18.『鉄壁令嬢』、砂漠の国の王と交渉する。
「王様、帰りました! お土産何処置けばいいですか?」
「……そこにおいとおけ。それにしても量が多くないか?」
ドゥニーは帰宅すると、近くを歩いていたドウガに話しかけた。
ドゥニーが引いている荷台の上には、大量の魔物の素材がある。中には解体されないまま乗っているものもある。
ドゥニーは無傷である。
長時間砂漠を歩いていたとはとてもじゃないが思えないレベルだ。
正直、ドウガはドゥニーが『鉄壁』の加護を持つと知らなければ信じられなかっただろう。
どこまでも無邪気に笑うドゥニーは、本当にこれまで貴族社会で当たり前の令嬢として生きてきたのだろうかと疑うぐらいである。
「見たことがない魔物ばかりでしたから、楽しくてついつい全部殴り殺しました!」
「……そうか」
殴り殺したなどという物騒なことを言われたので、ドウガはどう反応したらいいか分からないようなそんな気持ちになった。
「ところで、王様。私、泊りがけで沢山のものをぶらぶら見に行きたいです! 一日だけだと見たいものを見て回るのが足りません」
「……何日帰ってこないつもりだ?」
「その時次第です!!」
ドゥニーは元気にそんなことを答える。
見たことのない景色がこの砂漠には沢山ある。果てしなく続くその砂漠の地は、ドゥニーの好奇心を刺激するものだ。
「お前、一応貴族の令嬢だろう……。俺の妃の一人としてここにいるのだから、泊りがけはまずくないか?」
「私は貴族の令嬢ですよー。あと私には『鉄壁』の加護があるので、ならず者たちも私には少なくとも手は出せないですし、私は何の問題もないです! この砂漠ってどれだけ広いですか?」
「……全部見て回るつもりか?」
「そうですねー。出来ればこの砂漠の全てを解き明かしたいです。その方がきっと楽しいですもの」
ドゥニーは楽しくて仕方がないと言った様子でそんなことを言う。
どこまでも続く、果てしない砂漠。その砂漠を超えることは出来ても、全てを解き明かすことなどいまだかつて誰にも出来ていない。それだけこの地は危険で、人が生活していくには大変な不毛な地である。
生活していくだけでも精一杯で、この地の人々にはそこまで余裕があるわけではないのだ。
その砂漠の地を思う存分楽しもうとしているドゥニーはそれだけ余裕があるということである。
「全部は幾ら見て回っても難しいだろう。……あとお前に挨拶をしたいと妃たちも言っている。役割をこなせないにしても一応妃なのだから、砂漠にばかり顔を出さずに交流もしろ」
「はーい! それはもちろんです! 王様の妃様たち相手にプレゼント出来そうなものとかも砂漠に探しに行くのも楽しそうです」
ドゥニーはドウガから許可をもらってからすぐに砂漠に繰り出しているので、グーテ以外の妃とは挨拶をしていなかった。
真っ先にそれをした方がいいのだが……、ドゥニーは砂漠に行くのが楽しそう! という好奇心の元砂漠で遊んでいたのであった。
「挨拶するならドレスを着てちゃんとした方がいいですよねー」
「……予算はあるから、それでドレスを作ってもいいぞ」
「そうですね! 何着かは作ります! 持ってきたのもあるので、それを挨拶には着ていきますね。というか、私の予算はどんくらいあるんですか? それでドレスとか装飾品以外も発注してもいいですか?」
「……何がほしいんだ?」
「砂漠探索に使えるものとか! あとは面白そうなものあったら食べたいし、取り寄せたいです。砂漠には私が食べたことがないようなものが沢山ありますから」
「……構わないが、事前に申請はしろ。ドゥニーにとっては問題なくとも、運んでくる相手には劇物である場合もある。お前の予算はそこまで多くはない」
「そうなんですねー。じゃあちょっと予算確認して何を取り寄せられるか確認します。あと本とかってあります? このあたりに生息している魔物のこととかもっと知りたいですし。それにこの砂漠にもっと詳しい研究者とかっていたりします? そういう人の話とかも聞きたいです」
矢継ぎ早にドゥニーはそんな風に告げる。
よっぽどこの砂漠の地は、ドゥニーにとって面白い場所なのだろう。もっとこの場所について知りたいと、そういう気持ちでいっぱいなのだ。
ドウガからしてみてもドゥニーは意味が分からない存在だが、この国を嫌うでもなく知ろうとしているというのは悪い気持ちではない。
「本は集めて届ける。研究者に関しても詳しいやつがいるから呼んでおく。それでいいか?」
「はい! ありがとうございます! 砂漠の地について探索して色々分かったら王様にも報告しますね」
「ああ。それは助かる。まだこの地は解明されていない場所が多いからな。……もしこちらで把握していない情報をお前が持ってくるのならば報酬を渡そう」
「ご褒美もらえるんですねー。それはもうやる気でます! えっと、じゃあ妃様たちと交流して、その後ちょっと泊りがけで出かけようと思います。流石に何日も行くのやめた方がいいです?」
「そうだな……。その辺はちゃんと調整した方がいい」
「了解です! じゃ、私、部屋に戻って寝ますね! おやすみなさい」
ドゥニーは元気よくそういうと、そのまま自分の部屋へと戻るのであった。