25.『鉄壁令嬢』、砂漠の国の研究者と意気投合する。
「ドゥニー様、いきなりですみませんが、質問をしてもいいですか?」
「もちろんですわ! 私も沢山質問したいことがありますの」
「えっと、ではどちらからにしましょうか?」
「じゃあ、交互にしましょう! そちらのほうが不平等さがありませんもの」
ドゥニーがにこにこと愛らしい笑みを浮かべてそういえば、ジャンノーは頷いた。
「では、私から! 砂漠に住まう竜とはどういう生き物ですか?」
「竜についてですか。そうですね。このあたりでよくみられる砂漠竜の一種である《ステランドラゴン》は砂漠の中に潜むドラゴンですね。基本的に表に出てくるのは獲物を喰らう時のみです」
「まぁ、そうなの! それはとても面白いわね。いきなり砂から出てくる形かしら?」
「そうですね。普段は砂の中に埋もれているので、生きたまま喰われてしまう例もあります」
「まぁ!! 食べられてみたいわ」
その《ステランドラゴン》という竜種は、砂漠の民にとっては吞み込まれて脅威でしかない。
砂漠をただ歩いていただけなのに、突如として下から現れた竜に吞み込まれてしまう――。そんなものは恐怖でしかないのだから。
今はその生態が解明されているが、昔はそれは神隠しのように伝えられていた。
その竜は動きが素早く、誰かと共にいても一瞬目を離した隙に同行者が吞み込まれて消えてしまったという事例が何度もあったからである。
その竜種の話を聞いても食べられてみたい、などと口にするドゥニーは本当に豪胆な性格をしていた。そしてそこには自分の『鉄壁』の加護があれば問題ないという自負があるからだろう。
「食べられてみたらどんな感じだったか教えてください! さて、こちらからも質問を。ドゥニー様の『鉄壁』の加護というものは生まれながらのものですか?」
「ええ。そうよ。私は産まれた時からこの加護があったらしいわ。赤ちゃんの頃の記憶は私にはないのだけど、家族や使用人たちが言ってましたもの。昔、私が攫われそうになったことがあったのですけれど、その時も攫われなかったみたいですし」
「それは触れられなかったとかそういうのですか?」
「そうみたいですね。攫おうとしたら私に触れられなかったらしいので、やっぱり『鉄壁』の加護は凄いなと思ってますわ」
ドゥニーはジャンノーに『鉄壁』の加護について語るのを心から楽しんでいる様子だ。
ジャンノーがドゥニーの『鉄壁』の加護のことを信じ、それに興味を持って仕方がないという様子だからだろう。
「それは凄い! 『鉄壁』の加護というものは本当に興味深く、面白い加護ですね」
「ええ。本当に最高の加護だわ。じゃあ、次は私から質問するわ。地図上で何も書かれていないこのエリアは何があるの?」
ドゥニーはドウガからもらった本についている地図を見せながら、ジャンノーにそう問いかける。
「そのあたりは現状未開の地ですね。崖の上に上る手段がありません。登ろうとすれば飛行する魔物に襲い掛かられてしまうので……」
「ふぅん。そういう魔物がいるのね」
「はい。地上にいるときは襲い掛かってこないのですが、あのあたりのエリアが魔物のテリトリーのようで、崖の上に登ろうとすると襲ってきます。崖を登りながら魔物の相手をすることは厳しく、上でどういう光景が待っているか分かりません」
「そうなのね!」
「もしかして行こうとしてますか?」
「ええ!」
「では、ぜひとも未開の地に何が広がっているのか私にも教えていただきたいです!」
「あら、ジャンノーも興味があるのね。一緒に行くかしら?」
「ぜひ……と言いたいところですが、私は戦闘職じゃありません。崖の上に登る体力もありません。ドゥニー様の足手まといにしかなれないので、もしいかれた際は色んな情報を私に教えていただきたいです!!」
ジャンノーは興奮した様子でそういった。
好奇心旺盛な研究者であるジャンノーは、ドゥニー同様知らないことをなんでも知りたいと思っている。
だからこそドゥニーの『鉄壁』の加護にも興味津々であり、その加護でもたらすことに関しても興味があって仕方がないのだろう。
「分かったわ。私はその地に行くと思うから行ったら色々教えるわ」
「ありがとうございます!! では次にこちらから質問ですね。ドゥニー様の噂を集めていて、ドゥニー様が落ちてきた巨大な石を粉砕したというのを聞いたのですがそれは本当のことですか?」
「ああ、あれね。本当のことよ。馬車に乗って移動していた時に大きな石が落ちてきたの。それも一つじゃなくて複数。あのままだと馬車がつぶれてしまったから殴って粉砕したわ!」
「おおぉお、事実なのですね! 今度、なんでもいいので粉砕するところ見せてください!」
「いいですわよ! 壊してもいいもの見繕ってもらいましょう!」
ドゥニーとジャンノーは大変気が合うのだろう。楽しそうに意気投合しながら話していた。
ダニエスはそんな二人の会話を聞きながら「いつまでも話が続きそうだな」とそんなことを思うのだった。