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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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魔法の森の魔法使い

 里の外は危険で一杯だ。

 里の門を一歩踏み越えればそこは妖怪が住む領域。だから人里の人間はあまり里の外へ出る事は無い。

 それでも私のように里の外に用が有る者はこうして出歩く事も多いけどね。

 とまぁ何故こんな事を岩に座って振り返っているかと言うと、


「ちょっと多過ぎない?」


 里の外に出てから置いてけ堀がもう少しという道中で妖怪に襲われたからだ。

 それが連続となれば疲れるわぁ。

 私が溜息を吐くと。


「半妖と油断した!」


 両手両足を手錠で拘束された犬妖怪がそんな事を吠えた。


「これぐらい出来ないと自警団なんて務まらないわ」


「妖怪として生きないのか?」


 妖怪としてねぇ。半分は人の私は当然半分は人の価値観が有る。

 それに仮に妖怪として人々を襲ったとしたら、もう私に訪れる末路が目に見えてるじゃない。


「霊夢さんが恐いからねぇ」


「……分かる」


 犬妖怪の共感を得たところで歩みを再会させよう。

 遅くなれば遅くなるほど強力な妖怪が活動するからね。


 朝方に人里を出発して魔法の森の入り口に到着したのは昼前だった。

 森の入り口に店を構える香霖堂が外に乱雑に置かれたガラクタと信楽狸の置物で存在感を主張している。


「あっ、ここでマジックアイテムを買うのもありか」


 何も魔理沙さんの店で買う必要は無いかもしれない。

 それに一応店は開かれてるけど、店主不在が多いから行ったとしても魔理沙さんが居ない可能性の方が高い。

 けれどもう一つ頼まれたキノコ狩りも有るから結局森に入らないと。


「香霖堂は帰りに寄ろ」


 私は香霖堂を素通りして森に足を踏み込んだ。


 森は相変わらず日光が届かず暗くてじめじめとしてて長いしたくないと思わせるような環境だ。

 魔法の森に群生する化け物茸の胞子がわずかながら精神力を蝕む。

 身体が億劫になるのを感じつつ魔理沙さんの店までひたすらに歩く。

 歩いて歩いて、時には走って。それでも景色は全然変わり映えしなくて。

 時折り木々が踊る幻覚を見せられて。

 命に関わる幻覚じゃないから良いけど、精神的な苦痛は私にとって多少の毒だ。

 ま、妖怪と比べれば精神に対する耐性は高い方だけど。

 幻覚で迷って疲労したところを妖怪に襲われる。普通ならそうだけど此処は違う。

 此処は妖怪すらあまり立ち寄らない場所だから、瘴気さえ耐えられれば安全な場所とも言える。


「安全とは言うけどねぇ。迷子になっちゃ世話が無い」


 さて何処に向かって進むか?

 辺りを見渡せども木々だらけ。


「何処に進んでも同じかな?」


 責めて出口に辿り着ければ再挑戦できるんだけど。

 私が頭を捻って悩んでいると。


「おや、珍しい顔だと思ったら絢音じゃないか」


 空から聞こえた声に見上げると、そこには箒に跨った魔理沙さんの姿が有った。


「あっ! 私にマジックアイテムを売って!」


「珍しく客と来たのか。これから神社にでも行こうかと思ったが気が変わった」


 そう言って魔理沙さんは地面に降り立つと。


「着いて来な」


 私は先導する魔理沙さんに黙って着いて歩く。


 ▽ ▽ ▽


 霧雨魔法店に到着すると魔理沙さんは看板に肘をかけて。


「お前さんは運が良い。何せ私と森で出会したんだからな」


 確かに運が良い。あのまま入れ違いにでもなれば魔理沙さんは博麗神社に行っていただろう。

 迷子にならなければ確実にすれ違ってたかも。


「森に惑わされて正解だったわ」


 少し笑って返すと魔理沙さんも釣られて笑みを零していた。


「それで、今日はどんな商品を求めてるんだ? 言っちゃ悪いが私が扱うマジックアイテムはどれも一級品だ」


 金は有るんだろうな? そう言いたげな魔理沙さんに私は、


「一級品の中でも珍しくて、誰も欲しがらないようないヤツが好ましいわ」


 要望を伝えると魔理沙さんが訝しんだ。

 するとすぐに察したのか、


「そんな珍品を好むのはあいつしか居ない」


「その通りね。ついでにキノコも頼まれてるわ」


「誰も好まず、かつ珍しいキノコを?」


 こくりと頷くと魔理沙さんは難しそうな表情を浮かべていた。

 珍しいキノコは用途にもよるけど魔法の材料になるからなぁ。

 激レアなら魔理沙さんが欲しがる。


「キノコに関しては後だな。先に買い物を済ませてしまえ」


 言われて私は霧雨魔法具店に足を踏み込んで……すぐに後悔した。

 足場の踏み場所も無い程に散らかった部屋が歓迎していたからだ。

 おまけに足元を這いずる得体の知れない虫のような何か。


「……帰っていい?」


「魔法使いの自宅を訪ねたら何か買わない限り帰れないんだぜ」


 どんな店だろうか? 

 魔理沙さんの眼が『逃がさない』っと物語っているから逃げられそうにない。


「分かったよ。それで魔理沙さんのおすすめは有る?」


「そうだなぁ。最近拾った不思議な道具が有るんだが……何処に置いたかな?」


 辺りを見渡して目的の道具を探る魔理沙さんの姿に苦笑が漏れる。


「どんな形のヤツ?」


「あー、少しゴツい四角でボタンが沢山付いてるヤツだ」


 私は聴いた手掛かりを元に周囲を漁り始めた。

 なんか呪われそうな仮面が出てきたわね。

 漁れば漁るほど不思議な物が出て来るわ出て来る。

 これはもしかして一日じゃあ発見できないんじゃ? なんて思っていると服に埋もれた中から四角い物体が出てきた。


「魔理沙さん。もしかしてコレ?」


「それだぁ!」


「コレってなんなの? 妖気とか全然感じないけど」


「そいつはオッデセイって言う外の世界の娯楽品らしい」


「外の娯楽品。どうやって使うの?」


「香霖が言うには、てれびとけーぶるに電力が必要らしい」


 よく分からないけど、コレ単体では使い道が無いのは分かった。

 だけど先輩なら欲しがるかな。


「じゃあコレにするわ。マジックアイテムじゃないけど」


「小兎姫が求めるマジックアイテムはそうそう無いからな」


「それで幾ら?」


 私は先輩から渡されていたお金を取り出すと、魔理沙さんは瞳を輝かせて。


「そいつはレア物だからな。値段は1円だ、1円が無いなら銭でも構わん」


 私は先輩から預かった財布の覗き込んだ。すると中身は大量の銭ばかりで1円の姿は無かった。

 銭を消費したかったのかな?

 1円となると100銭か、これが2円となると相当高い買い物になるところだったわ。


「これで足りるわね」


 私は100銭を手渡すと魔理沙さんは嬉しそうに毎度ありっと笑っていた。


「で、次はキノコ狩りか」


「うん。できれば食べても死なない程度のヤツ」


「お前さんは大抵のキノコは大丈夫だろ」


「先輩は普通の人間だから」


「アレで普通? 変わった人間の間違いだろ」


「行動と言動が可笑しいだけで中身は普通よ、多分」


 言ってて自信が無くなるのは何故?


「まあ良いさ、早くしないと日が暮れてしまう」


 魔理沙さんに急がされるまま、私は買ったオッデセイを風呂敷に仕舞った。

 それから森の中でキノコ狩りが始まったんだけど、魔理沙さんも知らない新種のキノコを発見してしまった。

 なんか黒くて邪悪な笑いを浮かべたような不思議なキノコで不気味だ。


「……食べたら美味しいかな?」


「わたしの勘だが、食べたら即死しそうだ。此処は大人しく美味しいキノコにした方が良いんじゃないか?」


 流石に毒キノコは持ち帰って人里で被害が出る可能性を考えると持ち帰れないなぁ。

 人里内で毒キノコが群生したらねぇ?


「うーん、それもそうね」


 私は魔理沙さんの言う通りに食べられるキノコだけを持ち帰ることにした。


「それが今回の成果よ」


 自警団の詰所で手に入れたオデッセイとキノコを先輩に拡げて見せると、彼女は喜んだ様子で手を合わせていた。


「中々良い物を手に入れてきたわね! この誰も使え無さそう感が素敵ね!」


「先輩に喜んで貰えてなにより」


「出来た後輩を持てて幸せだわぁ〜」


「って言ってもマジックアイテムじゃないけどね」


「珍品なら何でも良いのよ」


 ならそこら辺の石に珍とでも書いて渡せば喜ぶのかな?

 いや、流石に先輩も怒るかぁ。

 ちらりと先輩に視線を向けると、オッデセイを片手に満面の笑みを浮かべていた。

 まあ先輩が喜ぶなら何でも良いかな。

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