寺子屋の教師
博麗神社の桜が満開になったっと人里内で陽気な噂話が聴こえる中。
私と先輩は噂話に足を止めて。
「そろそろ護衛の時期が来たってことね」
「今年も慧音先生に協力を頼むの?」
毎年この時期の昼間は博麗神社で花見が行われる。
人里の人間にとって道中は危険だし、妖怪が蔓延る博麗神社で安全に花見を行うには自警団の護衛の必要だ。
と言っても博麗神社の境内では妖怪は人を襲わないって暗黙の了解が成り立っているけど。
「慧音先生に頼らないと護衛が廻らないわぁ」
「じゃあ早めに計画を立てないとね」
「あ〜慧音先生への協力要請は頼んだ。私は人を集めて日程を決めて来るから」
そう言うと先輩はすれ違う人々に声をかけながら早速集会所に向かって駆け出して行く。
先輩の行動力は私も皆習うべきね。
「っと、関心してる場合じゃないなぁ。私も寺子屋に行かないと」
私は振り返って寺子屋に向かって走り出した。
▽ ▽ ▽
寺子屋の職員室で私は早速慧音先生に今年の花見について話を切り出した。
「うむ、毎年のことだ。子供達を連れて行く事になるが構わないか?」
「えぇ。もちろん良い構いませんよ」
「となると有る程度の大人数が予想されるな。妹紅にも声をかけてみるか」
「是非そうして頂けると自警団としても助かります」
妹紅さんも護衛に入ってくれるとなるとこれほど心強い味方は居ないわね。
「具体的な計画は近日中にお知らせしますので、と言っても例年通りになると思いますけど」
「あぁ。……しかし絢音とこうして話すのは久しぶりだな」
二人だけで話す機会は確かに少ない気がする。だけどそんなに久しぶりだったかな?
「そうだったかな?」
「周りにはいつも誰かしら居たからな」
慧音先生の周りには寺子屋の子供達を始め、妹紅さんやたまに阿求も居る事が有る。
言われてみれば私が慧音先生を尋ねると誰かしら居たかも。
「言われてみればそうかも」
「最近は如何だ? 何か悩み事は無いか?」
「悩み事? うーん、小兎姫先輩がたまに不当逮捕することかなぁ。前は紫苑さんを捕まえて来ちゃったし」
「あれは死んでも治らんだろう」
そう言った慧音先生は遠い眼をしていた。
「死んでも治らないと思う。それに先輩の価値観は独特というか、何者からも否定された存在にとって拠り所って感じがするのよね」
本人はその気が全然無いだろうけど、先輩が好むのは本当に人々に無価値なもの、必要とされないものだからだ。
「ふむ、その解釈もアリだな。……あぁ、そういえば絢音は最近あちこちで流通しているカードに付いてどう考えているんだ?」
最近あちこちで流通しているカードといえば、誰かしらの秘密が書かれてた不思議なカードのことだ。
前に霊夢さん達がカードの能力を使って異変解決をしたと聴いたし、いずれ流通も収まるとも説明を受けた。
「秘密が書かれてるって個人情報を覗かれてるようで嫌かな。でも妖怪の秘密って言われても妖怪は嘘吐きが多い。秘密を暴露されても動揺せず何かしらの形で利用しようとするかな?」
カードについての危険性はどうかと問われれば無いとも言えない。
自衛手段の知識として欲するなら別だけど、人間と妖怪の秘密なんて悪用し放題だ。
「逆にカードの市場を秘密結社に抑えられるのは危険かも」
その辺りは私と先輩も警戒して監視は強めてるけど、未だ流通が収まる気配が無いんだよね。
「確かにその方面でも危険だな。わたしの方でも何か対策を講じておこう」
「助かります」
「構わないよ。人里の安全こそがわたしの意義でも有る」
変わらない慧音先生の在り方に私が尊敬の情を向けると、慧音先生は照れ臭そうに頬を緩めていた。
普段熱血漢なところが有るけど照れてる姿は可愛いなぁ。
「あっ、そろそろ休憩の時間が終わる頃ですね」
「もうそんな時間か。今度は妹紅を交えてゆっくりお酒でもどうだ?」
「えぇ、その時は是非」
私は今度三人で飲む約束を取り付けて寺子屋を静かに立ち去った。
背後から宿題を忘れた生徒が慧音先生の頭突きを喰らった音が聴こえたけど、私は決して振り返らないよ。
寺子屋の生徒は慧音先生の頭突きを受けて一人前になるんだから。