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3.『鉄壁令嬢』、異国へ向かう。




「ドゥニーちゃあああん、行かないで!!」

「お父様、泣きすぎです」


 その日、ファイゼダン侯爵家の屋敷では侯爵が泣きわめいていた。


 ……というのも結局、家族たちが必死に止めるのもむなしくドゥニーは異国へ向かうと決めていたからである。


 ドゥニーは好奇心旺盛な令嬢である。経験した事のないことを経験することも好きなので、割と流されがちに提案されたことに頷いたりもする。

 ドゥニーはそういう子である。なので、正直異国の王の元へ嫁ぐことはドゥニーにとって面白そうと思えることだった。


 異国の、誰も知っている人が居ない土地。

 その場所でならどういうものが待っているだろうか? そう考えるだけでドゥニーは楽しみで仕方がない。

 そもそもの話、ドゥニーは加護持ちであるということで王太子の婚約者になることを求められた。そしてこういう機会がなければドゥニーが他国に向かうということは正直難しかっただろう。

 



「ドゥニー……、止めても仕方がないことは分かっているが、何か嫌なことがあったらすぐに相談するんだよ?」

「ドゥニー、本当に王太子を破滅させなくていいのか?」


 兄二人にそんなことを言われて、ドゥニーは笑った。



「もちろんですわ。ちゃんと何かあったら手紙を書きます! あと殿下の事は本当に破滅させなくて大丈夫!」


 まだ王太子を破滅させた方がいいのではないかと言っている次兄であった。

 きちんと言っておかないと本当に王太子を破滅させかねないので、再度ドゥニーは大丈夫と告げておく。



 あとは家族だけではなく、侯爵家の使用人たちもドゥニーのことを送り出すためにその場にずらりと並んでいる。

 昔からドゥニーのことを知っている使用人に関しては、「好き勝手生きているお嬢様が他国に放たれるなんてっ。大丈夫だろうか……」と心配していた。ドゥニーときたら好奇心の赴くままに周りの度肝を抜くような行動ばかりしているのである。その使用人はドゥニーが生まれてからというもの、心臓が鋼のように強くなった。



 もちろん、ドゥニーが他国に向かうことを悲しんでいる者や惜しんでいる者もいる。

 ただドゥニーは今回、王太子の婚約者であるという鎖が外れた。自由が利かなかった王太子の婚約者であった時でさえ、ドゥニーは割と自由気ままだった。

 ……そう考えると異国の地に放たれようとしているドゥニーは本当に何をしでかすか分からなかった。




 ドゥニーが異国へと嫁ぐ用の馬車には沢山の物が積まれている。それは王太子が婚約破棄を申し出たお詫びで王家から与えられたものだったり、家族たちがドゥニーが異国へ行くからと準備したものである。


 ドゥニーは一応、異国の地に嫁ぐと言う名目で異国に行くわけだが……、王太子が説明していなかったことは王家からその国に伝えてもらっている。加護持ちで、訳ありで、制御なんて利かないドゥニーを受け入れることにしたのにはどんな思惑があるのだろうか。




(私の『鉄壁』の加護目当てなのか、それともそういう事情をきちんと理解していないままに王国からの申し出に頷いたのか、まぁ、どちらだったとしてもどうにでもすればいいものねぇ。どんな景色が待っているかしら? 私砂漠って見たことないのよねぇ。砂漠に住まう生物の住処巡りとかしても楽しいかも? あとは……)


 ドゥニー、何かを考えて涎が垂れそうになる。

 そしてはっ、とする。



(いけないいけない。ああいう土地にだから住まう生物食べたいなって思ったら涎が! 私が食べたことないような独特な味をしているものとかあるのかしら? 人が食べないようなものとかも食べたいわ)



 食べることが大好きなドゥニーは、泣いていたり心配そうな家族や使用人たちを目の前にしてこれから出会う食べ物のことで頭がいっぱいである。


 一応、後宮に入る予定の令嬢の思考とは思えない。

 そして後宮に入ったところで、自由気ままに外に出る気満々である。




 ドゥニーは『鉄壁』の加護を持つので、妃としての役割をすることはそもそも難しいというのを本人は分かっている。


(だから、衣食住を提供してくれるお礼に別の形で貢献したらいいよね。砂漠の国の王様とか、後宮の人たちとも仲良くなれたらいいな)



 ……ドゥニーはそんな思考をしている。

 おそらく後宮の元からいる妃たちは、新たな妃に良い顔はしないだろう。しかし周りから悪感情を向けられようが、何かしら嫌がらせをされたとしても『鉄壁』の加護の前では何も意味をなさないということをドゥニーは知っている。


 だからドゥニーはこうして異国へと向かう直前でものんびりと、マイペースである。





「じゃあ、お父様、お兄様方、いってきます!! 会いたくなったら会いに来ますし、お父様たちも会いにきてくださいね!!」



 ドゥニーはどこまでも軽かった。



 まるでどこかに遊びに行くかのような軽い挨拶をすると、ドゥニーは馬車の中へと乗り込むのだった。




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