26.『鉄壁令嬢』、古の都市の話を聞く。
「ドゥニー様の『鉄壁』の加護は本当に興味深く、面白いものですね。私は加護持ちと会ったのは初めてですが、書物などで読んだ加護よりもドゥニー様の『鉄壁』の加護は効果が高いものだと思います」
「私の『鉄壁』の加護は本当に凄いものなのよ! そうやって加護について褒められるととても嬉しいですわ」
ドゥニーとジャンノーの会話は大変弾んでいた。
恐ろしい魔物の話を意気揚々としている二人に、ダニエスは何とも言えない感情で聞いていた。
ジャンノーはドゥニーの『鉄壁』の加護に関する逸話を聞いても全く怯えた様子がなかった。それは恐怖よりも好奇心の方が勝っているからなのかもしれない。
「それにしてもそんな『鉄壁』の加護を持つドゥニー様がこの国に嫁がれたことはとても素晴らしいことです。どのような子供が産まれるか楽しみです」
「あー、ジャンノー。私は『鉄壁』の加護があるから王様とはそういう仲にはなれないわ! だから子供なんて出来るわけないの」
「『鉄壁』の加護だと、男女の仲になれないのですか……?」
「私の『鉄壁』の加護は本当に凄いので、私が心から好いた相手じゃないとそういう目的で私に触れないのよ。私は王様に惚れてないので、そういうのはないの!」
「そうなんですね、それは残念です」
ジャンノーが残念そうな顔をしているのは、ドゥニーの子供ならばきっと面白い存在になるだろうという期待があったからだろう。
「私がもし結婚して子供が出来たら見せてあげてもいいわよ。機会があったらだけど」
「ぜひぜひ!! ドゥニー様が選ばれる方なら、きっとその方も面白い方でしょうし」
仮にも嫁いできたという名目なのだが、ジャンノーも理解が早かった。
『鉄壁』の加護を持つ『鉄壁令嬢』は、並の男ではどうしようもないことも分かる。自身の主君ではあるが、ドウガがドゥニーを惚れさせることは出来ないだろうなと思っている様子である。
ドゥニーという少女を手中におさめるなんてよっぽどの存在じゃないと出来ないだろう。
「そういえばドゥニー様は、この砂漠に昔存在していたとされている都市の話はご存じですか?」
「知らないわ! 教えてちょうだい」
「ドイフェンという名前の都市であったとされています。大変栄えていた昔のその都市のことは口頭や書物で我が国に伝えられています。実際に砂漠でそれらに関するものが見つかることもあります。しかし――、その都市がどこにあったかは解明されておりません」
「まぁ!! そんな都市があるの?」
ドゥニーはジャンノーの口にした古の都市という単語に目を輝かせる。
確かに存在していた記録があるのに、誰一人その都市がどこにあるか分からない。
そんな状況にあるのが、古の都市と呼ばれているドイフェンである。
「はい。過去にその都市が栄えていたこと、そして存在していたことはおそらく確かでしょう。ドイフェンがどんな都市であったかなどの記録はあります。しかし記録しかないのです。おそらくこの砂漠のどこかにその都市はあるのではないか……と私たち研究者はずっと探しています。しかしどれだけ探しても、見つかりません。都市と呼べるだけ大きな場所が何処にあるのか全く分からないなんて不思議でワクワクする話じゃないですか?」
「ええ。とても楽しそうなことだわ。多くの研究者たちが探しても探しても見つからないなんて普通じゃないもの。研究者以外の戦士たちも砂漠を歩き回っているのに誰一人見つけることが出来ないなんて……、誰も手が届かない場所に突然消えてしまったのかしら? でも都市と呼ばれるだけの場所がそんな状況になるなんておかしいわよね。ありえないことだわ。何かしらのありえないことが起きてその場所がどこかに行ってしまったってことよね!」
「その場所をこの手で解明することが出来たらそれはもう達成感がありそうです。私はいつか、その古の都市をこの目で見ることが夢なのです…!」
「とても素敵な夢だと思いますわ。そんな面白いものがあるのならば、是非とも探し出さなければならないわ。見つけたら貴方に伝えるわね」
「ありがとうございます! 見つかれば世紀の大発見です!! もしそれらの今まで見つからなかった歴史的なものを見つけたのならば陛下からも褒美をもらえると思います」
「あら、私が楽しんで探す予定なのにお礼までもらえるの? まぁ、いいことね!!」
ドゥニーは満面の笑みを浮かべてそう告げる。
ドゥニーは好奇心旺盛だが、研究者ではない。何かを解明して自分の名を後世に残したいとか、功績を成し遂げて有名になりたいとか、そういう感情は一切ない。
見つかれば世紀の大発見などと言われても、見つかったら楽しそうとぐらいしか考えていない。
(折角砂漠に出かけるのならば見つかるのならば見つけたいわね! それで見つかったらジャンノーを連れて行って夢を叶えてもらいましょう)
ドゥニーは楽しそうにそんなことを考えるのであった。
――そして楽しくジャンノーと話した翌日、ドゥニーはガロイクを連れてまた砂漠に足を踏み入れるのであった。