22.『鉄壁令嬢』、砂漠の王の妃たちに理解される。
「ド、ドゥニー様、う、腕は大丈夫ですか? あの的を壊すなんて」
「心配してくださっているのですか? グーテ様、大丈夫ですよ。私の身体はこの程度では壊れません。『鉄壁』の加護は常に私のことを守ってくださってますから、私が傷を負うことはありません」
ひきつった顔をしていたグーテは、我に返って慌ててドゥニーのことを心配するように声をかける。しかしドゥニーはどこまでも無邪気である。
心から、本気で、ドゥニーは自分の身体がその程度では壊れないことを知っている。
だからこそ、全く持ってその顔には恐怖心などはない。
「そ、そうですか。ドゥニー様の『鉄壁』の加護というのは本当に凄いのですね」
「そうですわ! 私の『鉄壁』の加護は最強なのです! 私はこの『鉄壁』の加護があるからこそ、大変楽しく生きているのですよねぇ」
ドゥニーは『鉄壁』の加護を持つ自身のことを誇りに思っている。その加護があるからこそ、今が楽しいと言い切れる。
加護というものは時に人を振り回すものだ。
加護があったからこそ自分は不幸になったという人もいれば、加護があるからこそ幸せだと言うものもいる。
結局のところ、それは気の持ちようというか、その加護を持つ者のとらえ方にもよるだろう。
「そ、そうなんですね。えっと、ドゥニー様。的を壊されたのを見て他の方たちもドゥニー様の加護のことをきちんと理解してくださっていると思います。なので、これ以上はおさめていただけますでしょうか」
「もちろんですわ。私はグーテ様が嘘つき扱いされるのはなぁって思ったので、きちんと理解してくれるのならば問題ないです」
「まぁ、そうなのですね。ありがとうございます。ドゥニー様」
グーテはそう言って妃たちの方へと視線を向ける。
「皆様、ドゥニー様の加護については理解されましたよね?」
グーテはこれ以上ドゥニーに加護の力を見せつけられるのも……と思っているのかそんな風に告げる。
ドゥニーのその『鉄壁』の加護を見て怖れている者たちはこくこくと素直に頷く。大抵の者たちは、例えば本当にドゥニーに加護があったとしても、なくて魔法のかけられた道具を使っているにしても――こういう場で的を壊すなんてことをするような人間を敵に回したくないと思うのは当然であろう。
そういう魔法具を持ち合わせていたとしても、まずこういう場でこのようなことを普通はしないのである。
ドゥニーがなかなかぶっ飛んだ思想をしているのは明白なことだ。
そういう自分が理解の出来ない存在を刺激したくないと思うものなので、皆大人しく頷こうとするのだ。
ただ一人、先ほどからドゥニーに意見をしていた妃であるウラレイだけは何か言おうとしていた。
しかしそれは周りから止められていた。これ以上、ドゥニーの加護のことを信じていないと言おうものならばドゥニーが何をするか分からなかったから。
ドゥニーは彼女たちが頷いたのを見て、嬉しそうに笑う。
(ちゃんと私の加護のことを信用してくれたのね。ならいいわ。もし加護を否定されたら私の加護がどういうものかもっと見せなきゃだったもの。それはそれで楽しそうだけど。妃たちの中には私の遊びに付き合ってくれる人がいたら嬉しいけれど……。仲良くなれたらいいな)
ドゥニーはそんなことを考えながら、告げる。
「ならよかったですわ。加護のことを理解していただけないと悲しい気持ちになりますもの」
「ドゥニー様、加護のことは分かりましたので、お話をしましょう。ね?」
「はい。そうですね。沢山お喋りしましょう!」
グーテのお話をしようという提案にドゥニーは頷いた。ドゥニーは砂漠の妃たちと仲良くなりたいなとこの場に赴いたので一緒にお喋り出来ることが嬉しいのだろう。
にっこりと笑うドゥニーは愛らしく、先ほど的を壊した人間には全く見えない。
「ドゥニー様は、ご趣味はありますか?」
先ほどの一件で、ドゥニーのことを怖がっている妃たちは話しかけてこようとしない。
話しかけてほしそうにしているドゥニーに話しかけるのはグーテである。
「私の趣味はそうですねぇ。読書や見たことがないものを見に遊びに出かけたりですかね。でも基本的に嫌いなことってあんまりないので、全部好きですよ!」
「そうなのですか?」
「はい! 世の中にはいろんな趣味を持つ方が沢山いるんです。びっくりするような趣味とかもあって、私は全部制覇したいと思ってますよ」
にっこりと笑ってそんなことを告げるドゥニー。
「まぁ、どのような趣味ですか?」
……グーテがそんなことを聞いてしまったのが運のつき。
グーテはそれから蛇型の魔物に腕をしめつけられるのが趣味だとか、高い所から飛び降りるのが趣味だとか、そういうあまりないような趣味の話を聞かされる。またそのきいた趣味に関してはドゥニーは実践できそうなものは全て行っていた。
その経験談まで聞かされて、妃たちはドゥニーのことを正しく理解したのであった。