16.『鉄壁令嬢』、砂漠のオアシスに到着する。
「はぁはぁはぁ……」
「ガロイク、びっくりするぐらい疲れているね」
……ドゥニーの目の前には、息切れをしているガロイクがいる。
それに対して同じように、いや、ガロイクよりも動いていたはずのドゥニーは疲れた様子一つ見せていない。
ドゥニーにとって、灼熱の砂漠を走り回ると言う行為は全く疲れることではないらしい。
「……当たり前、です。姉御は、げん、きですね」
「私はいつも元気だよ。このあたりは休憩出来る場所あるのかしら? あるのならばそこに行きましょう」
「オアシスが、あります」
「どっち?」
ドゥニーは息切れをし、倒れかけているふらふらのガロイクに声をかける。
ガロイクがふらふらしているのを心配しているらしい。オアシスの場所を指さされ、ドゥニーは頷くと、ガロイクのことを抱えた。
「なっ、あ、姉御、何を!!」
「だって動けないでしょ? ふらふらしているガロイクの足で歩くよりも、私が連れて行った方が速いよ」
「それはそうですが!!」
肩にガロイクは乗せられている。
普通のか弱い女性ならば、大の男を抱えることなど出来ない。しかしドゥニーは普通ではないので、そのぐらい軽々と行う。
女性に抱えられるというのは、ガロイクにとっては辱めを受けることなのだが……、ドゥニーは全く持ってそういうところへの配慮がない。
そもそもそういうプライドとかは特にドゥニーにはないので、考えもしないのである。
「ならいいでしょ。そのまま、行くよー」
ドゥニーは元気よく笑うと、肩にガロイクを乗せ、土台を手で引き、走り出す。
楽しそうに笑いながら爆走するドゥニー。周りに人が居ればそれはもう驚愕されることだろう。しかし、周りに誰かが居たとしてもドゥニーは気にしないだろうが。
「わぁ、これがオアシス?」
ドゥニーは目の前の光景に目を輝かせる。
目の前には、オアシスがある。
砂漠の地に突如現れた小さな水辺。その周りには緑が茂り、そこだけ別空間のようだ。
ドゥニーはそういう場所が砂漠の地にあることを知らなかったので、目を輝かせている。
嬉しそうなドゥニーは、ガロイクを地面におろす。ガロイクはオアシスから水を飲む。ごくごくと、水を飲み、そのままやっぱり転がったままだ。
「まだ回復しなさそう?」
「そうですね……。もう少し休ませてください」
そういうガロイクの顔色は悪い。実はふらふらする中で、ドゥニーに抱えられたまま爆走されたので余計に気分が悪くなっていた。
具合が悪い中で、荒い運転の馬車か何かに乗せられたようなそんな感覚になっていたと言えばいいだろうか、そんな感じである。
「それにしてもここ、結構大きいわね。オアシスって全部こんなに大きいの?」
「それはないです。オアシスは、小さい物の方が多いです」
「それにしても砂漠は水辺が少ないから、色々大変そうね。私は何処でも生きられるからあんまり分からないけど」
「姉御って、流石に餓死はします?」
「んー。する前に何か食べるよ。私はなんでも食べられるから。最悪その辺の砂でも食べられるし、水分が足りないなら魔物倒して毒飲んでもいいし」
「あー……確かに、何処でも生きられそうです」
ドゥニーは餓死をしない。というより、餓死をする前になんでも食べられるので何かしら食べて飢えをしのげるのである。
そういうわけでドゥニーは、水分が足りないとひぃひぃいう人たちのことはあんまり分からない。
「魔物もオアシスの傍には寄ってくるんだね。こっち襲ってくるかな?」
ドゥニーがガロイクと会話を交わしていると、魔物がその場にやってきた。
その四つ足の魔物は、どうやらオアシスに水を飲みにきたようだ。この砂漠の地の数少ない水辺は、人だけではなく魔物達にとっても憩いの場なのだろう。
なので人が占領しているオアシス以外は案外危険だったりもする。オアシスの傍で休んでいると、ひっそりと近寄ってくる魔物に殺されたり……というのも案外よくある話である。
「襲ってきたらお願いしてもいいですか、姉御」
「もちろん。ガロイクはまだふらふらだもんね! 私は全然暴れたりないから襲ってくるなら問答無用で倒すからね」
「……姉御って初めて見る魔物も気にせず倒しに行きそうですね。普通はどんな攻撃来るか分からないから警戒するのに」
「まぁ、魔物なんて殴れば倒せるもの」
「……そうですか」
この砂漠の地に住まう魔物は、ドゥニーにとって知らない生態のものばかりである。
ただドゥニーにとっては全て殴れば倒せるものと思っているのですぐに向かっていってとりあえず倒すのである。
オアシスを訪れた魔物は本当に水を飲みに来ただけらしく、ドゥニーとガロイクに襲い掛かっては来なかった。なのでドゥニーもその魔物は倒さなかった。
それからガロイクが復活するまで、ドゥニーは楽しそうにオアシスを探索していた。
どういう木がなっているかとか、水の中に生物はいるかとか、そういうことをしげしげと観察し、興味本位でとげとげの葉っぱを生で食べたりしていた。