人里の収穫祭
今日は人里で収穫祭が行われる日だ。
農家が丹精込めて作った収穫物を振る舞い、来年の豊作を願う儀礼的な祭り……なんだけど、幻想郷の収穫祭は外の世界とは少し異なるようだ。
空に花火のような放たれる弾幕が外との違いなのかな?
私は見廻ながらそんな事を思っていると、
「秋穣子様がいらっしゃったぞ!」
「さあ! さあ! 皆の衆道を開けい! 穣子様のお通りだぁー!!」
威勢のいい声に人々は道を開け、穣子様が農家代表に連れられてお通りになる。
今年も農家代表が穣子様を特等席に案内して、彼女の前に収穫されたばかりの穀物が並べられた。
穣子様は穀物を吟味すると、人里に緊張が走る。
彼女は無農薬による栽培を好む。農薬を使い過ぎた畑から採れた作物は穣子様から不評を買う恐れが有る。
不評を買った農家は穣子様の手によって畑と田んぼを荒らされてしまうのだ。
……あと過去に収穫祭に呼ばなかったことが有るらしいけど、蔑ろにされた穣子様の手によって畑と田んぼは滅茶苦茶にされたらしい。
それ以来人里ではどんなことがあろうとも収穫祭には穣子様を呼ぶことを義務付けているそうだ。
「今年もいい出来栄えね。豊穣の神として来年の豊作を約束しましょう」
穣子様の満足そうな笑みに農家の人々は収穫物を両手に挙げ、
「穣子様の御加護を得たぞ!」
「さあ! 誰の収穫物が一番か決める時が来たぞ!」
農家の男性が叫ぶと農家は一斉に収穫物を持って、用意された調理場に向かう。
食材を渡された奥さん達が一斉に調理を始め、徐々に空腹を誘う匂いが漂うではないか。
「今年は何処の農家が優勝するのかな?」
「おっ、今年もやってるな」
魔理沙さんの声に振り向くと、そこには霊夢さんと早苗さんの姿が有った。
「今年こそ神奈子様が呼ばれると思ったんですけどね」
「人里は穣子を呼ぶって決めてるからねえ。なんも御利益なんて無いけど」
霊夢さんの鋭いツッコミに私は苦笑を浮かべた。
そして同時にこうも思った。
毎年霊夢さんを呼んだら確実に豊作が約束されるのでは?
いや、でも霊夢さんの神降しの結果によっては不作になるかもしれないんだ。
「秋穣子様の方が悩む必要がないのかな?」
「そうよ絢音ちゃん。誰だって凶作を伝えられたくないでしょう」
「なるほど、これでずっと疑問に思ってたことが解消されたよ」
私と霊夢さんがお互いに笑い合うと、魔理沙さんと早苗さんが、
「そういえば小兎姫は居ないのか?」
「今日はまだ見てませんね」
私は祭りを楽しむ人々に視線を向け、その外れで様子を見護る先輩の姿を見付ける。
「先輩ならあそこに居るよ。一応私と先輩はお互いに見える位置で見護ってるからね」
「あっ、あそこに居たんですね」
早苗さんは先輩の姿を確認すると、そちらに歩いて行った。
前に不当逮捕されたのに自分から近付くなんて、やっぱり早苗さんは変わってるなぁ。
「早苗のヤツ、よく小兎姫に近付けるわね。私は逮捕されないか心配なんだけど」
「霊夢、罪を犯したら捕まるのは当然だぜ」
「泥棒のあんたに言われたくないわよ!」
「あっ! そういえば魔理沙さんに対する被害届けが沢山届いてるんだった」
主にアリスさんと紅魔館のパチュリーさんからだけど、なぜ二人は直接来ずいつも魔法を介して被害届を提出するのかな?
単に里に来るのが面倒なだけだとは思うけど。
「げっ! き、今日は祭りだ。私を捕まえたりはしないよな?」
「うーん、魔理沙さんを捕まえても盗んだ物は取り返せないしなぁ。だから大人しく魔理沙の亡き後で回収させて貰うよ」
「是非そうしてくれ」
全く詫びれる様子の無い魔理沙さんに、私は思わず溜息を吐く。
これでも以前と比べると魔理沙さんは泥棒をしなくなった。もうする必要がない程に盗んだのかもしれないけど。
「絢音ちゃんは魔理沙にも甘いわねぇ」
「そうかな?」
「そうよ、芋羊羹並みに甘いわぁ〜」
「そう言われると芋羊羹が食べたくなちゃうなぁ〜」
霊夢さんとそんな会話を繰り広げると、調理台の方から。
「みんな遠慮せずに食べて!」
「ウチのさつま芋で作った煮っ転がしも絶品だよ!」
「なんの! こっちは肉じゃがよ!」
次々と完成された料理に人々が集まりだす。
私達も早速行列に並んでは、収穫された作物で作った料理を堪能するのだった。
私がふと視線を向けると、聖白蓮さんをはじめとした命蓮寺の方々や妹紅さんに慧音先生。
永遠亭の方々に射命丸文さんが料理に舌鼓してるではないか。
改めて見ると色んな人種が集まったものだ。
人里の祭りは人間の祭りだと言われてるけど……これは幻想郷の祭りね。
「人も妖怪も神様も、みんな祭り好きだよね」
「それにお酒と宴会もね。アイツらは呼ばなくても勝手に集まって来るもんよ」
霊夢さんの溜息に私は何とも言えず、受け取った芋羊羹にひと口付ける。
芋のしつこい甘さを感じさせず餡の絶妙な甘さが凝縮された芋羊羹に、私の頬が溶けるように緩んだ。
そしてひと口サイズの芋羊羹を霊夢さんに差し出して、
「これ! すごく美味しいよ!」
霊夢さんは芋羊羹を食べると、一瞬で彼女の頬が緩むではないか。
そんな様子を見ていた人達が次々と芋羊羹に殺到する。
こうして収穫祭は夜まで続き、翌日の朝には酒盛りで酔い潰れた農家の人達で広場が埋め尽くされるのであった。