17.『鉄壁令嬢』、砂漠で拾い食いをしまくる。
「姉御……、なんで落ちているものバクバク食べているんですか?」
ガロイクは呆れたようにドゥニーにそんなことを言った。
オアシスでガロイクが回復するまで待った後、またドゥニーとガロイクは砂漠の地を歩き回っていた。
途方もなく続く同じ光景。
慣れないものだと道に迷うことも多いその場所をドゥニーは好奇心の赴くままに歩き回っていた。
それでいて見たことがないものを見つけると、そのまま口に含み、バクバクと食べる。
……ドゥニーにとってこの場所は見たことがないものが多いので、拾い食いにぴったりの場所なのかもしれない。
「食べたことのないものは食べたくならない?」
「……そうかもしれませんが、落ちているものを食べるのは流石にやめた方がいいのでは?」
「大丈夫よ。私は食べた所で問題ないもの!」
「姉御が問題ないのは分かっていますけど、急に落ちているものを拾い食いしだすとびっくりします。しかも生きているものそのまま食べてたりしません?」
「そうね。そのまま食べたりもしているわ。意外に活きが良いものって美味しいのよ」
「……そうですか」
ドゥニーは本当に淑女教育を行ってきたのかと疑うほどに、自由人である。
他の者が食べたら間違いなく死んでしまうようなものでさえ、パクリと食べる。
『鉄壁』の加護はどれだけ硬いものでさえも、消化しにくいものでさえも消化し、ドゥニーの栄養源としていく。
それを咀嚼する音が食べ物を食べている音には全く聞こえないので、聞いているガロイクは若干顔色を悪くしていた。
「砂漠の地は食べたことのないものが山ほどあって楽しいわ! 一日だけでもこんなに楽しいのだからもっと探索を続けたら楽しい物が沢山見つかりそうだわ! ガロイクのおすすめの場所とかはあるの?」
「おすすめの場所ですか……姉御が楽しめるような場所は今の所思いつきません」
「えー。そうなの? ガロイクなら楽しそうな場所を沢山知っていると思ったのに」
そう言って穏やかに微笑むドゥニーにとって、この砂漠は遊び場のようなものなのだろう。
「姉御にとってはこの地はまるで遊び場やおもちゃのようなものなのかもしれませんが……俺たちにとっては身近にある危険な場所ですからね」
「そう?」
「はい。余裕がなければそれだけ周りを楽しむことなんて基本的には出来ません。姉御はそれだけ強いから、この砂漠を楽しめるのだと思います」
「何事も楽しんだ方がきっと楽しいよ?」
「それはそうですけど……、姉御のように全力で楽しめる方は中々いませんからね」
どういう場所でも、どんな状況でも楽しめるというのはそれだけドゥニーが命の危険にさらされていないからである。
――ドゥニーは『鉄壁』の加護を持つので、そういう風に危険な目に遭ったことはまずないのだ。
「姉御が本当の意味で、この国を導いてくれたら凄いことになりそうだとは思います」
「んー。無理かなぁ。私は王様にときめかないし。それにこの砂漠の地は今は楽しいなって思っているけれど機会があったら色々ぶらぶらしたい」
「あー……姉御は自由人ですね、本当に。一か所に留まることはなさそうな気がします」
「そうね。なんか機会があったらどこかに行きたいわ!」
ドゥニーはそんなことを言いながらにこにこしている。
ドゥニーは基本的に自分のやりたいように生きている人間である。それでいて面白ければいいと思っているので、割と流されやすい方だ。それだけ周りに流されたとしても何の問題もないだけの力を持ち合わせている。
「姉御は楽しいことが好きですよね……。姉御を捕まえられる人ってあまりいない気がします」
「ふふっ、私を捕まえられる人なんてそんなにいないわよ」
そんなことをいいながら、バクバクと蟻の魔物を口に含み食べている。
……焼いたりなども何もせずに生で喰らう人間なんてドゥニーぐらいだろう。
虫型の魔物に関して女性は見た目を忌避する者が多い。しかしドゥニーにとっては正直どういう見た目をしていようが特に気にならない様子だ。
どういうものでも殴れば倒せるし、口に含めば食べられる……といったそういう感覚なのだろう。
そうやってドゥニーの拾い食いにガロイクは付き合っていたわけだが、そうしているうちに日は暮れてきた。
「姉御、そろそろ帰りませんか?」
「えー。もっと遊びたいのにな。泊りがけはやめた方がいい?」
「そうですね。流石にやめましょう。あと男と一泊するのは評判が傷つきますよ」
「大丈夫よ。私に触れられる人なんて私が受け入れなきゃいないもの! そもそも評判なんて婚約破棄の段階で大分傷ついているしねぇ。一旦、王様に泊りがけの遊びもしていいか、帰ってから聞きましょう」
そういう会話を交わしてから、ドゥニーたちは城へと帰るのだった。
……拾い食いをしすぎたせいで、ドゥニーは夕食をあまり食べられずダニエスに怒られるのであった。