24.『鉄壁令嬢』、砂漠の国の研究者に会う。
「ドゥニー様、研究者の方が来ていますがお会いしますか? ……先ぶれなしにすみません。ドゥニー様の『鉄壁』の加護に大変興味を抱いているようで、急にやってきたので」
本を読んでいたドゥニーの元へ、ガナンドがそう言ってやってきたのはお昼前のことだった。
ドゥニーはドウガと交渉し、この砂漠に詳しい研究者を所望していた。そしたらその研究者側もドゥニーの加護に興味津々ということで、ある意味相思相愛だったようである。
「会いますわ! 私も砂漠の情報を沢山知りたいもの!」
「ドゥニー様、会うのは構いませんが身だしなみはちゃんとしましょう」
「動きやすいものでいいのでは? 私、その研究者の方の話を聞いたらすぐに飛び出したくなってしまうと思うわ」
「……ドゥニー様、それはやめましょう。ほら、準備しますよ。ガナンドさん、準備ができ次第、ドゥニー様と共に向かいます」
ドゥニーは研究者と会うのに別に着飾る必要もなく、寧ろそのまま飛び出したいとさえ思っている様子だった。流石にそれはダニエスに止められていた。
というわけできちんと、砂漠の王の妃の一人として着飾った後、その研究者の居る客間へと向かうことになった。
「どんな話がきけるかしら! 本で読んだだけでは知ることが出来ないことを沢山知れたら最高ですわ! その研究者の方が砂漠について一番詳しいのかしら。面白い情報が聞けたらいいなぁ」
「ドゥニー様、楽しみで仕方がないのは分かりますが、もう少し抑えましょう。初めて会う方にこれから会うのですから、びっくりさせないようにしなければいけませんからね」
「それはそうね。いざ、話を聞くにしても怖がらせてしまったら話を聞けなくなってしまうかもしれないもの! その研究者の方は私の加護に興味を持ってくださっているって話だし、私の加護のことはちゃんと知ってくれているとは思うわ。でも見せて欲しいって言われたら何を見せましょうか」
「ドゥニー様、『鉄壁』の加護の効果を見せることを大変楽しみにしていることは分かりましたが動かないでくだい。髪がセットできません」
ダニエスがドゥニーの髪をセットしようとしている中で、ドゥニーははしゃいで動こうとする。
注意されたドゥニーは言うことを大人しく聞く。
……ドゥニーはその『鉄壁』の加護を見せつけた結果、周りに大変恐れられているのでこのように意見の出来るダニエスは貴重である。他の使用人たちはダニエスに尊敬の目を向けている。彼らからしてみればドゥニーのことが恐ろしくて仕方ないので、意見が出来ないのであろう。
ダニエスからしてみれば、ドゥニーという少女は確かに恐ろしい加護は持っているが恐ろしくはない。というのも基本的にドゥニーが善人であると知っているからというのもあるだろう。
その力で人に危害を加えようとは進んでしない。敵対する者には恐ろしい力を発揮するが、それはそれで敵対しなければいい話である。
王侯貴族の姫君や令嬢の中ではすぐに癇癪を起したり、怒りっぽかったり、周りをすぐに処罰したりするような暴君のような存在もいる。それに比べるとドゥニーは可愛いものである。心が広いというか、基本的にのほほんとしているので怒らない。周りがちょっとした粗相をしてもすぐに許す方だ。意見をされてもそれで怒るとかではなく、それを受け入れる方なのだ。
下手に人を処罰したがる人間よりはよっぽど可愛いものだとダニエスは知っている。
「お嬢様、とっても可愛くなりましたね。研究者の方の元へ行きましょうか」
「ええ。ありがとう。ダニエス。ふふっ、どんな話がきけるか楽しみだわ」
「ご挨拶をする時はちゃんと大人しくしましょうね」
「ええ」
そんな会話を交わした後、ドゥニーとダニエスは客間へと向かう。
その間、視線を多く浴びてしまった。ドゥニーが妃たちとのお茶会で『鉄壁』の加護の効果を見せつけたことは周知の事実であり、ドゥニーに怯えた様子を見せている。
ドゥニーはやはりそういう視線を向けられていても、全く気にした様子はない。
(研究者の方はどんな情報を持っているかしら。砂漠の中でも危険地帯とかの情報とかも持っているかしら? 危険に溢れているから未開とされている地とかあったらそこを探索するとかでも楽しいわよね。この砂漠で生きている人たちも知らない情報を私が手に入れられたら面白いことになるわ)
ドゥニーの頭の中はそんなことでいっぱいである。これから何をしてあそぼうか? とそればかり考えている様子はまるで子供みたいだ。
「ドゥニーよ。よろしくお願いしますわ」
「お初にお目にかかります。ドゥニー様。私は研究者のジャンノーといいます!」
その研究者の男性、ジャンノーはドゥニーのことをキラキラした目で嬉しそうに見ていた。
どこかうずうずした様子で、落ち着かない。
横で二人の挨拶を聞いていたダニエスは「あ、もしかしたらこの二人似た者同士なのかも」などと思った。