28.『鉄壁令嬢』、砂漠の岩場を探索する。
「おぉ、ちょっと上るとこんな感じかぁ」
大きな岩の上へと、ドゥニーは登り、楽しそうに笑っている。
自分の身長よりも背の高い岩の上で、佇むドゥニーはそのまま隣にある岩へと軽い足取りで飛び移っていく。
その衝撃に、近くにいた魔物たちは住処に閉じこもったり、そのまま逃げたりしている。
ドゥニーは巣穴の中へと逃げていく一匹の魔物を見て、何か気になったのか岩の足場の部分に飛び降りる。
その場に飛び降りて、手で砂をかきわけるとその空洞をのぞき込む。
その中には真っ黒な生物が何匹も縮こまっていた。ドゥニーからの視線に気づいたのか、びくりと身体を震わせると、奥へ奥へと進んでいく。
ドゥニーは好奇心からかその空洞の中へと手を入れる。腕全体をすっぽりと入れても、まだ先まで続いている。
(おぉ、こんなにずっと奥まで続いているんだ。これ、奥の方はどうなっているんだろう? しかし小さくて中まで入り込めないなぁ)
穴の中へと腕全体を入れているドゥニーの手は、魔物から攻撃を受けている。しかし『鉄壁』の加護のあるドゥニーは、その攻撃を食らわない。中に居る魔物からしてみればさぞ恐怖でしかないだろう。
人の腕が住処に延ばされ、それは攻撃をしても全く怯む様子がない。
(んー、どうしようかな。あ、つかめた)
ドゥニーは手を穴の中でずっと動かしていた。その中で中に居た魔物を一匹捕まえれたので、そのまま腕を引き抜く。仲間が捕まったことに攻撃はより一層増しているが、彼女にとってはそんなものは関係ない。
引きずり出された黒い甲殻で覆われた小さな生物。それはバタバタと彼女の手の中でもがいている。
前足をぶちりっと、引っ張った。そうすれば前足が引きちぎれた。その魔物は悲鳴にも似た鳴き声をあげている。
その前足部分をあろうことか、ドゥニーは口に含む食べ始めた。
どうやらそこまでお気に召した味ではなかったらしく、そのままドゥニーは魔物を放した。そうすればその魔物はそのまま巣へと逃げ帰って行った。
次にドゥニーは、岩と岩の間の隙間に隠れている魔物に目をつける。その魔物は小さく、彼女の手におさまるほどである。その魔物をひょいっと掴むとそのまま口の中に放り込む。
「おぉ、シャキシャキ、結構おいしいかも」
……どうやらその魔物を気に入ってしまったらしいドゥニーは、おやつ感覚でパクパクとその魔物を捕まえては食べる。
もちろん、その魔物だって食べられるだけで終わろうとしているわけではない。彼女に対してもちろん、攻撃は繰り出している。しかしその攻撃は一切、効かない。『鉄壁』の加護で守られているドゥニーには、かすり傷一つつけられない。
その魔物は毒性を持ち、どれだけ大きな生物だってその毒をもってしてどうにかすることが出来ていた。しかし、ドゥニーという生物はそれらが全く効かない。その事実にその魔物が恐怖するのは当然である。ただただ喰われる仲間を見続け、彼女がそこにいるために逃げることもままならない。
……そんな状況はドゥニーがお腹いっぱいになるまで続いた。
「これって、夕食とかには出たことないなぁ。聞いてみようかしら」
……その魔物が夕食に出ないのは、食べることが危険だからである。しかしその味が気に入ったドゥニーは、夕食に出してもらえないか聞いてみることにしたらしい。
その後もドゥニーは、見たことがないものを見つけるとバクバクと食べていた。周りに誰もいないので、全く遠慮する必要はないとばかりに捕食している。
愛らしい見た目の令嬢が、おぞましい姿をした魔物を食らい続ける光景はなんともまぁ不気味である。
普通の令嬢ならば触れることさえも躊躇うような魔物を引きちぎったり、そのままだったりして食べているのだ。あとは焼いた方が美味しいかもとばかりに、火を熾して焼いてみたり……さながらドゥニーにとっては拾い食いパーティーである。
ある程度拾い食いと探索に満足したドゥニーは、ガロイクを待たせている場所まで戻ることにした。
「ただいま」
「姉御、お帰りなさい。なんだか満足した顔をしていますが、……差し支えなければ何を?」
「岩場で遊んだだけよ。魔物を思いっきり殴って、おやつを食べてたの!」
「……このあたりの岩場だと、強力な魔物が沢山いるはずですが」
「全員ぶっ飛ばしたわ!」
「……それにあの辺の魔物って食べるのに適しない気が」
「美味しかったわ!!」
「そうですか。本当に姉御は規格外ですね……」
「ガロイクは何か食べた?」
「はい。持ってきた保存食を食べました。姉御はご飯は大丈夫ですか?」
「ええ。お腹いっぱいまで食べたもの。こういうのは現地調達が最高だわ。見たことのないものを沢山食べれるもの」
ドゥニーはガロイクの問いかけに、楽しそうににこにこと笑いながら言った。
この砂漠は自分で食糧を持ち込まなければ大変な事態になると言われている場所である。だけれどもドゥニーにとっては食糧の宝庫なのだろう。