルールでもあるのか。




 殴り、たたきつけ――、傷を負うのは魔物だけ。

 彼女は無傷。

 何をしても、彼女が傷つかないこと、倒せないことをその魔物も理解したのだろう。





「あら?」



 その巨大な魔物は、地に足をつけ、翼を畳み、頭を下げ――彼女の前に屈服した。戦意のない様子を見せつける。




「私と、戦う気がなくなったの?」


 それにこたえるように、その魔物は鳴き声を発する。

 ……不思議と、他の同種の魔物も彼女への服従の様子を見せる。



(この一番上の個体が負けを認めたら、全員負けを認めるってこと? それにしてもこの子、私の言葉をなんとなく理解しているのかしら)



 彼女は呑気にそんなことを考えながら、戦闘態勢を解くとこちらをうかがうように見ている巨大な魔物の身体を受け入れるかのように撫でるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 服も鉄壁の加護で萌え…ぢゃなくて燃えない?
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