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29.『鉄壁令嬢』、研究者から聞いた崖の前に立つ。




「上が見えないほど高いわ」



 ドゥニーは好奇心でいっぱいな様子で、上を見上げている。



 ――目の前にあるのは、崖である。ジャンノーから聞いた登ることが難しいとされているその場所。

 そびえたつ様子は、壁のよう。



 ひとたび登ろうとすれば魔物に襲われてしまう。そんな死が近い場所。

 この砂漠の地で何人もが上へと上がることを望み、そして挫折してきた場所。




 その話を聞いても、ドゥニーにとっては見たことがない景色が広がっている面白い場所という認識しかない。



「姉御、本当にこれを登るんですか……?」


 ドゥニーの隣にいるガロイクは、ドゥニーとは違い何とも言えない表情をしている。

 どれだけドゥニーの凄さを知っていても、目の前の絶壁を本当に登れるのだろうか? とそんな風に思うのも当然のことであった。




「うん。楽しそうだから」

「……かなり危険ですよ。俺の知り合いもこれを登ろうとして死んだ奴もいます」

「命を賭けてまで見たいってことよね! そんな光景が先にあると思うとワクワクするわ。でも楽しいことは命あってのものだから、命を賭けるものではないと思うわ」

「姉御はそうでしょうね。でも……命がけでも何かをなしたいと思う人はいるんですよ」

「それは知っているわ。でも命があった方が、これから先楽しいことが盛りだくさんだと思うのよね!」


 ドゥニーという少女は、『鉄壁』の加護をからこそ命の危険にさらされたことはない。

 魔物と戦ったり、危険な場所を訪れたり――といったことは好奇心の赴くままに行っているが、それで死を覚悟するほどの目にはあったことがない。


 ――そういうドゥニーだからこそ、命がけで何かをなそうとする人の気持ちは分からない。

 ドゥニーとは、そういう生き物である。ガロイクもドゥニーと話していると、彼女がどれだけ普通とは違う考えを持っているのを理解している。




「姉御なら何の問題もないでしょうね。上で何が待っているか教えてください。俺の知り合いが命を賭けてまで見に行く価値があったのか……、それを俺は知りたいです」



 ガロイクにとって知り合いがこの崖を目指し、そして亡くなったからこそ何が待っているのか知りたいと思っていた。



 何が待っているか分からないからこそ、命がけででもその光景を見たいと望んだ。

 そうやって散っていった命が、見たいと望んだ光景は何が待っているのだろうか。そしてそこに待っているものが例えばその命を賭けるほどの者じゃなかったとき……残されたものは何を思うだろうか。



 ガロイクだってやるせない気持ちにきっとなってしまうだろう。

 ――だけど、ドゥニーにはそのあたりの感情はよく理解出来ない。



 だからガロイクが暗い顔をしている理由も分からない。




「何が待っているか知りたいの? じゃあ上で何が広がっているのか教えてあげる。ガロイクも一緒に行きたいなら私が引っ張っていくけど」

「……いえ、流石に遠慮します。姉御一人ならば問題はないでしょうけど、俺は同行すると間違いなく死にます」

「私がちゃんと守ってあげるのになぁ。まぁ、危険な目には遭いそうだし、そういうなら仕方ないね!」

「……姉御は行きたいっていったら俺をどうやって連れてくつもりだったんですか?」

「抱えて! 縛り付けてもいいかも」

「……やっぱり遠慮します。怖すぎます。しかも姉御、多分素手で登る気ですよね」

「もちろん。自分の身体が一番信用できるもの。その方が魔物への対応もしやすいし」



 ドゥニーは全くためらいもせずにそんなことを口にする。



 絶壁を素手で登りきるなどという令嬢。やっぱりドゥニーは何処までも普通とは異なる令嬢である。

 そういう力があった所で、そういうことを成そうとするあたりがドゥニーなのだ。






「ええっと、姉御はどのくらいで戻ってくるつもりですか?」

「んー、未定!! 上がもっと面白かったら遊ぶかもしれないもの」

「……俺、どこで待っておくのが一番いいですか?」



 ガロイクはドゥニーが思ったよりも時間をかけて崖を楽しみそうなので、どうしたものかと悩む。


 流石にガロイクは普通の人間なので、長時間砂漠で待ち続けるのは中々危険である。

 きちんと問題のない場所で待機する必要があるので、ドゥニーに確認していた。






「どこで待つのが楽? この場だと危ない?」

「そうですね。夜になるまで此処にいるのは俺だと身の危険を感じます」

「ええっと、じゃあ……あそこの洞窟とかは? あの辺だとまだ大丈夫かしら?」

「じゃああっちの洞窟で待っときます。不測の事態があった場合のみ先に帰りますね」

「了解したわ。戻ってきた時にガロイクが居なかったらしばらく探して、それでもいなかったら私も単独で一度戻るわ!」



 そういう打ち合わせをした後、ドゥニーは元気よく「行ってきます」と口にする。




 そしてそのまま断崖絶壁の崖へと手を伸ばし、するすると登っていくのだった。





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