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1.『鉄壁令嬢』、婚約破棄される。



 その日は、清々しいほどの晴天だった。

 梅雨の時期が過ぎ、久しぶりの太陽が顔を出した、そんな日。


 ピレオラ王国では、パーティーが行われていた。

 着飾った老若男女が集まるそのパーティーは、王家主催のものである。



 ――さて、その中で一際注目を浴びている一人の少女がいる。

 薄緑色の髪に、明るい赤色の瞳を持つ少女。

 こういうパーティーの場だからだろうか、彼女の顔には貴族令嬢としての仮面が張り付けられている。

 ……ただし、その手には皿いっぱいの料理があり、それを淑女として綺麗に食べている。その量は令嬢が食べるにしては多い。



 黙々と、料理を食べる彼女の名はドゥニー・ファイゼダン。

 王太子の婚約者である少女である。ただし、そんな少女の横に王太子の姿はない。


 彼女のとある加護が要因で、王太子の婚約者になることが取り決められた。

 ……理由は本当にそれだけで、それ以外のことは何も顧みられていない。





 さて、そんな彼女と王太子の仲が良くないというのは貴族たちの中では一般的に広まっている話であった。




 周りからの嘲笑の視線は……ない。

 王太子からこういうパーティーの場でも傍に置かれなくても、こうしてパーティーの場で誰かと会話をすることなく黙々と食事を取っていても……彼女のことを馬鹿にするものはいない。

 内心でそういう感情を抱いているものはいるかもしれないが、本人にそれを言うものがいないのは彼女の加護が原因であると言えるだろう。




(美味しいなぁ。王族の参加するパーティーは周辺諸国の美味しい料理も沢山あるからいいよねぇ)



 様々な視線を向けられているにも関わらず、ドゥニーは全く気にする様子はなく、のんびりと食事を取っている。


 ドゥニーはご飯を食べることが大好きである。

 それこそ多い時は一日五食ぐらい食べる。ただしその体形は細い。



 ドゥニーは婚約者である王太子に放置されているパーティーでいつも食事を楽しんでいた。あとは話しかけられれば対応はするが、ドゥニーの交友関係は狭く深くなのであまり親しい人はいない。




「ド、ドゥニー・ファイゼダン」


 美味しいなと食事を取っているドゥニーの耳に、久方ぶりに聞く自分を呼ぶ婚約者の声が聞こえてきた。



 美しい茶色の髪に、緑の瞳を持つ美青年である。どこか顔色が悪く、その周りには幾人もの令嬢が居る。


 婚約を結んだばかりの頃はそれなりに良好な関係を結び、会話を交わしていたものだが――最近ではすっかり目を合わせることもなくなっていた。

 のんびりした性格のドゥニーは、何のようだろうか? などと思いながら王太子を見る。


 ドゥニーに視線を向けられた王太子は肩をびくりと震わせる。

 まるで肉食動物に怯えている小動物のようである。



「……」


 王太子はしばらく無言だったが、周りの令嬢たちに「殿下、頑張ってください!」「殿下、私たちが味方ですわよ」と応援されて、ようやく口を開く。



「君との婚約を破棄する!!」



 ――その言葉に誰も驚いていなかったのは、王太子がそれをドゥニーに言おうとしていたことが周りから悟られていたからである。



 そしてそういう言葉がいつか言われるだろうなということは、ドゥニー自身も知っていたことである。




「了解ですわ」

「そ、それだけか!? も、もう少し何か……」

「別に構いませんもの」



 割とドゥニーは王太子に婚約破棄されようが、どうでもよさそうだった。

 それに対して王太子は面白くなさそうな顔をする。だけどやっぱり顔色は悪い。



「き、君は本当に……! 流石の君でも次の命令には動揺するだろうな!」

「まぁ、なんですの?」

「君には砂漠の国サデンの王に嫁いでもらう!!」



 王太子はどうにかしてドゥニーの涼しい顔をゆがませたいのだろうか、そんなことを言いきる。

 ちなみに足は震えている。



 砂漠の国は、この王国から遠く離れた国である。

 またその国の王は沢山の妃を抱えるものである。そんな異国の地に、嫁ぐように言われれば普通の令嬢なら卒倒ものである。

 しかし、そこはドゥニーである。



「面白そうですわね。いいですわよ」

「なっ!!」


 ドゥニーは、顔色一つ変えずに承諾した。


 ……ドゥニーはそういう少女である。面白ければなんだって受け入れ、なんだって行うようなそういう少女なのだ。


「ただ異国の地に行くのはいいですけど、私は妃としての役割は出来ない可能性が高いですよ? そのあたりは説明していますか?」

「え、いや……」

「まぁ、駄目じゃないですか」

「なっ、ダメ出しするな!! ぼ、僕は君のそういうところが嫌なんだ!! も、もう少し可愛げというものを……」

「あら、年頃の令嬢に酷いですよ、殿下。私は家族には可愛いって言われますよ?」

「そ、それはあいつらがおかしい!! 僕は幾ら加護があるからっていって、自分からドラゴンに食べられにいったり、毒沼につかったりするような令嬢を可愛いなどとは認めない! 僕は君が怖い!!」

「ええ。知ってますよ。殿下は怖がりですよね。私のことを怖がってますもんね」

「こ、怖がりじゃない!!」

「足震えてますよ? それに婚約破棄ならすぐに了承するんですから、周りの令嬢を巻き込まないであげてくださいよ」

「う、煩い!!」



 王太子はドゥニーのことを怖がっている。

 それはこのパーティーに参加している皆が知っていることである。

 

 ちなみにドゥニーは別に王太子のことを嫌っているわけではない。



 なんだかんだ育ちがいいので、きちんと自分の口から婚約破棄を言いにこようとしているし。

 ちょっとだけおバカなので、ドゥニーの表情をゆがませようと異国に嫁がせようなどと模索する。

 ……まぁ、少し頭の足りない王太子であるが、これはドゥニーに怯えているが故である。ドゥニーが居ない場ではもう少しまともな王太子だ。



「というか、婚約破棄は陛下たちも許可してそうですけど異国の件は話通してます?」

「ははっ、反対されるから秘密裏に手を回したに決まっているだろ」

「殿下はそういうところはきちんと有能ですよね。陛下たちにばれずに進めるなんて。まぁ、面白そうなんで了承はしたし、行きますよ」

「……はぁ、本当に君は『鉄壁令嬢』の名にふさわしいな。もう少し動揺しろ!」



 王太子がそんな風に毒づいても、ドゥニーは笑みを張り付けたままであった。




 そうして、そのパーティーで王太子とドゥニーの婚約は白紙になった。




恋愛要素、後半にならないとおそらく入らないのでハイファンタジーで入れてます。

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